タイトル未定2025/11/17 22:01
友田と水族館に行く日になり、俺はまちあわせ場所に向かっていた。
白い帽子をかぶり薄い桃色のワンピースを着た友田が、待ち合わせ場所に既に来ていた。
友田は、笑顔で俺を迎えてくれた。
「おはようございます」
「おはよう、待ったんじゃない?」
「大丈夫です」
待ち合わせ場所から、高速バスの停留場に向かうと、バスは既に停留所に待機していた。
土曜日のせいか、大半の客で座席は埋まっていた。
俺と友田は、前の方の席に座った。
車内から青空が見える。
友田は、水族館のパンフレットを見ていた。
「石田さんは、何が楽しみですか?」
「そうだなぁ……」
言いながら俺は、友田が手にしていたパンフレットをのぞきこんだ。
その時、友田がつけていたネックレスに俺は気が付いた。
だまったままネックレスを見ていると、友田が嬉しそうに言った。
「石田さんと雑貨屋に行った時に買ったネックレスです。このネックレスをつけて、石田さんと出かけることができて嬉しいです」
友田がつけていたネックレスを見た俺は、早くも気分が沈んできた。
高速バスを降りて、路線バスに乗り換えた。
バスは、商店街を抜け山道を走る。
窓から海が見えた。
海は、太陽の光に反射して眩しかった。
バスを降りると、目の前には青い海と水族館があった。
天気が良いせいか、駐車場にはたくさんの車があった。
既にチケットを持っていたので、受付にすんなり通ることができた。
ゲートを抜け、薄暗くひんやりとした館内に入る。
館内では大きな水槽の中で、魚達が何かを探すようにゆっくり泳いでいた。
その姿は、淋しい感じだった。
大きなエイが、ゆっくり水槽の中を泳いできた。
薄暗い水槽の中に、引き込まれる気分だ。
まるでエイと一緒に、泳いでいるような……。
水槽に友田が映り、ネックレスが目の中に入る。
現実に戻るように、俺は友田に言った。
「もうじき、イルカショーが始まるよな。今から行けば、良い席が取れるんじゃないかな」
「そうですね」
館内から逃げるように、俺は歩き出した。
外に出ると、広い観客席の目の前には、大きなプールが設置されていた。
メインイベントのイルカショーはまだ始まっていなかった。
早めに来たせいか、観客もまばらだった。
「ここからなら、よく見えますね」
周りを見渡しながら友田が言った。
「見晴らしは良いけど、ここだと水をかぶることができないなぁ」
「水を、かぶりたかったんですか?」
「テレビでよく観客が水をかぶっているじゃん。あれ、一度やってみたいんだよ」
「ずぶ濡れになるじゃ、ないですか」
「気持ち良さそうじゃん」
俺がそう言うと、友田は笑った。
「あらっ、いつの間にかたくさん人が入っている」
友田の言葉に、俺も周りを見渡した。
友田の言う通り、観客席はほぼ埋まっていた。
やがて、イルカに乗ったインストラクターが現れ、観客席から大きな拍手と声が広がった。
「凄かったですね。イルカが、賢くて可愛いかった。インストラクターは、かっこよかった」
「ホント、大迫力だった。やっぱ、水をかぶりたかったなぁ」
俺の言葉に、友田は笑った。
水族館を出た後、このあとどうしようか?と、歩きながら考えていた時だった。
「桐野さんと、仲が良いですね。昨日の給湯室で、桐野さんと仲よさげで、とても楽しそうでした」
友田の言葉で、給湯室に桐野と一緒のところを、友田に見られていたのを、俺は初めて知った。
「仲が良いって、一緒に仕事をしているだけの仲だろ」
「それだけですか?いつも、桐野さんと楽しそうです」
何も言わない俺に、友田は慌てて言った。
「桐野さんが羨ましくてつい。すみません!」
俺は黙ったまま、歩いていた。
黙ったまま歩いていると、海が見えてきた。
海の側には小さな店があり、店の前にはテラス席があった。
手軽に食べれる軽食や飲み物を買い、テラス席で、海を眺めながら食べた。
食べ終わった後、黙ったまま海を眺めた。
「俺の何処が良いの?」
「えっ?」
不意に言った俺の言葉に、友田は驚いた表情で俺をみつめた。
「人付き合いや、相手の気持ちを察するとか、そう言うの苦手だし。俺とつきあっても、幻滅するだけだよ」
「私も、人付き合いが苦手です。でも、石田さんと一緒にいると楽しいです。石田さんともっと、一緒にいたいです」
俺が黙り込んだまま海を眺めていたせいか、友田は少し居心地が悪そうだった。
「あの、石田さん」
「帰ろうか」
「えっ?」
俺は友田の返事を待たず、立ち上がって歩き出した。
帰りの路線バスや、高速バスの中でも、俺は黙り込んでいた。
俺が黙り込んでいたせいで、友田は話しかけてこなかった。
高速バスを降り、人混みの中を歩いている時俺は立ち止まった。
立ち止まった俺に気がついた友田は、慌てて俺の側に戻ってきた。
「石田さん、どうしたんですか?」
俺は人混みを避け、歩いていた歩道から建物に背もたれて立った。
友田は、俺の隣に立った。
俺は、空を見上げた。
夕陽が沈みかけ、辺りは暗くなりつつあった。
「ごめん。俺、無理だわ。友田さんとつきあうの」
「……どうして?私のことが嫌いですか?」
「嫌いなわけないじゃん」
「じゃあ、どうして?しつこく、桐野さんのことを言ったからですか?それとも、桐野さんのこと……」
「そうじゃなくて!」
俺は友田の言葉をさえぎって、友田と向き合って言った。
「そうじゃなくて、女の人とつきあう自信がない」
友田は、必死に涙をこらえていた。
その姿が、痛々しい。
「友達みたいなつきあいはダメかな?照みたいな」
「友達……」
友達……。
なんて勝手で、都合が良い言葉なんだ。
俺と友田は黙ったまま、夜の繁華街を歩き出した。




