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花嫁さんと花婿さん  作者: ユミグ


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7/9

居場所


しばらく泣いていたけれど、花婿さんが笑いながら私の涙を手で拭われて、一気に顔が熱くなり涙が引っ込んだ。


「少し歩こう」

「はい」


花婿さんの手を取り歩くとサクッとした音が足元から聞こえて立ち止まってしまう。

くすくすとした笑い声が頭上から聞こえてくるとお傍に居るのだと、耳元で聞こえない笑い声に胸がドキリとした。


一歩踏み出すとシャリッと音が聞こえてくるので、雪には様々な音があるのだと体感する。


サクッサクッ…シャリッ…サクッ…


2人の足音を聞き、花婿さんの足跡をなんとなしに視界に入れるとつい気になって後ろを振り向くと、私達が歩いた跡が着いていた。

きっと降り積もる雪に消えてしまうだろう足跡は4つあり、それはとても…


「好きです」

「ふふ、うん」

「足跡は4つがいいと思いました」

「僕も」


ふと顔を上げると花婿さんの瞳がキラキラとしていて思わず顔を傾けてしまう。


花婿さんのお顔は心臓に悪いですね。


「でも6つでも8つでもいいと思うな」

「どうしてですか?」


私は花婿さんと一緒につけた足跡がいいと思ったのですが。


「僕達の子供が出来たら足跡が増える」

「子供…」


考えていなかった訳ではないけれど、言葉にされて目の前の足跡を眺めていると想像出来てしまう、とても簡単に。


小さな足跡が並んでいる未来を思い描くとそれは…


「はい、花婿さんとの子供が欲しいです」

「ぐっ…!」

「どうされました?」

「ううん、ちょっと刺激が強かった」

「?」

「気にしないで」

「かしこまりました」


しばらく足跡をつけて山を歩いていた。

花婿さんと並んで、

一緒に。


「ふふ、帰ろう」

「はい」

「乗って?」


花婿さんが手をするりと離して距離を取ると大きな栗色の竜体になった、一瞬の出来事に驚いてしまったけれど、私を見る青が呼んでいる気がして近寄ると、ドシッ!と雪の上に体を置いたのできっと乗ってと、花婿さんに乗ってという意味だと思うけれど…いいのでしょうか…?


「キュルッ」


可愛い鳴き声を出す花婿さんに恐る恐る浮かんで乗る。


「失礼致します」

「キュッ」


ドッドッと音がした後に翼を広げて浮いた瞬間に風が消え、ぶわっと飛び立つ花婿さんの背に座る私は落ちる気がしません。花婿さんの魔力が私を包んで下さっているのを感じるので、乗せる時に使う魔法があるのかもしれないと思いながらも上へ上へと早く進みあっという間に雲まで辿り着く。

水平に飛び出した先にきっと竜人様のお国があるのだと思った時にふと疑問が浮かぶ。


「声はもう届かないのでしょうか」

『届いてるよ』

「!」

『届けようと思えば届く』

「近くに居るのにお声が耳に届きます」

『ふふ、二重に聞こえなくて良かった』


魂を縛るなど禁忌以前に出来ない代物だと本に書いてあった、だからこそ分からない事が多い。

分からない事が多いからこそ花婿さんのお傍に居られるのかもしれません。

耳に花婿さんのいつも通りささやく声が聞こえる。


「竜体なのに聞こえます」

『竜人同士では理解出来るんだ、そういう方法で話してるから』

「さようでございましたか」

『鱗を飲んでくれたらみんなの声も聞こえるかもしれないね』

「楽しみです」

『参ったな……もう着くよ』

「かしこまりました」


着くとは仰ったけれどまだ何も…


「すごい…」


岩が空に浮いている、目の前に広がりどこまで続いているのか分からない程に巨大な岩があり、そちらにぶつからないようにと真上に飛ばれるので、思わず花婿さんの体に伏せてしまう。しばらくしても落ちるような事はなく、花婿さんのひんやりとした竜体を感じているとまた真っ直ぐに飛ばれたので顔を上げると街が…見たことのない建物に緑がたくさんあるように見える、岩が地面なのでしょう。

