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花嫁さんと花婿さん  作者: ユミグ


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6/9

雪の人形


目の前の景色が変わり、花婿さんと私の間に白が降り落ちる。

花婿さんの髪にも白が落ちては流れるように消えていく姿はとても美しく、先程は鋭い目元だと感じていたけれど、今はくりくりとした形に花婿さんだと感じた。


「これが雪」


そう言われて手のひらを上にして雪を触ってみるけれど冷たさは感じない、意思があるように手から零れ落ちていく光景に、本で得た知識とは異なるのだと正解を体感する。


「冷たくないのですね」

「冷たいよ、花嫁さんが冷えちゃ駄目だから暖かくしてるの」

「配慮をありがとうございます」

「服を用意してあるから暖かくしたら雪を触ってみよう」

「はい」


花婿さんが手をかざすと私達の目の前に大きな雪の塊が出来ていく、私の寝室より大きくなった雪は穴が開いて中が空洞になっているみたい。


「雪の洞窟、中にベッドを置いたからお茶会をしたいな」

「お菓子をたくさん集めました」

「ふふ、ジェリービーンズを詰め込む想像をたくさんしたよ」

「くすくす」


花婿さんの後ろを着いて行き雪の中に入ると、大きな真っ白いベッドが1つ。そしてたくさんのお菓子がベッドの上に並んでいるけれど、ベッドも、床に敷いてあるカーペットも雪も真っ白で、私達とお菓子だけが色鮮やかだ。

靴を脱いで乗り上げる花婿さんに倣い、ベッドに上がり、対面に座ってと指を差されたのでそちらに座り、不自然に空いているスペースに乗せられるだけのお菓子を私も置いたらポツリとささやくお声は……少し悲しそう?


「全然駄目だ…」


項垂れた花婿さんは顔を手で覆うからどうしたのかと声をかける前に話し出す。


「ちゃんと準備して完璧な出会いを想像してたのに…もうぐちゃぐちゃだ」

「私にとっては完璧です」

「っっ、そうだね」


顔を上げて下さったので安堵した私へと花婿さんが取り出したのは花束だ。

紫の花を囲うように金色の小さな花がたくさんある花束を見てどうしてと思う。


「ありがとうございます…髪色を知っていたのですか?」

「蜂蜜色が似合うと思ったんだ」


はい、と手渡されて匂いを嗅ぐと、私というより花婿さんに似合う甘い香りだと感じた。

枯れては嫌だ…けれど仕舞うのも勿体ないと、花束を見てどうしようと悩んでしまう。


「君に似合う庭園も作ったんだ」

「ありがとうございます…ですが部屋まで整えて頂いておりますのに」

「僕がしたかったの」

「…はい」


庭園を見るのも楽しみですが、やはり枯れてしまっては嫌なのでドライフラワーに出来るまでは空間魔法で仕舞っておきましょう。


それと私も彼へ花束を渡す。


「え?」

「私も贈りたいと思いました」

「あ、ありがとう」


私の手から花束を受け取るとふにゃっとしたお顔をなさるので渡せて良かったと、思いついて良かったと思う。


「大切にする」

「はい」

「君の事も大切にする」

「は、はい」

「知ってるけど、名前を教えてくれる?僕の花嫁さん」


私の言葉はいつだって花婿さんに届いてしまう、だからとっくに知られている名前を呼ばれた事はまだない。


「クローディア・ウィズダムと申します」


何故だか泣き出しそうな顔をした花婿さんは少しだけ顔を傾けていたけれど、


「クローディア…僕の花嫁」

「はい」


顔を上げて目尻を下げながら小さく、けれどはっきりと私の名前を呼んで下さった。


「シリル・ウィットロック」


花婿さんのお名前を知る事が出来た。


「ウィットロック様」

「違うよ」

「失礼致しました」

「シリルでしょ?」

「で、ですが」

「シリル」

「シ、シリル様」

「シリル」

「…」

「ふふ、お顔が真っ赤」


今度は私が顔を傾ける番です。


お名前を呼ぶ許可まで頂き、尚且つ敬称まで外す許可を下さいましたが、呼べる自信がありません。


とても…恥ずかしいのです。


「じゃぁ、式を挙げたら呼んで」

「練習をしておきます」

「それなら今してみたら?」

「………シリル…さま」

「ふふ、クローディアは何が食べたい?」

「っ、チョコレートが食べたいです」

「どうぞ?」

「ありがとうございます」


お皿に3つチョコレートを乗せてシルバーと共に渡されたので受け取ると、花婿さんも同じチョコレートをたくさん浮かせて私のお皿の倍以上はある大きさのお皿に乗せて食べていく。

