タイトル未定2025/11/18 08:13
大地が俺を連れて行った場所は、紀子が使っていた部屋だった。
紀子の部屋は、生前と変わらないままだった。
あまり物が置いてなく、殺風景な淋しい部屋。
俺と大地は、紀子の部屋に入って行った。
「あの頃のままにしてあるんだ」
俺は部屋の中を、見渡した。
ふとテーブルの上に置いてあった、ハートのネックレスと黒いリストバンドが、目の中に入った。
俺の背後から、大地の声が聞こえた。
「このネックレス、ボーズさんが姉ちゃんにプレゼントしたんでしょ」
「うん」
「姉ちゃんが、黒いリストバンドを持っていたのには驚いたけど。もしかして、このリストバンドボーズさんの?」
「うん。紀子のリストバンドと、交換したんだ」
そう言って俺は、持ってきた紀子のピンクのリストバンドを、黒いリストバンドの横に置いた。
「なんだか、姉ちゃんとボーズさんが一緒にいるみたいだ」
初めて紀子と植物園に行った時、俺が紀子にプレゼントをしたネックレスが、紀子の首下で揺れていた。
リストバンドを交換した俺は、紀子のリストバンドを手首にはめ、紀子に見せた……。
「大地君……独りにさせてくれないか?」
「えっ?」
「紀子と、ふたりだけになりたいんだ」
大地は、静かに部屋から出て行った。
ずっと側にいると約束してくれた紀子を、俺は守ることができなかった。
そのことが、悔やまれる。
どんなに紀子のことを想っていても、目の前に紀子はいない。
そして、俺は生きている。
「紀子……」
俺は手にしたネックレスを頬にあて、声を殺して泣きだした。