その上に生活している竜人様方の暮らしがほんの少しだけ伺えるけれど、街並みが小さく見える程、天高く飛んでおられるのできちんと見る事は出来ない。


「どうして…すごいです…すごい…」

『ふふ』


岩の上に建物があり草木も存在しているだけでなく、そのまた上空に広がる建物は大きくよく見るとそこにも地面があり花や木々も存在している。


竜人様方が集まっている場が見えその近くに降り立たれたので浮いて地面に足をつけると花婿さんが竜体を解かれ私の横に立つ。


「手、繋いでもいい?」

「も、もちろんでございます」


手を上げようとした私の耳に正解を教える声が届く。


「下ろして、そのままで繋ぐの」

「は、はい」


エスコートとは異なる繋ぎに困惑する私の指を花婿さんの指がするりと繋がれた。


「恋人繋ぎだよ?」

「か、かしこまりました」

「ふふ、お顔が真っ赤」


ぎゅっと握られた手を引かれ歩き出す花婿さんに着いて行くと、先程集まっていた竜人様方の前に立ち止まるのでカーテシーをする為、手を離したいのですが、手が離れてくれません。


「常識はあとで僕が教えるから」

「かしこまりました」

「離しちゃ駄目」

「はい」

「立ったままでいい」

「はい」

「瞳を変えて」

「かしこまりました」


花婿さんの横で立ち、瞳を変えると竜人様方があっという間に立ち去って行く。


「部屋に行こ、案内もしたいけど一緒に寝たいな?」

「はい」


景色が変わり室内に連れて行かれた、仰っていた通り寝室なのかベッドがあり、その上には洋服が置いてある。


「着替えたら呼んで」

「かしこまりました」


眠るだろうから体と洋服に洗浄をかける。


「ああ、髪留めが…」


髪留めを外すのを忘れていた。

ポロポロと落ちる髪留めを拾いながら内心焦っているのだと気付く。

待ち望んでいた花婿さんとの出会いに浮かれてしまっているのだ。


ふぅ…と息を吐いて、髪留めを仕舞い、置かれている服に着替える。


「?」


そういえば先程着ていた洋服もこのズボンとシャツのような滑らかな素材の洋服もサイズがぴったりでとても着やすい。

もしかしたらドレスのサイズや靴を仕立てに出す時に声が出ていた時もあるので、そこから測って下さったのかもしれないですね。


届けたいと思えば声は届くと仰っていたので、ポツ…と言葉を出してみる。


「着替え終わりました」


すぐに扉が開くので、やはり声は届けられるのだとなんだか嬉しくなりました。


「よく似合ってる」

「ありがとうござい……」

「ふふ、なあに?」


花婿さんとお揃いの洋服です、色違いではありますが、花婿さんも同じ洋服を着て私の前に立っています。


「パジャマ」

「は、はい」

「お揃いにしたの」

「さようでございましたか」

「嫌?」

「いいえ」

「じゃぁなあに?」

「………は、恥ずかしい、です」

「ふふ、どうして?」

「分かりません」

「僕は嬉しい」


嬉しい…なんだかその言葉に益々恥ずかしい気持ちになり、顔が傾いてしまいそうになる。


「僕は右側」

「私は左側を」


ベッドの左側までエスコートされ横になるように言われたので、枕に頭を落とし右側を向くとすぐに花婿さんもベッドに入り毛布をかけて左側を向いて下さる。


「やっと会えた」


花婿さんの髪はくるくるしてふわふわとしているのでとても柔らかそう。

横に居る花婿さんは想像通りのお方でした。

柔らかく微笑む表情にお声通りの姿形だと思う。

私の頬を撫でる花婿さんはどう感じたのでしょうか?想像通りなのか、それとも意外な姿形だったのか気になってしまいます。


「クローディアは花嫁でなくなり、妻になる」

「は、い」

「僕は旦那さんで、君は奥さん」

「は、い」

「嫌じゃない?」

「そのような事はありません、ずっと待っていたのです」

「ふふ、僕もずぅーっと待ってた」

「はい」

「明日の式が終えたらシリルって呼ぶんだよ?」


明日?明日は明日です。


明日?


