タイトル未定2025/11/17 22:36
車はアッシーのアパートに着き、俺は車から降りた。
そう言えば、アッシーのアパートに行くのは、これが初めてだ。
アッシーは、部屋のドアを開けるなり声を上げた。
「ただいま!今日は、珍しい客を連れてきたぞ!」
言いながらアッシーは、靴を脱いで部屋に上がった。
玄関口に突っ立っていた俺に、気がついたアッシー言った。
「早く来いよ」
アッシーに言われ、やっと靴を脱いで部屋に上がった。
その時アッシーの妻、桂子がやってきた。
「いらっしゃい!どうぞ」
「こんばんは……お邪魔します」
俺の顔をじっとみつめている桂子は、あの頃より更に美しくなっていた。
「嘘……ボーズ君?」
「……お久しぶりです……桂子さん」
桂子は両手で口を塞いだまま、立ち尽くしていた。
「たくさん食べてね」
テーブルの上には、桂子が作った料理が並んだ。
「すみません。突然やってきて」
「いいのよ。じゃあ、食べましょうか」
桂子の言葉に、皆で『いただきます』と言ってから、箸を持った。。
アッシーと桂子の子供は、小さなイスに座ってご飯を食べるのに悪戦苦闘をしている。
側でアッシーが、甲斐甲斐しく世話をしていた。
あの沈着冷静な男が、子供の世話をしている風景を、不思議な気持ちで俺は見ていた。
桂子が出産したことは知っていたが、出産した子供がこんなに成長していたなんて。
やっぱり、時間は流れている。
アッシーの子供は女の子だった。
女の子はよく父親似だと言うが、上手い具合に両親の良いところを受け継いでいた。
「娘さん、なんて名前ですか?」
「ボーズ君、おかわりは?遠慮しないでね」
「はぁ……じゃあ、お願いします」
俺からお茶碗を受け取った桂子は、立ち上がって台所の方に行った。
アッシーの方を見ると、娘の口元をティッシュで拭っていた。
「どうぞ」
言いながら桂子は、俺の前にお茶碗を置いた。
「ありがとうございます……桂子さん、子供の……」
「突然来るんだもん。びっくりしちゃった!」
名前を聞こうとしたら、さえぎるように桂子は言った。
……何故、名前を教えてくれないのだろう?言いたくないのか?……。
諦めた俺は、桂子の会話に乗った。
「突然来て、すみません。昨夜スタンドでアッシーを見かけたら、二人に会いたくなって来てしまいました」
「昨日スタンドで?ちょっと、私に何も教えてくれなかったじゃない!」
桂子は、アッシーを軽く睨んだ。アッシーは、聞こえないフリをしていた。
やがて食事が終わり、アッシーは娘に言った。
「さぁ片付けたら、パパとお風呂に入ろうね」
俺は思わず、吹き出しそうになった。
アッシーは娘と台所へ行ってお茶碗を運び、そのまま浴室に向かった。
俺と桂子の二人だけになり、俺は思わず桂子に言っていた。
「信じられない……アッシーが、自分のことパパって言った!」
俺の言葉に、桂子は大笑いをした。
「でしょ!もう恥ずかしいくらい、親バカはいっているの!」
「あのアッシーがねぇ」
「でも……ボーズ君がスーツを着て、ネクタイをしているなんてね」
桂子は、俺の服装を見ながら言った。
「おかしいですか?」
「ううん。似合ってるわよ、すっかり社会人になって。あの頃のボーズ君は、まだ学生だったものね」
桂子は、思い出すように言った。
大学生の俺……忘れたいのに、忘れたくない過去。




