タイトル未定2025/11/16 20:34
「ただいま」
リビングでは、母親がテレビドラマに夢中になっていた。
何を、見ているんだ?
立派な日本家屋の畳の部屋で、スーツ姿の三十代前半の男性が、和服姿の中年男性の前で、土下座をしていた。
和服姿の中年男性の側には、二十代後半のグレーのワンピースを着た女性がハラハラした感じで両手を口元にあて、土下座をしている男性をみつめていた。
中年男性は女性の父親で、男性は結婚の承諾の申し込みをしていた。
気難しい父親は娘の結婚に対し、男性にいろんな条件を突きつけた。
男性は物おじせず全て受け入れた。
やがて結婚は承諾され、娘は泣き崩れた。
ドラマはラストのシーンになり、海が見える青空の下でウエディングドレスを着た女性とタキシード姿の男性が、両手を握りしめほほ笑みあっていた。
「この二人、結婚できたんだ」
「びっくりした!和真いつからいたの?」
「結婚を申し込んでいるところから」
母親はドラマに夢中で、俺がいたのに気がつかなかったようだ。
「じゃあ、最後まで見ていたんだね」
「まぁ……」
「結婚できるまで、大変だったのよ!男性の父親が倒れたり、女性の父親は会社の会長で気難しい人で、結婚できるまで前途多難だったのよ」
「そんな二人が、無事に結婚できたんだ」
「そうなのよ!毎週ハラハラドキドキで、感情移入しちゃったわ。結婚出来て、よかった」
俺は台所で空の弁当箱を洗いながら、興奮冷めぬ母親の言葉を聞いていた。
風呂に入った後、俺はベッドに倒れ込んだ。
布団に入り天井を見上げ、先程リビングで見たドラマを思い出す。
結婚が承諾され、娘が泣き崩れると父親は娘の頭をそっと撫でていた。
それまで頑固な表情の父親は、優しい表情になっていた。
桐野は、牛丼屋で無邪気に笑った。
干渉する父親が嫌で、家を出たことを初めて俺は知った。
……父親か……。
顔を横に向けた俺は、部屋の片隅をじっとみつめた。
「父親って、うるさかった?」
俺は思わず、笑いだした。




