お友達
「ふふ」
お声が聞こえてきた。
花婿さんのお声が制御出来ていないようで私の頭上から…
頭上から?
そ、そうでした…昨日お会いして一緒に眠ったのでしたね。
眠っている間にくっついてしまったのか花婿さんの体にぴったりとひっついているので離れようとしたのですが…
「駄目」
「…おはようございます」
「ふふ、おはよう」
抱き締められている腕に力を入れられて離れる事も出来ません。
花婿さんは楽しそうに笑いながら私の髪を撫でている。
どうするのが正解なのでしょう…
「ドレスと化粧は花嫁さんが」
「かしこまりました」
「髪型は僕がするからしちゃ駄目」
「お願い致します」
「案内させて?」
「はい」
起き上がると洗浄魔法をかけて下さりながら私の方まで回りしゃがむ花婿さんは私の靴?なのでしょうか。
靴を持ち私の素足を手に取り履かせてもらう。
「こ、これは常識なのですか?」
「僕がしたいだけ」
「このような事をなさらなくとも…!」
「本当はドレスも着せたいんだけど」
「ご遠慮願います」
「ふふ、残念」
そんな事を言い合っていたらあっという間に靴を履かせて頂き、エスコートにと差し出された手を掴んで立ち上がると恋人繋ぎをされる。
「恋人繋ぎも常識なのですか?」
「僕がしたいだけ」
「…」
「お顔が真っ赤な時ばっかり、ふふ」
やはり常識をなんとしても教われば良かったと思う。
転移をされた先には食事が用意されていたのですが、このような恰好で召し上がってもいいのかと思案していると、数名の竜人様が目の前に現れ、咄嗟にカーテシーをしようとする体を止めている私に構わず、花婿さんが席に座るようにエスコートをされ、座る私を確認した後に竜人様方が一斉に話し出された。
「可愛い!やっぱり私がドレスを」
「駄目だと言っているだろ」
私の横に座った花婿さんは鋭いお声を出して拒絶している。
ドレス…私のドレスの事でしょうか?
「ねぇ、花嫁さん。私とっても化粧が上手なの」
「さようで」
「駄目だ」
私の声を遮る花婿さんは手で追い払う仕草をお三方にされている。
「「「意地悪!」」」
「煩い、出てけ」
「花嫁さん、今度お出かけしましょうね!」
「かし…」
私の返事の途中で転移された竜人様方に今までの常識全てが培わないと気付く。
「食べよ」
「はい、先程の方達は」
「花嫁さんの友達」
「私の?」
「兄上達の伴侶と妹が友達になりたいんだって」
「さようでございましたか」
「嫌なら断っていいからね」
「かしこまりました」
友達…
魔力量はやはり桁違いでしたが、気持ち悪くもならないので問題はないのでしょうが…友達を作れるとは思っておりませんでした。
嫌ならという花婿さんのお言葉に私は今まで友達を作る事に対して嫌という感情があったのか分からない、そのうち嫌だと思う時が来るかもしれない。
でも、お話をしてみたいと思いました。
私でも友達になれるのかと考えながら料理を口に運ぶ。
「美味しいです」
「良かった」
竜人国の料理はとても美味しい。
お菓子もそうですが、なんでも美味しいのかもしれませんね。
料理名を教わりながら味について話す、こんな日常は思いつきもしませんでした。
「私も早くチョコレートを20個食べたいです」
「ふふ、食べられなくてもいいんだよ」
「知ってみたいのです」
「…僕はきっと、一生君には勝てないな」
やはり勝ち負けなのですね、ですがどうしてそんな事をおっしゃるのか分からない。
竜人国を学び終えたら分かるのでしょうか。
食事を終え転移をした先は両扉の目の前。
恋人繋ぎをしている花婿さんは少しだけ微笑むと、扉を魔法で開いた。
「まさか全て…?」
「そんな訳ないでしょ、残りは僕が持ってる」
「…」
目の前に広がるのは様々な洋服に靴に…雪の洞窟よりも広いこの場所は。
「私のクローゼットですか?」
「うん」
勝手に足が前にと歩き出してしまう。
洋服に興味などはなかったけれど、花婿さんからの贈り物は、クローゼットの中にある棚や、衣装タンスを少しだけ埋めるような、そういう想像をしていたからこんなにクローゼットを満杯にして、至る所に靴も装飾も置かれているとは思いませんでした。
「気に入った?」
「洋服のサイズが小さくないです…」
「小さい時もあったけど、全て今の体型に合わせてもらったんだ」
「そう…そうなのですね」
年齢に合わせるように大きくなっていくようなクローゼットも想像していたから。
「嫌だった?」