「あ、明日ですか?」

「うん」

「何も準備が出来ておりません」

「整えてあるって言ったでしょ?」

「常識も礼節も存じておりません」

「これから教える、今日から僕おやすみだし」

「そうなのですか?」

「うん、兄上達が変わってくれるから」

「お兄様方がいらっしゃるのですね」

「そういう契約」

「竜王陛下なのですか?」

「今日から当分は兄上達がなるんだ」

「さようで…いえ、困惑しております」

「ふふ、大丈夫だよ、式も瞳を見せて鱗を飲んだらおしまい」

「不安です」

「僕がずっと傍に居る」

「はい」

「片時も離さない」

「は、はい」

「大丈夫だよ」

「かしこまりました」


不安は消えない、式の流れも参列なさる方々のお名前もご両親への挨拶さえもしていない

困惑や不安はたくさんあるけれど、花婿さんが大丈夫と言うのなら大丈夫なのでしょう。


「ですが無礼な行動をしてしまうかもしれません」


国が違えば礼節も変わるのに。


「誰かを殺したら無礼になるんじゃない?」

「そのような事は致しません」

「駄目だよ」

「え?」


とても真剣な眼差し。

私を見る青は鋭さが戻っている。


「危険な目にあったら攻撃しないと駄目」

「かしこまりました」

「クローディアが死んだら僕も死ぬの」


そう…そうでした。

私は私の身を守るだけでなく、花婿さんの身を守る事にも繋がる。


「僕も死なない」

「はい」

「君を守る為に僕を守る」

「心に刻んでおきます」

「うん」


それにしてもいつまで頬を撫でられているのでしょうか…

私も花婿さんを感じてみたいとは思ってはいましたが、こんなにも触れている時間が長いとなんだか落ち着きません。

いえ、お会いしてから落ち着いている時などありませんね、


「抱きしめてもいい?」

「…」

「ふふ」

「ひゃぁっ…!」


花婿さんが近付き、腕を背中に回された。


「ひあっ!」

「ふふ」


私の首の下に腕を差し入れ花婿さんの胸元に私の顔が、あ、あります。

抱きしめるというのは抱擁を想像しておりましたが、このようにされるとは思っておりません。

どういう行動が正しいのかも分からず、固まったままの私の上からささやくお声が。


「魂を…」


頭にかかる吐息が熱い。


「魂を縛ったから好きなんじゃないよ、好きだから、一生傍に居たくて縛ったんだ」


どうして魂を縛り合っているのか分からないままです、今も。


「クローディアは僕の花嫁さん」


竜人様のお力は私達にとっては未知なのです。


「僕がクローディアを選んだ」


ですから何をもって私を選んだのか…選んで下さったのか分かりませんが。


選んで下さったから私の居場所も、好きも、たくさんの感情も授けて頂けたのです。


「僕を好きになって欲しかったんだ」


好きです。


「きっと今までは独り善がりだった部分もあったけど」


そのように思った事は1度もありません。


「これからは2人でたくさん大好きになっていこう」

「はい」


お声だけの存在だった花婿さんは私を抱きしめ、耳元でささやくのではなく、熱い吐息とあたたかいぬくもりがある。


「おやすみ、僕の大好きな花嫁さん」

「おやすみなさい、私の大好きな花婿さん」


いつもなら起きた時に聞こえるお声に花婿さんを感じるけれど明日はきっと…


いいえ、今も、眠っていても、起きても。


そして今日からはずっと一緒です。


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