奥さんと旦那さん
支度を整え終わるとどこかへと転移して下さった。
「この先にお兄ちゃんがいるから、そこまで歩いていけば終わり」
「かしこまりました」
とても大きい扉の前に立たされた私の後ろには誰もおらず、それどころか人の気配すらしない。
これは…扉を開けてもいいということなのでしょうか。
そんな風に悩んでいると、音もなく開いた先の光景に硬直してしまいました。
大勢の竜人様方が真ん中に作られている道以外の場所から出迎えて下さっているということが嫌でも分かる。
不思議とどなたとも目は合わないけれど、このように待たせてしまっていたのだと思うと体が強張って動けなくなってしまった。
「花嫁さん」
道の先にいる花婿さんに声をかけられた。
その声音は私を呼んでいるのだと感じ、自然と足が前に出ると所作を思い出し、なるべく美しく見えるように意識してまた歩き出す先にいるのは着飾った花婿さん。
青と差し色に紫が入っている正装で佇まれているお姿はとても素敵で、今度は違う胸の高鳴りがする。
「僕の花嫁さんは今日で奥さんになるんだよ?」
「は、はい」
花婿さんの元まで行くと、そんなことを言われながら素肌の手先に触れられた。
「こっち」
「かしこまりました」
花婿さんの横に立つよう指示を頂いたので横に並ぶと花婿さんを見るように体の向きを変える。
「僕は…僕は君が大好きなんだ。君を縛ったから好きなんじゃない、好きだから縛ったんだ。寂しくないようにって、僕と繋がっていれば独りにならないから」
どうしてか胸が詰まる。
花婿さんのお言葉はいつだって胸が弾むけれど、今は違う胸の高鳴りを覚えている。
「君にたくさん見せてあげたい。綺麗な景色も、眠たくなるような清らかな泉も、天を駆ける青々しい空も、僕の瞳に映る君も」
きっと酷い顔です。
今だって酷いに違いありません。
「クローディア・ウィズダム、僕の花嫁さん。どうか僕と結婚して、死すら一緒に経験しよう」
「は、い、」
いつからか流れていたのか、晒している手先で私の涙を拭って下さった。
「大好きだよ」
僕の花嫁さん。そう口に出さずに言われた言葉と共に、
キスを、されました。
「ふふっ、お顔が真っ赤」
人前でこのようなことをするとも思っていません。
「はい、僕の鱗」
「きれい、です…とても…」
「くすくす、飲んで?」
花婿さんの手のひらにある薄茶の鱗はキラキラと輝いていて、私などが触れてもいいのかと躊躇してしまったその手を引っ込めることなく伸ばし、鱗を手に取った。
「はやく、はやく、」
「………ふふっ、はい」
待ちきれないという表情を見ながら、パクっと口の中に入れて、ゴクンッと飲み込んだ。
「………っっ、はぁっ!はぁっ!」
「おっと…大丈夫、体の変化がきてるだけ」
ドクンっ!と心臓が跳ね、一気に体温が上がる。
足に力が入らなくなり、花婿さんに支えてもらうけれど、それでも軸を保てないのか崩れ落ちてしまう。
「寝室に戻ろう」
そう言いながら私を抱きかかえた花婿さんはきっと寝室に転移したのだろう。
背中に当たるのはふわふわなぬくもりだから。
「しばらくおやすみ」
その声を最後に意識が落ちた。
「ん………」
「クローディア、起きられる?」
「は、い、けほっ、」
猛烈な喉の渇きを覚えて起き上がる私は差し出して下さった水を飲み干していく。
「もう少し飲もう」
「はい」
2度目の水を飲むと意識がハッキリとしてきた。
「わたし…」
「うん?」
「もうチョコレートが20個食べれますか?」
花婿さんはキョトンとしたお顔のあと、まるで花が咲いたように笑った。
「ふはっ!試してみよう」
「はい」
「クローディア」
「はい」
「名前、呼んで?」
「……シ、シリル、さま……」
「もう奥さんと旦那さんになったんだよ?」
「ぞ、存じております」
「はい、言ってみて?」
「………も、もう少しあとが、いい、です」
「くすくすっ、それじゃぁお楽しみにしておこうかな」
花婿さん………シリル様がベッドの上に紅茶やお菓子などを並べ出した。
「はい、あーん」
「っっ、………あ、あー………」
「ふふっ」
「っっ〜〜」
口に入ったお菓子は楽しみしていたチョコレートでした。
「僕の奥さん」
「んっ!……は、はい!」
「ぼくの奥さん」
「わ、わたし、の、だ、だんなさん、」
「くすくす」
恥ずかしいです。とても。
ですが………
「しあわせ、です」
「うん、僕も」
「末永くよろしくお願い致します」
「こちらこそ、末永くよろしくね?」
「はい」
パクパクとチョコレートを口にしていく花婿…旦那さんを見て、私も食べられるようになったのかとワクワクする心が芽生えながらも、あのように素早く食べるのは無理そうですと思いながら、もう一つチョコレートを口に入れた。
「ん………3つ目も食べられそうです!」
「ふはっ!んー……ほんと、かわいい!」
きっとたくさん食べられます。
だって、ようやくシリル様と結ばれることができたんですから。
「ずーっと一緒にいようね」
待ち望んでいた居場所にようやく、帰ってこれました。
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