タイトル未定2025/11/18 08:01
日曜日俺は大学時代の彼女、水島紀子の家に行った。
ガレージには、車が置いてあった。
俺はしばらくの間、車を眺めていた。
二度、紀子の運転で乗った車だ。
ゆっくり深呼吸をしてから、インターホンを鳴らした。
しばらくして、白髪が目立った小柄な婦人が出てきた。
あまりの変わりように、俺は目を疑った。
以前は、もっと若々しくて可愛らしい女性だったのに。
婦人は俺のことを、怪しげな人物を見る目になっていた。
……俺のことを、忘れてしまったのか?……。
俺は、落胆した気分になった。
どうやって、言ったら良いのだろう。
その時、玄関の目の前の部屋のふすまが開いた。
中から、背が高く大柄な男性が出てきた。
「誰?」
男性は婦人に聞きながら、俺の方を見た。
「久しぶり……大地君」
俺がそう言うと、大地の表情が変わった。
「ボーズさん!」
男性は、紀子の弟の水島大地。
そして婦人は、紀子と大地の母親。
大地が「ボーズ」と言ったので、母親は俺のことを思い出したようだ。
「まぁ!ボーズさんだったの……ごめんなさい。すっかり変わってしまって、わからなかったわ」
無理もない。
あの頃の俺は、うっとうしいほど前髪を伸ばしていた。
紀子に『前髪……邪魔じゃない?』と、言われたほどだ。
今の俺は髪の毛をバッサリ切って、短髪になっている。
「こんにちは。突然来て、すみません。ご無沙汰しています」
「ボーズさん、あがって!」
大地が俺の腕を引っ張った。
玄関を上がると、大地に背中を押されながら、俺は居間に向かって歩いた。
居間のソファーでは、紀子の父親がぼんやりテレビを見ていた。
俺が居間に入ると、胡散臭げな目で俺を眺めた。
そんな父親に、大地が言った。
「おやじ!ボーズさんだよ!」
大地の言葉で、父親の表情がみるみる変わった。
俺のことを、思い出してくれたようだ。
父親は震える両手で、俺に握手を求めた。
俺は両手を差し出した。
「……ボーズ君。待っていたよ」
たったひとこと、そう言っただけだった。
父親の髪の毛は真っ白くなっていた。
体が大きかった父親なのに、なんだか小さく見える。
居間の片隅に、小さな仏壇があった。
俺は、大地をそっと見た。
大地は俺の言いたいことがわかったのか、小さく頷いた。
俺はゆっくり仏壇の方へ行き、仏壇の前で正座をした。
持ってきた菓子折りをカーペットの上に置き、線香を焚いて鐘を鳴らし、両手を合わせ目をつぶる。
ゆっくり目を開けると、そこには笑顔の紀子がいた。
この写真は、仲間たちと一緒に撮った写真だ。
……遅くなって、ごめん。
やっと、会いに来たよ……。




