タイトル未定2025/11/17 09:05
突然体の上に、何かが乗っかってきた。
「うっ!」
そのおかげで、俺は目を覚ました。
手を伸ばして携帯をつかみ、表示されている時間を見ると、もう昼近かった。
……もう、こんな時間……。
つかんだ携帯を、充電器に戻した。
いつの間にか、爆睡していた。
ところで、乗っかってきた正体は……。
「かっちゃん!」
真理乃 (まりの)だった。
そう言えば、兄夫婦が来るんだった。
「真理乃ちゃん……おはよう」
俺は、寝ぼけまなこで言った。
「こんにちは!まだ、寝ているの?」
「もう、起きるよ」
伸びをした後ベッドから降り、ティーシャツとジーパンに着替えた。
洗面所で、顔を洗ってひげを剃る。
その間真理乃はずっと俺にくっ付き、俺の足元でぺらぺら話をしている。
五歳の真理乃は、幼稚園の年中児。
幼稚園が大好きな子だ。
ひげを剃り終えた俺は、真理乃を抱っこした。
「わ~い、たか~い」
「いこっか」
真理乃を抱っこしたまま台所に行った。
台所では真理乃の母親の道子が、スーパーの袋から買ってきたものを出して、テーブルの上に並べていた。
「あら、かっちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
「まぁ、真理乃。かっちゃんに、抱っこしてもらっているの」
「うん!」
「……やだ、ハム買うのを忘れちゃった!」
「俺、買ってきますよ」
「良いかしら……」
「良いですよ。真理乃ちゃん、一緒に買い物行こうか?」
「行くぅ~」
「すみません。真理乃、かっちゃんの言うことよく聞くのよ」
「は~い!」
側で聞いていた母親が、財布からお金を出して俺に渡した。
「じゃ、これで買ってきて」
「うん」
俺は真理乃を下ろして、お金を受け取った。
俺は真理乃と手をつないで歩き、近くのスーパーで買い物を済ませた。
帰る途中真理乃は、雑貨屋の前で足を止めた。
表のワゴンの中には、小さな可愛いハンカチが並んでいた。
「わー可愛い!」
真理乃は背伸びをして、一生懸命ハンカチをながめた。
俺は真理乃を抱っこした。
「可愛い!」
真理乃は無心に、ピンクのハンカチを見ている。
「欲しい?」
そう聞くと、真理乃はためらいがちに小さくうなづいた。
雑貨屋から出た時、真理乃は笑顔でお礼を言った。
「かっちゃん、ありがとう!」
「大事に使ってね」
「うん!」
真理乃の手をつなぎ、歩き出そうとした時だった。
目の前に、白鳥が立っていた。
「白鳥さん」
「よう」
白鳥は、興味深げに真理乃の顔を見ていた。
「石田の子供……んな、わけないか!」
「兄貴の子供だよ」
「へ~」
白鳥は、真理乃の前にしゃがみこんだ。
真理乃と目線が、同じくらいになった。
「なんて、名前?」
「真理乃です!」
「何歳?」
「五歳」
白鳥は、立ち上がると俺に言った。
「五歳にしては、しっかりした子だな」
「兄貴の教育が良いんだよ」
「兄さん、そんなにしっかりした人なのか?」
「昔からそうだったな」
「兄弟で、こうも違うのか……」
俺は、苦笑をした。
真理乃が、俺の足を掴んで言った。
「お友達?」
「うん、そうだよ」
職場の先輩と言っても、幼稚園児の真理乃には理解出来ないから、俺は真理乃に合わせて言った。
「友達」と言われた白鳥は、笑っていた。
俺は、真理乃に言った。
「じゃ、行こうか」
「うん。お兄ちゃん、ばいばい」
真理乃は、白鳥に手を振った。
「お兄ちゃん」と呼ばれた白鳥は、少し照れながら真理乃に手を振った。
家に帰った俺は、台所に行った。
台所のテーブル席には、母親とテーブルを挟んだ向に兄夫婦が並んで座っていた。
「ただいま」
「お帰り」
母親と兄嫁の道子が言った。
俺は買ってきたハムを、テーブルの上に置いた。
「かっちゃんありがとう」
道子はハムを冷蔵庫に閉まい、俺は母親の隣に座った。
真理乃が道子の所に行き、俺が買ってあげたハンカチを見せていた。
「ママ~かっちゃんが、買ってくれたの!」
「まぁ、真理乃。かっちゃんに、おねだりしたの?」
「してないよ。俺が、買ってあげたんだ」
「かっちゃん、ありがとう。真理乃、かっちゃんにちゃんと、ありがとうをした?」
真理乃は、おおきくうなづいた
その時、兄貴が俺に言った。
「和真。あんまり、真理乃を甘やかさないでくれ」
「いいだろ?たまのことなんだから」
「それが、甘やかしてるって言うんだ」
「兄貴と俺は、違うんだよ」
立ち上がりながら言った俺は、居間の方に行きソファーに座った。
そんな俺を、道子は心配そうにみつめていた。
母親は、ため息をついて言った。
「……たまに顔合わせれば、こうだもの……ごめんなさいね道子さん、嫌な気分にさせて。もう昔から、明彦と和真は仲が悪くて。私の責任でもあるけど」
「そんな……」
道子は真理乃を俺が座っていたイスに座らせ、自分は今まで座っていたイスに腰を下ろした。
道子は、兄貴の顔を見ながら言った。
「もう少し言い方があるでしょ。かっちゃんに、あんな言い方しなくても。かっちゃんに失礼よ」
「俺が悪いって言うのか!」
「そんなこと、言っていないじゃない」
二人の言い合いを、慌てて母親が止めた。
「二人とも、落ち着いて!」
「すみません……」
道子は素直に謝ったが、兄貴はぶすっと黙り込んだ。
「かっちゃん、以前に比べて少しは明るくなったみたいですけど」
声を潜めて道子が言った。
母親が俺の方を見ると、道子も同じように俺の方を見る。
その時俺は、リビングのソファーに寝そべってテレビを見ていた。
「確かに以前よりは、明るくなったわ。昔みたく、私と話しをするようになったし」
母親は、ため息まじりに言った。
「彼女とか、いないんですか?」
道子は、母親の方を向き直ってから聞いた。
母親は、黙ったまま首を横に振った。
「かっちゃん背が高いし、可愛い顔立ちでとてもやさしいから、女の子にもてるんじゃないんですか?」
道子の言葉を聞いていた母親は、笑いながら言った。
「もてる……?あの子が……?」
しかしその笑いは、長く続かなかった。
「和真……まだ、良くないのか?」
珍しく兄の明彦が、心配そうに聞いてきた。
母親は、両手で顔を覆いながら答えた。
「就職してからは、だいぶ良くなったわ。でも、未だにぼんやりしていることが多くて。現に昨日だって……」
「昨日……?」
明彦は眉をひそめ、母親はゆっくり顔を上げた。
「仕事から帰ってきて、此処に座っていたんだけど。私がいくら呼んでも気がつかないの。和真は考え事をしていただけだ、と言っていたけど」
「まぁ……」
道子が驚いた表情になった。
「また、あの頃の和真に戻ってしまったら……そう思ったら怖くなって」
何かに脅えるような口調で母親は言った。
「あの頃、なんで和真はおかしくなったんだ?」
明彦の問いに母親は、ため息まじりにつぶやいた。
「もしかしたら……」
「母さん、何か知っているのか?」
しかし、母親は深いため息をついただけだった。そんな母親に、明彦は申し訳なさそうに言った。
「母さん一人に、和真を押し付けて悪いな」




