タイトル未定2025/11/16 20:45
ロビーでは、友田が俺を待っていた。
俺は、小走りで友田に駆け寄った。
「おまたせ。じゃ、行こうか」
俺の言葉に、友田は笑顔でうなづいた。
友田と一緒に会社を出たところで、俺は重大なことに気が付いた。
食事に行くと言っても、何処へ行ったら良いのだろう。
自分から誘っておきながら、何も考えていなかった!
「何処、行こうか?」
とりあえず、友田に聞いてみた。
「私は、何処でも」
……それじゃ、困る……。
「う~ん……じゃ、前に行った居酒屋でも良い?」
「はい」
俺と友田は、居酒屋に向かって歩きだした。
居酒屋は、相変わらず若者達でにぎわっていた。俺と友田は、隅のカウンターの席に案内された。
俺はビール、友田は酎ハイを飲みながら食事をする。
「仕事大変そうですね」
友田が言った。
「まあね。明日も、工場見学だよ」
「なんか良いな。私、ずっと受付に座っているだけだから」
「そっか」
「石田さん、きょうだいは?」
「三歳年上の兄貴がいるよ」
「お兄さん……良いなぁ~」
「そう?」
「私、一人っ子だから」
「お姉さんとかいないんだ」
「うん。だから、凄く羨ましい!ああ……熱い……」
友田の顔が、すでに赤くなっていた。
「大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です……あの……」
「ん、何?」
「……私……ずっと、石田さんのこと……好きだったんです……」
突然の友田の告白に、俺はぽかんとして友田をみつめた。
目が合うと、友田は慌てて視線をそらした。
「……やだ。酔っ払っちゃったのかしら」
友田は赤くなった頬を、両手ではさんで言った。
俺は、友田から視線をそらした。
居酒屋を出た時、友田の足はふらついていた。
「大丈夫?」
俺は友田を支えた。
「すみません」
「家まで送るよ」
「あの、良いんですか?」
「それじゃ、帰れないだろ。それに、女の子一人じゃ危ないし」
「ありがとうございます」
友田は、嬉しそうに言った。
友田の家の近くまで来ると、友田は俺に言った。
「此処で良いです。今日は、ありがとうございました」
友田は、頭を下げた。
「じゃあ」
友田に背を向きかけた、その時だった。
「あの……また会ってくれますか?」
友田の言葉に、俺はとまどった。
「迷惑……ですよね」
小さな声で、友田はつぶやいた。
俺は、感情を押し殺して言った。
「迷惑じゃないよ」
ゆっくり顔を上げた友田に、満面の笑みが広がった。
「じゃあ、おやすみ」
「あの!居酒屋で言ったこと。あれ、本当です!酔った勢いで言ったんじゃないから!おやすみなさい」
ぺこりと頭を下げた友田は、思い切り走りだした。
何も言えず立ちつくしたまま、俺は家の中に入る友田をぼんやり見ていた。
家に帰った俺は真っ直ぐ部屋に行き、着替えをしてから風呂に入った。
風呂から上がり、居間のソファーに座ってぼんやりしていると、台所から母親の声がした。
「あら、帰っていたの?お帰り」
「ただいま」
俺は、素っ気なく言った。
「ご飯は?」
「外で食べてきた」
「外で食べるんなら、電話の一本もしてよ」
愚痴る母親を、俺は無視した。
「あさって、明彦たちが来るのよ」
「兄貴が……そうだっけ?」
「やだ、もう忘れてる!」
「ここんとこ、ずっと営業で廻ってるから」
言いながら俺は、ソファーから立ち上がった。
「そんなに忙しいのかい?」
「うん」
母親に背中を向け歩きかけた時、母親が俺を呼んだ。
「和真」
「何?」
俺は母親の方を、振り返った。
母親は、何かを言おうとしてためらっている。
そんな母親を、俺は急かした。
「なんだよ?」
ためらっていた母親は、ゆっくりと言った。
「体壊さないでよ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
何か大事なことを言うのかと思っていたのに、拍子抜けしてしまった。
いったい母親は、俺に何を言いたかったのだろう。
俺にはわからなかった。
自分の部屋へ行き、ベッドに腰掛ける。
居酒屋で、突然告白をしてきた友田を思い出す。
両手で顔を覆った俺は、ため息をついてうつむいた。
しばらくしてから顔をゆっくり上げ、部屋の片隅をじっとみつめる。
いつものように、言葉が出て来ない。
俺は部屋の片隅から逃げるように、布団の中に潜り込んだ。




