タイトル未定2025/11/17 21:26
翌日俺は台所のテーブル席で、母親と朝ご飯を食べていた。
昨日遊びに来た兄夫婦は、夕飯を食べた後帰っていった。
帰り際道子が、真理乃と遊んであげたことに、何度もお礼を言った。
「子供と遊ぶのって、体力いるね」
「そうよ。あんたも結婚したら、嫌でも遊んであげなくちゃいけないのよ」
「そういうことは、結婚が決まってから言ったら?」
「そういう相手は、いないの?」
「いたら、母さんと一緒に朝ご飯なんて食べないよ」
俺がそう言うと、母親は笑った。
「今日ちょっと、出かけるよ」
「出かける?珍しい!遅くなるの?」
「そんなに、遅くならないよ」
「珍しく出かけるんだから、ゆっくりしたら」
「ごちそうさま」
俺は立ち上がり、食器を洗って自分の部屋に行った。
待ち合わせの場所に、友田はすでに来ていた。
「ごめん、待たせちゃって」
友田は首を横に振り、申し訳なさそうに言った。
「仕事中個人情報を扱っていたら、石田さんの携帯番号が目にとまって。石田さんと一緒に映画を観に行きたくて、いけないとわかっていたけど電話をしてしまいました。すみません」
友田は深く頭を下げた。
やっぱりな、そんなことだと思った。
不用意に電話に出たのは自分だし、友田を責める気持ちはひとつもなかった。
映画を観に行くだけだから。
そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えた。
「気にしなくていいよ。映画、そろそろはじまるんじゃない?」
「はい」
俺と友田は、映画館に向った。
映画館は、そこそこの人の入りだった。
映画は洋画で、風景が綺麗なラブストーリーだった。
見終わった後、友田は映画の余韻に浸っていた。
上映中寝ていたわけではないが、正直どんな内容だったかあまり覚えていない。
映画も観たことだし、このまま帰ろうと思っていた時、友田が言いだした。
「お昼、何処かで食べませんか?」
「そうだね」
断れないまま、俺は友田の言いなりになっていた。
「何処が、良いかな……あ、あの店なんて、どうです?」
「うん」
正直、店なんてどうでもよかった。
早く独りになりたかった……。
友田と二人で、洋風で可愛らしい感じの店に入る。
店に入ると、窓側の席に案内された。メニューを眺め、オーダーを済ます。
俺は、窓の外から行き交う人々をぼんやり眺めていた。
外は青空が広がり、青空の下をいろんな人たちが歩いている。
「石田さん」
俺を呼ぶ声に、我に返った。
「あの……ラインの交換をしても良いですか?」
今後、何度も携帯が鳴るのはわずらわしい。
何より、断る理由が見つからない。
友田とライン交換をした後、オーダーした料理が運ばれてきた。
ウエイターがいなくなると、友田が切り出した。
「無理矢理聞いて、すみません」
「いいよ。それより、食べよう」
俺と友田は、食事を終え店を出た。
このまま帰ろうと思っていた矢先、目にとまった洋服屋に行きたいと友田が言った。
あまりそっけないのも……と思い直し、俺は友田と洋服屋に入って行った。
友田は店内をまわって見ただけで、洋服は買わなかった。
洋服屋を出た後、雑貨屋に行った。
広い店内は、圧倒的に女性客が多かった。
肩身が狭い俺は、なるべく隅の方にいた。
アクセサリーコーナーで、友田は立ち止まった。
「わぁ、これ可愛い!」
友田が手にしたアクセサリーは、小さな白い花のネックレスだった。
友田は、しばらくネックレスを眺め購入した。
雑貨屋を出た後、友田は購入したネックレスを大事そうにハンドバックにしまった。
そんな友田を、俺は放心状態で眺めていた。
「石田さん、具合が悪いんじゃないんですか?顔色がよくないですよ」
「ごめん、なんかちょっと疲れた」
「大丈夫ですか?」
「悪いけど、帰っていいかな」
「無理に誘って、すみませんでした」
俺に気遣う友田に首を横に振り、足早に友田から離れた。
友田と別れ、家に向かって歩いている道中、鼓動が激しくなり胸が痛くなった。
街中の騒音さえ、聞こえなかった。
家に戻った俺は自分の部屋に入り、空いていたカーテンを閉めた。
部屋は暗くなり、俺はベッドに背もたれて膝を抱えて座った。
友田が買っていた、ネックレスを思い出す。
友田は、気に入ってネックレスを買った。
それだけだ。
そんなことは、わかっている。
これが違うものを買ったのなら動揺はしない。
でもよりによって、なんでネックレスなんだ!
大声をあげそうになり、慌てて両手で口をふさいだ。
呼吸が苦しくなり、ゆっくり息を吸って吐いてを繰り返す。
少しずつ呼吸ができるようになった俺は、床の上に倒れこんだ。
ラインの着信音が鳴ったことには、気が付かなかった。




