タイトル未定2025/11/18 08:06
「お茶が入りましたよ」
その声で、俺は我に返った。
長いこと、仏壇の前にいたようだ。
俺は立ちあがると、ソファーに座っていた大地の隣に座った。
テーブルの上に置かれたお茶をゆっくり飲んでいると、母親は父親の隣に座った。
湯呑をテーブルの上に置くと、大地が切り出した。
「ボーズさん、どうして来てくれなかったんですか?姉ちゃんが病室で息を引き取ったあの日、ボーズさんに姉ちゃんのティーシャツを渡しながら、ボーズさんに『葬儀には、必ず来てください。姉ちゃんに最期の別れをして下さい』って俺言ったよね」
俺を責める大地に、父親が口を挟んだ。
「大地、無理なことを言うんじゃない。ボーズ君の気持ちを考えろ」
「それでも、来てほしかった!葬儀が終わっても、ボーズさんが来るのを、俺はずっと待っていた!」
「俺も、もっと早く来たかった。でも、できなかった」
「どうして?」
「俺は鬱病を患ってしまい、出歩くことが出来なかった」
「鬱病?」
俺はしばらくの間、下を向いていた。
下を向いたまま、淡々と切り出した。
「俺は、紀子の死を受け入れることができなかった。自分の部屋に引きこもり、大地君から受け取った紀子のティーシャツをハンガーに吊るして、いつも話しかけていた。苦しくなると、意味もなく大声を出した。発作的に、夜中に突然徘徊したこともあった。母親は、眠れぬ日々を過ごしていた。母親は俺を病院に連れて行ったけど、病院に連れて行こうとする母親に対し、俺は大声を出して暴れた」
湯呑を掴んだ俺は、お茶を一気に飲み干した。
「病院に行ったら入院生活を余儀なくされて、絶えず母親が俺の側にいてくれた。母親には、苦労や迷惑ばかりかけたよ。少しずつ回復した俺はやっと大学に復帰し、カウンセリングを受けたり薬を飲んだりして、通院しながら大学に通い、無事大学を卒業して今の会社に就職することが出来ました」
今までのことを全て話した俺は、恥ずかしさと情けなさで、顔を上げることが出来なかった。
初めて、このことを口にした。
こんなこと、誰にも言えない。
静まり返った部屋の中、大地がぽつりと言った。
「俺なんかよりも酷い……」
俺は、そっと顔を上げた。
「……大地君は?」
「姉ちゃんがいなくなってから俺も引きこっていたけど、そこまで酷くなかった」
「そうだったんだ」
……辛い思いをしているのは、俺だけじゃなかった……。
「約束を、果たせなくてごめん」
「でも来てくれた。ありがとう」
母親の泣く声が、微かに聞こえた。
「もう、身体は良いのかい?」
父親が、そっと聞いてきた。
「はい。今は、普通の生活を送っています。病院通いも終わりました」
「そうか。それを聞いて、安心した」
父親は、笑顔を見せた。
変わらない父親の笑顔に、俺は懐かしさを覚えた。
「ボーズさん!来てよ!」
突然大地がそう言って、ソファーから俺を立たせた。
俺は大地に連れられて、居間から出て行った。




