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タイトル未定2025/11/17 22:54

 健康ランドのオープニング・セレモニーは、爽やかな秋晴れの中行われた。

 関係者が駆けつけ、更には地元のメディアも来ていた。

 正直オープニング・セレモニーは、退屈の何物でもなかった。

 俺は睡魔と空腹に必死に戦っていた。

 無事にオープニング・セレモニーを終え、会社に戻った頃にはすっかり陽が西に傾いていた。

 残業を終えた俺と桐野は一緒に職場を出て、パソコンで検索したbarに向かった。

 一度だけ行ったbarは、繁華街の裏通りにひっそりとたたずんでいた。

 そっとドアを開け、barの中に入る。

 barは、カウンターとふたつのテーブル席しかない小さな店だった。

 店の奥のテーブル席に、男女の先客がいたので、俺と桐野はドアの近くのカウンター席に座った。

 最初にビールを注文して、グラスを持った。

「健康ランドの仕事、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

 そう言った後お互い『乾杯!』と言って、グラスを重ねた。

 微かに音が響いて、俺と桐野はビールを飲んだ。

「お腹空いたでしょ。何か頼みましょうか」

 そう言った桐野は、カウンターの中にいたバーテンダーにメニューをもらった。

 桐野とメニューを眺め、いくつかの料理と追加のアルコールをオーダーした。

 食事をしながら、桐野と仕事の話で盛り上がった。

 やはり、健康ランドの話がメインとなった。

 それだけ、健康ランドの仕事は感情深いものがあった。

 

 食事を終え、barを出た時俺はbarを振り返りながら桐野に言った。

「このbar彼女とふらりと入った店なんですよ」

「彼女?石田君、やっぱり彼女がいるんじゃない。彼女がいるのに、私と居ていいの?」

「もう、彼女は居ません」

「えっ、居ないって、別れたの?」

「嫌われて、納得して別れたなら、こんなに引きずったりしません。彼女は、もうこの世にいません」

「亡くなったの?病気?」

「事故……かな」

 本当は、事故なんかではなかったが、俺は「事故」とあいまいに言って歩き出し、近くにあったバス停のベンチに座った。

 バスは既に、運行業務を終えていた。

 桐野が俺の隣に座り、俺は夜空を見上げた。

 あの日と同じように、月が青白く光っていた。

「事故って、交通事故?」

「事故……と言うか。その時、俺は彼女の側にいた」

 救急車を呼んだ後、警察が駆けつけてきた。

 俺は、警察署で色々聞かされ、病院に着いたのは夜遅くだった。

「彼女の側にいたのに、俺は彼女を守ることができなかった」

 しばらく黙った後、桐野は思い出したように言った。

「今、やっとわかった。『海、見たかった』って言ったのは、彼女と見たかったってことなんだ」

「彼女との約束を、果たすことができなかった」

「亡くなった彼女のことがあったから、石田君は桃子の好意に応えなかったのね」

「と言うか、友田さんが俺を見るように、俺も同じように彼女を見ていた。友田さんが俺を見るたび、あの頃の自分を思い出して友田さんと一緒にいるのが、苦しかった」

 固く心を閉ざした紀子が、いつも気がかりだった。

 紀子の笑顔を見たい。

 紀子の側にいたい。

 ずっと、そう思っていた。

 だから、紀子の昔の異性関係に、嫉妬をしたりもした。

 俺は桐野の背中に腕をまわし、桐野の肩を抱いた。

 桐野は、抵抗しなかった。

「前にも聞いたけど、私を見ていたわよね。どうして?今度は、はぐらかさないでちゃんと教えて」

 紀子は背は高いほうだが、桐野の方が背は高い。

 紀子のヘアスタイルは、茶髪のセミロングだった。

 桐野は、黒髪ロングヘアで、容姿は全く似ていない。

「桐野さんが時々見せる、子供っぽい仕草や、あどけない笑顔が彼女に似ていて、桐野さんが笑うたび思わず見ていました」

「それで、私を見ていたのね」

 桐野の笑顔が紀子と重なり、言いたくても言えなかった。

「好きです、桐野さん。ずっと言いたかった。でも、昔の彼女を想い続けながら、桐野さんとつきあうことなんてできない」

「石田君の本心を、教えてくれてありがとう。でも……」

「でも、何?」

 桐野は、俺の肩にもたれた。

「妬けるなぁ。石田君に、想われた彼女に妬ける」

 俺は桐野をさらに抱き寄せ、夜空に浮かぶ月を見上げていた。


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