「いえ…小さいドレスもあると思っていたので」
「あるよ」
「え?」
「でもそれは今度、支度しないとね」
「失礼致しました」
「こっち」
「はい」
ドレスよりも先程の竜人様方が着ていた上下に分かれている洋服が多い、雪の洞窟で着た物は随分と楽でしたからドレスはあまり着ないのかもとクローゼットの中を楽しみながら着いて行った先に。
窮屈だろうドレスがあった。
ふくらはぎからの膨らみに一体どれほどの布が重なっているのかと思える程にふわっとしているドレスは足元が長く、首元も手首も隠しているドレスは今にも靡いて何処かへと飛んでいってしまいそうだと錯覚する程にふわっとしている。
お色味は青と紫。
きっとクローゼットにあるどの洋服よりも、ドレスよりも、窮屈で着るのが大変そうなドレスは私の好きになりました。
「好きです」
「良かった……。上から浮いて入れば後は後ろを閉めるだけなんだって」
「便利なのですね」
「さっきの3人が手伝ったんだ」
「あとでお礼を」
「そんな事より着て見せて?」
「かしこまりました」
「化粧品は分かる?」
花婿さんの手にたくさんの化粧道具が出て来たけれど、見たことのない物ばかり。
「分かりかねます」
「嫌だぁ…」
「申し訳」
「花嫁さんにじゃないよ」
「はい」
はぁー…とため息を吐いた後、奥に続き部屋があるようで連れて行かれる。
自惚れでなければ多分…私の部屋です。
身支度を整える部屋が目の前に広がりますが、一体どのような規模で私に贈り物をして下さっているのでしょう。
「…やっぱり3人に手伝ってもらう」
「かしこまりました」
「僕がしたい…」
「出来ればご遠慮願いたいです」
「うん…」
「何かあるのですか?」
「花嫁さんを独り占めしたいだけ」
「?はい」
「座って待ってて」
「かしこまりました」
鏡台の前に座るとどこかへ転移した花婿さんに疑問が浮かぶ、独り占めはずっとなさっているのになぜそんな事を思うのでしょうか。
なんとなしにパチパチと瞳をやり、鏡を覗き込むと変わらず左目は青で安心した。
「だから言ったじゃん。花嫁さん、私バーバラ」
先程お会いした竜人様方が現れた。
自己紹介をして下さったバーバラ様は茶色の髪に灰色の瞳。
早速、私の顎を素手で掴んでペタペタと塗りたくりながら化粧を施して下さっている。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。シリル様の婚約者でありバランレニア王国から」
「名前聞いたら流石に怒られちゃうから今度聞かせてー?」
「かしこまりました」
名前をお伝えするのはいつが適切なのでしょうか。
「私はシセリア、支度は任せてちょうだい」
水色の髪に水色の瞳に楽しげな表情のシセリア様は私の後ろに立ち髪の毛を結って下さっている。
このように竜人様方が私の支度をするというのは恐れ多いのですが、構わずテキパキと支度をしていく皆様は遠慮もなく私に素肌で触れ、顔色も悪くならない光景は、なんだか胸が詰まる感覚を覚える。
「私の名前はキンバリー、花嫁さんと同じで元人間だからなんでも聞いて?」
「お気遣い感謝致します」
シリル様のお声が届くまでは気安い態度も、このように賑やかな空間があればと、1度でいいから意味のない話をしてみたいと思っていた事を思い出す。
キンバリー様は茶色の髪に茶色の瞳、私の横に座り、出来上がる私を見ながらお2人と親しく会話されている。
「可愛いー!化粧しなくてもいいんじゃない?」
「着飾らないで表に出したらそれこそ不機嫌になるでしょ」
「素を見せたくないって?本当お兄ちゃん達って独占欲強いよねー」
「バーバラも同じ血筋だからそのうちこうなりそうだけど」
バーバラ様はシリル様のご兄妹なのでしょう。
素を見せたくないというのは独占に繋がるのでしょうか?ですが既に、お声が届いた頃から独占され続けていると思うのですが、また感覚が私とは異なるのかもしれません。
「花嫁さんは困ってない?」
シセリア様が気を遣って下さるけれど、困り事ならたくさんあります。
「ご挨拶や式の手順などを存じておらず」
「それなら大丈夫ー、歩いて終わり!」
「かしこまりました」
「部屋から出て来たらたくさん遊びましょう」
「かしこまりました」
「あ、髪もう少し垂らしたら?」
「そうね!」
和気あいあいと話しているこの空間に私が加わっている夢のような現実はきっと、
花婿さんからの贈り物。




