表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

タイトル未定2025/11/17 22:43

 やらなくても良いと桂子に言われたが、俺は洗い物をする桂子を手伝った。

 風呂からあがったアッシーはリビングで、娘に絵本の読み聞かせをしていた。

 あの頃だったら、想像ができないアッシーの姿だ。

 台所で洗い物をしながら、桂子はそっと切り出した。

「あのね……」

「はい」

「私、ずっと言いたかったことがあるの」

「なんですか?」

「私が出産したってメールを、あつしさんがボーズ君に送ったのに、どうして来てくれなかったの?」 

 俺は洗った食器をカゴの中に入れ、思わず流し台につかまった。

 目の前がぐらりと揺れて、立っているのがやっとだった。

「私、ずっと待っていたわ。ううん、私だけじゃない。あつしさんも、亜希ちゃんたちも」

「メール、読みました。凄く嬉しかった」

 すぐ、駆けつけたかった。

 だけど、できなかった。

 

 洗い物を終えて桂子とリビングに行くと、アッシーの膝の上で娘が眠そうな顔をしていた。

 テーブルの前に腰を下ろすと、アッシーが聞いてきた。

「ボーズ、なんの仕事をしているんだ?」

「浴槽会社で働いています」

「ずっと、そこで働いているのか?」

「二年目です」

「仕事には、慣れたか?」

「まぁ……」

 今度は、桂子が聞いてきた。

「ボーズ君、彼女いるの?」

「いません」

 きっぱりそう言うと、アッシーと桂子は不安な表情をした。

 そのことに気が付いた俺は、慌てて言った。

「俺、一生独身かも。それなら、それで良いや」

「ボーズ、本当にそれでいいのか?」

 俺は、アッシーと桂子をさらに不安にさせてしまった。

 そのことに気が付いた俺は、慌てて話題を変えた。

「アッシー皆とは、会っているの?」

「ああ、たまにな。まだ、ライヴをやっているぞ。ボーズは?楽器は?」

「もうやっていないよ。家と会社の往復をしているだけだよ」

「もったいないな」

「うん、もったいないね。皆元気?皆は普段、何をしているの?」

「リーダーは、リーマン。阿部は、米屋の仕事をしているぞ。米を、配達してもらっているよ」

「えっ!阿部君が、米屋の仕事?」

「知らなかったのか?阿部の家は、米屋なんだぞ」

「米屋!知らなかった!」

 驚きながら、俺はアッシーと桂子の娘に「おいで」と、両手を伸ばした。

 アッシーの娘は、笑顔で俺の方に来て、あぐらをかいていた俺の足元にちょこんと座った。

 俺はアッシーの娘の髪に触れながら、アッシーの娘に向かって言った。

「可愛いなぁ。名前は、なんて言うのかなぁ?」

 アッシーの娘は、笑顔を見せるだけだった。

 突然、桂子が言いだした。

「娘の名前は、紀子のりこって言うの」

 桂子の言葉に、部屋の中が静まり返えった。 

 その沈黙を破るように、俺は言った。

「そうなんだ。紀子って言うんだ。紀子ちゃん初めまして、ボーズだよ」

 そう言った俺は、ちらりと桂子を見た。

 桂子の目から、今にも涙が零れ落ちそうだった。

「桂子さん、泣かないでね。桂子さんが泣いたら、俺まで泣きそうだから」

 アッシーと桂子の娘の紀子を、俺はそっと抱きしめた。

「紀子ちゃん、良い名前をつけてもらって良かったね。紀子ちゃん、いっぱいいっぱい幸せになるんだよ」

 俺は、しばらくの間紀子を抱きしめていた。

 桂子は唇をかみしめて、泣くのを必死にこらえていた。

「桂子さん、泣かないでね。俺は、泣きたくないから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