私も1つ口に運びましたが…良かった。


チョコレートが好きです。


好きが出来ました。


紅茶も頂き、チョコレートを摘まんで一緒にお茶会をしています。


目の前で。


いつも通り2人だけで。


「そうだ!待ってて!」

「はい」


外に飛び出た花婿さんは洞窟の入り口で雪を集めているようだ、落ちてくる白を手のひらに魔法で乗せている。

重ねた2つの雪玉を持ちベッドの上に戻った花婿さんはチョコレートを2つ手に取り雪玉につけていく。


「あとはクローディアが口を選んでくれたら雪の人形が出来上がる」


そう言いながら雪玉を空いているお皿の上に乗せて見せて下さる、確かチョコレートとジェリービーンズで人形が出来ると仰っていた事がありますね。

色とりどりのジェリービーンズを見て雪玉を見て似合う色を探しますが。


とても難しいです。




「あれ?選べないの?」

「申し訳ございません、時間がかかってしまいそうです」

「それはいいんだけど…どうしてか聞いてもいい?」

「赤のジェリービーンズが似合うと思うのです」

「ふふ、うん」

「ですが私はこの青をつけたいのです」

「っ」

「青が…そうでした。私はお声だけでなく青も好きなのだと気付きました」


そうですね、私はいつだって青を眺めては花婿さんを想う。

だからか自然と青ばかり集めていた事に今更ながらに気付く。


ですが似合わないお色味をつけてしまったら雪玉に失礼だ。

そう思い赤のジェリービーンズを手に取り口になる場所へつけてみるけれど、


「あ、ごめん」


ポロっと落ちてしまわれたのを見て花婿さんが謝りながらジェリービーンズを浮かして、口になる場所へと魔法でつけて下さいました。


確かに人形です。


「あ、そうだわ」

「うん?」

「マフラーをこの方につければ青でもお似合いです」

「はぁー…僕、クローディアに勝てなさそう…」

「勝ち負けなのですか?」

「ううん…」


また顔を隠してしまわれた花婿さんを見てみるけれど、何を考えているのか分からない。

お会いして表情を見たら分かると思っていたけれど、分からないものなのですね。

お声だけではなく、行動も表情も目の前にある花婿さんを初めて感じている私はこれから分かるようになるのでしょうか。


きっとなる。


だって知っている事は日々増えていったのだから。


きっと…


「マフラーのお菓子は難しそうだ」

「あの、まあるいお菓子を下の雪玉にぐるっといくつかつければなりそうです」

「それだ!」

「くすくす」


2人で雪玉に青のマフラーをつけていけば完成です。


「溶けないようにしてあるから持って帰ろう」

「帰る…はい、帰りたいです」

「……僕の国だよ?」

「はい、私の居場所です」

「…僕ってクローディアと話すの初めてだった」

「え?」

「ん-ん、今になって声が本物だってちゃんと気付けただけ」

「ふくふくほっぺはもう見れましたよ」

「あれ?そうだっけ?」

「くすくす、ぷくーっとなっておりました」

「ふふ、もう一回言って?」

「?ぷくーっとなっておりました」

「ふふ」


楽しそうにジェリービーンズを口に運ぶので、私も青のジェリービーンズを食べると好きになりました。

好きを取っておいて良かったです。


「身支度は整えた?」

「身の回りの物は全てクローゼットに入れております」

「欠かせない物は?」

「はな…シリル…様へお渡しするリストとお菓子は既にこちらにあります」

「…僕やっぱり負けたかも」

「?」


はぁー…とため息をつきながら赤くなった頬に手を置いて肘を太ももに乗せる花婿さんは何故だかふくふくほっぺになっている。


「服も櫛も全て揃えてある、必要な物は言ってくれればいい」

「ありがとうございます」

「雪に触れたら帰ろう」

「はい」

「外に出てるから着替えて」

「かしこまりました」


お菓子が全て仕舞われベッドの上には私が着るであろう洋服が置かれた。

シリル様が立ち上がったので私も立ち上がり外へ出るのを見送り、ドレスを脱いで膝丈まであるワンピース?を着てタイツを履き、ブーツまで用意されているので履き替え、熱いと感じる程の上着のボタンを首まで締めてから外へ出る。


「手袋は必要ないでしょ?」


そう言われていつもつけている手袋に目をやってから花婿さんの手を見ると手袋がない。


「手袋はいらないのですか?」

「いらない、手を取りたいから脱いで?」

「は、はい」


人に触れた事など1度もない、物心ついた頃…覚えている記憶を探ってもいつも手袋越しだ。

触れても問題ないのは分かっている、竜人様方の魔力量は比べ物にならないのだから。

だけどなんだか……少しだけ怖いと思っている私の右手を掴み手袋を指先からするすると外していき、反対側の手袋も外される光景を眺めていた。


「寒くなる」

「かしこまりました」


ぶわっと冷たい風が顔中に当たり、暖かかった雪は冷たく髪に降りかかっても頬に降りかかっても、私の手に降り落ちても意思があるようにするりと消えていかない。


「お手を」

「は…い」


差し出された手の上に軽く乗せようとするけれど、緊張して動かなくなってしまった。


「ふふ」


そんな私の手を下から掴まれて、冷えていく手を暖められているような錯覚に陥る程のぬくもりにぎゅっと握り返した。


「雪はどう?」

「冷たくて…」


手から目線を外して見上げた空から落ちてくる雪は冷たくてとても…


「好きです」

「僕も雪が好き」


その言葉に花婿さんを見つめるとほわほわとした笑みなのに、なぜかほろほろと泣いていて、どうしたのかと問いたかったけれど、私の頬を濡らす熱にどうして私も泣いているのだろうかと思うけれど。


「僕はクローディアが大好きだよ」

「私もシリル様が大好きです」


自然と出てきた言葉と、花婿さんの言葉と、手のぬくもりと、雪の冷たさと青のまん丸な瞳を近くで…とても近くで感じて。


やっとお会い出来たと。


心からそんな感情が湧き出て涙が止まらない。


花婿さんが泣いている理由もそうであったらいいなと思います。


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