タイトル未定2025/11/16 20:58
次の日も、桐野と浴槽工場を見学する。
昼前には会社に戻った。
会社に戻る途中コンビニで買ったお弁当を食べた後、俺が座っているところに桐野と永田が来た。
桐野と永田は、俺が使っているパソコンのモニターを見ていた。
モニターには、俺と永田で作成した健康ランドに入れる候補の浴槽の画像があった。
俺は、健康ランドに行った時にもらった設計図を広げた。
「どの浴槽を、入れればいいのかしら」
桐野が言った。
「広すぎるんですよ」
設計図を広げた俺が言った。
永田は視線を、モニターから設計図に移した。
「ね、プールを作るってのはどう?こんだけ広いんだからさ」
「プール?」
俺は永田に聞き返した。
「それ、ナイス!」
「桐野さん?」
「だって、健康ランドはホテルだってあるのよ。家族連れには喜ばれるわ」
「なるほど」
さらに永田がアイデアを出した。
「プールだけじゃつまんないすよ。隅の方に三つくらいシャワーを付けようよ。勢いあるやつ。打たせ湯代わりになるっすよ」
俺は、しばらく考えてから言った。
「シャワー……打たせ湯……じゃ、その近くに消毒液が入ったような、風呂ってのは?」
桐野と永田は、不思議そうな顔をした。
「小学校の頃プールに入る時、腰まで浸かって消毒液の中に入ったじゃないですか。あれを作るんです。浴槽の底に、指圧代わりの石をひき詰めて」
「風呂に入りながら、プール感覚味わっちゃう。良いよそれ!」
永田が声を上げて言った。
「遊び心があって良いわね!」
桐野も嬉しそうに言った。
「となると、どの浴槽を入れようか」
視線を設計図から、モニターに移して俺が言うと、桐野が言った。
「浴槽の配置も、考えないとね」
話し合いは、夜遅くまでかかった。
ようやく、健康ランドに入れる浴槽の候補と浴槽の配置が決まった。
肩の荷が降りた気分になり、会社を出た俺と桐野と永田の三人は、ファミレスに行った。
すっかり開放的な気分になって、ビールで乾杯をした。
「明日、あさっては休みか!なんか、凄く久しぶりの休みって感じだ」
グラスをテーブルに置きながら言うと、永田が俺に聞いてきた。
「石田さん、桃子ちゃんとはどうなったんですか?」
「どうって、別にどうもしないよ。なんで、そんなことを聞くんだ?」
「桃子ちゃん可愛いんだもん!気になるじゃん」
「じゃあ、照が友田さんを誘えば良いじゃないか」
「え~断られたら、俺マジショック受けるっす」
永田の言葉に、水を差すように桐野が言った。
「石田君、昨日桃子と食事をしたのよ」
「マジで!良いなぁ~何処で食事した?その後、何処行った?」
「うざいな~」
そう言いながら、俺は二杯目のビールをオーダーした。
追加のビールが来て、ビールを飲んだ俺は永田に言った。
「皆で飲みに行った居酒屋に行ったよ。居酒屋で食事して、家まで送った。終わり」
「終わりって……何もしなかったんですか?」
「食事に行っただけだって、言っただろ」
「あんな可愛い子と食事して、何もない?はぁ~この時代に、こんな奥手の人がいるなんて!」
「照ぅ~その口縫ってやろうか?」
俺と永田の会話に、桐野は大笑いをした。
ファミレスを出ると、永田は大きく手を振りながら言った。
「じゃ、おやすみ~桐野さん!石田さん!石田さん、桃子ちゃんによろしくぅ~」
「な~に言ってんだ……照のバカは」
小さくなっていく、永田の背中に俺はつぶやいた。
「桐野さん、行きますか」
「ええ」
肩を並べて歩きだすと、桐野が切り出した。
「石田君って、時々私を見ているよね。夜遅く、職場で報告書を作っていた時も見ていたし。何か、言いたいことがあるの?それとも私、何か石田君にひどいことでも言った?」
俺が桐野を見ていたことに、気が付いていたとは!俺は、慌てて言った。
「明るく笑う桐野さんに、びっくりしてつい」
「それだけ?」
「はい。すみませんでした」
「たまに石田君の視線を感じるから、何か言いたいことがあるんじゃって、気になって」
「いえ、何もありません」
「なら、良いけど」
「桐野さん、電車混む前に早く行きましょう」
「そうね」
話題を終わらせたい俺は桐野を急かし、夜の街中を桐野と足早に歩いた。
「ただいま」
「お帰り」
俺は台所のテーブルのイスに座り、無意識にテーブルに頬杖を付いて、ぼんやりしていた。
いつの間にか母親が、俺の側に立っていた。
俺はそのことに、全く気がつかなかった。
「和真!」
怒鳴り声に近い母親の声に、俺はやっと顔を上げた。
「……あっ、何?」
「何度も呼んでいるのに、どうして返事をしないの!」
「ごめん、ちょっと考え事をしていた」
言いながら俺は、イスから立ち上がった。
「和真……大丈夫?」
母親は心配そうに俺を見ていたが、俺は何も言わずに台所から出て行った。
自分の部屋に行き、着替えをしてから浴室に向かう。
風呂から出て、部屋に戻った俺はベッドに倒れこんだ。
俺は、桐野をずっと見ていた。
そのことに、桐野が気付いていたこを知った俺は、少なからず動揺をしていた。
とっさに「明るく笑う桐野さんに、びっくりして」と俺は言った。
言った言葉は、嘘ではない。
嘘ではないけど……。
俺は、部屋の片隅をみつめた。
明るく笑う桐野が、自然と思い出され俺は目をつぶった。
身体は疲れているのに、なかなか眠れなかった。




