20歳
街に繰り出してみたいという願いを父親に届け出ては却下されてしまう。
理由は分かっている、私の魔力量が高いが故に人との接触は相手方が、街行く人々に害をなしてしまうから。
けれど1度だけでいい、1度だけ花婿さんへの贈り物を自身の手で選んで渡したいのです。
商人の方が部屋に並べて下さる品々を見ても納得がいく物がない。
もうすぐ21歳の誕生日がきてしまう、そうして迎えに来て下さる花婿さんへ贈り物をしたいのです。
花束を持って現れるだろう彼に私も花束を持って待とうかと考え、庭に目を向ける。
花束を持っておく事は叶わないけれど、空間魔法で仕舞っておけば取り出して渡す事が叶うかもしれない。
けれどなんの花束がいいのだろうか…いえ、それこそ商人の方に持って来てもらえば…ああ、やはり自分で摘み取った花がいいです。
そうだわ、ヤグルマギクの花とたくさんのカスミソウにしよう。
青の花を白の花で囲えばきっと、花婿さんによく似合う。
カスミソウは商人に、ヤグルマギクはもうじき咲くので綺麗に咲き誇った1番の物を選ぼう。
『無駄な時間を使わせるのがお前の趣味か』
きっとこれは私宛てではないのだろう。
感情と魔力が膨れ上がって痛みを与えてしまう方法を変えてみせると随分前に仰っていた。最近、痛みはないけれど、こうして鋭いお声が届くようになってしまった。
聞いてはいけない気がして最初はお伝えしていたのですが、会えるまで我慢して欲しいと何故かお願いされれば私に嫌はないので、お気になさらずとお返しした以来、度々このようにお声が耳に届く。
『僕の花嫁』
「はい」
『っ、また届いてた』
「聞こえておりました」
こうして私の知らない所でも呼んで頂けているのだと嬉しく思う。
出会った時に声が二重で届いたらどうしようと花婿さんは最近、心配しております。
このような事例はない為、手探りだと仰っておりました。
二重に聞こえたら困るのかと時々考えますが、なってみないと分かりませんね。
それでもお声が耳に届くのなら私は構わないと思ってしまいそう。
『なにしてるの?』
「花言葉を調べておりました」
『花に言葉があるの?』
「ございます」
『それなら交換で本も貰おうかな』
「いくつかリストを作っておきます」
『ありがとう』
王城の図書への入室許可をすぐに出して護衛に声をかけようとして止まる。
庭園で摘む花と商人を呼んで頂けるように手紙を書いて、今度こそ声をかけて渡す。
「花婿さん」
『ふふ、花嫁さん』
最近は様々なお菓子を取り寄せては空間魔法で仕舞ってを繰り返しています。
気に入って下さった物があれば交換したいとお聞きしましたので、出来うる限り集めている。
私も最近はお菓子を口にする事が多くなってきました、密かなお茶会や、ふと声をかけられた時に何故か摘まみたくなるのです。
『まだ結界が張ってある…』
「時期ではないですよ」
『はぁー…』
花婿さんは結界近くに行ってはほつれていないかと確認しているそうです。ほつれていたら直して欲しいのですが、そういう意味でないのは分かっているからこそ頬が赤くなり、なんだか恥ずかしくなる。
早く会いたいとお伝えしてくれるのも嬉しいですが、こうして行動して下さる事も嬉しく思う。
『………争いってどうしてなくならないのかな』
仕事についてでしょうか?私宛てではない声のほとんどが鋭く気を張っているような音ですから、もしかしたら揉め事が起こっているのかもしれません。
『花嫁さんはどんな事が起これば争う?』
どんな事…争いをした事がないので分かりませんが、私は何の為に反旗を翻すのか…
ああ、簡単ですね。
「結界が解けないのなら無理矢理こじ開けようとしてしまうでしょう」
『っっ、はぁー…!もう、花嫁さんは年々可愛くなってくる』
「あ、ありがとうございます」
『そうなったら僕もこっちからするから手伝ってね』
「もちろんでございます」
待っているのです。
ずっとずっと待っているのですよ。
ですから21歳になった年の3月25日が過ぎてしまえばもう待てない。
初めてお声を聞いた時はそういうものだと認識していた、私は既に婚約者がおり、お相手が決まっていると。
