タイトル未定2025/11/17 21:55
総務部に行ってファイルを預かってきた友田は、いろんな部所を見ながら廊下を歩いていた。
……石田さん。桐野さんのことをどう想っているのかしら……。
昨日、俺と桐野が笑いながらロビーを歩く姿を思い出した友田は、苦しくなっていた。
そんな友田の目の中に、給湯室の中に入って行く俺と桐野の姿が飛び込んだ。
友田は慌てて柱の影に隠れた。
俺と桐野の姿は見えるものの、何を話しているのか、会話までは聞こえなかった。
ストーカーじみた行為なんて、恥ずかしいと感じながらも、友田は柱の影から離れることができなかった。
俺と桐野は、給湯室の流し台で一緒に並んで、使った湯飲みや急須を洗っていた。
洗い終えた後、乾いた布巾で水気をふき取り、湯呑をカゴの中に入れた。
洗い物が終り、桐野はハンカチで手を拭きながら言った。
「健康ランドに浴槽が入ったら、視察に行かないとね」
「あっ、それは楽しみだな。いやぁ緊張したぁ!」
工場から来た主任と部長が帰って、俺は肩の荷が下りた気分だった。
そんな俺に、桐野は笑いながら言った。
「説明する時、声がふるえていたもんね」
「もうそのことは、忘れて下さい」
「額は大丈夫?」
「あぁ……それも忘れて下さい」
情けない俺の声に、桐野はくすくす笑った。
笑いを収めた桐野は顔を近づけると、俺の額をまじまじとみつめた。
「まだ腫れているわね」
「目立ちますか?」
「額だからね。絆創膏貼る?私、持っているわよ」
「絆創膏を此処に?」
俺と桐野はしばらくの間みつめあい、お互いに吹きだした。
「それ、余計に目立ちますよ!」
桐野は俺に寄りかかり、俺と桐野は大爆笑をした。
笑い終わった後、顔を上げた桐野は友田の視線に気が付き、笑うのをやめた。
俺は友田の視線に、気付きもしなかった。
「桐野さん?」
桐野は、俺から離れて慌てて言った。
「私、先に行くね」
桐野は足早に、給湯室から出て行った。
わけがわからない俺は、遠ざかる桐野の背中をみつめていた。
「石田さん」
名前を呼ばれ振り向くと、友田が立っていた。
「友田さん?この階にいるなんて、珍しいね」
「総務部に行って、ファイルを預かってきた帰りです」
たくさんのファイルを友田は、抱えていた。
「そうなんだ。じゃあ」
俺は、友田から離れようとした。
友田は、慌てたように俺を呼び止めた。
「あの、水族館に行きませんか?」
「水族館?」
「チケットが、二枚あるんです」
「俺じゃなくても」
「石田さんと、行きたいんです!」
必死な友田の訴えに、俺は頷いていた。