けれど毎日お喋りをして一緒にお茶をする日々が続くと、かけがえのない日常になっていく。
ゆっくりと積もるように心の中で花婿さんへの想いが溜まっていき、今では溢れ出る気持ちを抑えるのに必死です。
お会いして鱗を飲ませて頂き、そして死まで一緒に居たい。
これは花婿さんの願いではなく私の願いなのです。
私自身が望むたった1つの事。
『なにがいいだろう…』
「どのような事でしょう?」
『…最近は制御出来ないみたいだ』
「失礼致しました」
『いいんだよ、君の事を考えていただけだから』
私も口に出した方がいいのでしょうか………ですがきっと、花婿さんの周りには竜人様達がいらっしゃってお声を出しているのだから、独り言とはまた違うのではと思うと、やはり言葉に出さなくてもいいのだろう。
花婿さんも私が想う気持ちを嬉しくなって下さるのでしょうか。
「私も花婿さんの事を考えております」
『いたっ!』
「どうされました?」
『…なんでもない』
「さようでございますか」
目の前にいて下されば分かるのに…
会いたいです。
早く。
いえ、このままではいけません。
迎えに来て下さる日までやらなければならない事はたくさんある。
使者として来て下さる竜人様へ交換の品、望みの品を知っているのは私だけなのですから、準備とリストを作り、恥ずべき姿でないように自身も整えなければなりません。
そういえばとクローゼットへ行き姿見で確認してみるけれど…花婿さんの好みというのはあるのでしょうか?ですが好みを伺っても私は私でしかいられませんから聞くのはやめておこう。
パチパチと瞳を動かすと左目に青色と魔法陣が浮かぶ。
このお色味を見ると最近はドキドキしてしまいすぐに目を閉じてしまう。
『なにかした?』
「し、失礼致しました、陣を見てしまったのですが、痛みなどがありましたか?」
『ふふ、ないよ』
「そうでしたか…」
『僕を見てたの?』
「そ…!」
『僕も紫を見てしまう、君が見たくて』
「は、はい」
『繋がりが深くなっていくのを感じる』
「…」
『僕の花嫁…』
ささやくお声に何故だか両耳を押さえてしまう。
ドキドキと心臓の音が煩い、
ふと鏡を見ると赤い顔が目に入り、咄嗟にクローゼットから飛び出て机に戻る。
『君の瞳も僕の物だ』
聞きたいのに聞きたくなくて耳を塞ぐ。
そんな事をしても無駄なのに。
今は心を落ち着かせたいのに。
『君の名を呼んだらどんな顔をするのだろう』
きっと酷い顔です。
さっき見た私の表情は誰にも見せられない程に酷いのに、名前を呼ばれたらきっと…
『声を聞かせて』
「は、い、」
『何か読んで欲しい。今日は花嫁さんの声を聞いていたい』
「すぐに」
頭を何度かふるふるとして書庫に向かい、長く読める本を数冊取り部屋に戻る。
「世界史に溢れている人間は魔法を使用しているが、それは果たして正しいのだろうか。正しさを…」
読み聞かせているようで自身の心を落ち着かる為に読んでいる気がする。
文字に集中し仕事の邪魔になってはいけないと花婿さんのように小さなささやく声で読む。
夕食の時間になるまで読んでいた、時たま笑い声が聞こえる音を耳にしながら。
今日は忙しいのだと仰っていたのでしばらくベッドに入った後に声をかける事を躊躇してしまう。
気遣っているのではなく出来れば“おやすみ”を伝える場所は花婿さんのベッドで言いたいという私のワガママで。
何度も口を開いては閉じてしまう私の耳に花婿さんの声は聞こえない。
“僕の物だ”と言われればストンと胸に落ちてくる、花婿さんの物でありたいと…花婿さんの花嫁でありたいと願う心は私のモノ。
『花嫁さん?』
「はい」
『寝る時間を過ぎてる』
ワガママな心をなんとなく隠してしまいたくなるけれど、花婿さんに隠されると悲しい気持ちになると思い正直に告げる。
「花婿さんがおやすみになられる時に…」
尻すぼみになっていく私の声はどう聞こえているのでしょう。
『花嫁さんが眠る時に僕は言いたい』
「はい」
『同じだね』
同じ…そうなのですね。
私と同じ気持ちでいて下さっている。
「おやすみなさい」
『おやすみ、僕だけの花嫁さん』
はい、私だけの花婿さんです。




