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花嫁さんと花婿さん  作者: ユミグ


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3/9

19歳


『お誕生日おめでとう』


目が覚める前にささやく声でお祝いして下さる花婿さんにくすくすと声が漏れてしまいます。


『ふふ』


花婿さんの誕生日は11月17日、私の誕生日は2月4日。

私もお祝いの言葉は贈ったけれど、なぜだかもう1度言いたくなりました。


「ありがとうございます、花婿さんもおめでとうございました」

『ふふ、ありがとう』


今日の夜はお茶会を開くのです、ジェリービーンズとチョコレートと紅茶を寝室に置いて。

お祝いのお茶会を開いて下さるのですよ。

早く夜にならないかとそわそわしながらベッドから出て支度するけれど、ドレスを手に取ると少しだけ憂鬱な気分になる。


「内緒ですよ?」

『嬉しいな、なにかな?』

「お昼は少しだけ…億劫な気持ちになりそうです」

『それは僕もだ』


今日は婚約者がお祝いにと来て下さる日。

行事を欠かさないあの方は良き婚約者だと思うのですが、既に婚約している気持ち…というより、婚約者だと花婿さんが竜人様のお国では既に伝えてあると聞かされておりますから、なんだか悪い事をしているような気分になるのです。

私がお伝え出来ない事情も話してあるから心配しないでと仰って下さったので心配はしておりません。

ですが…いけない事をしているような気になるのはきっと、婚約者の為にと誂えたドレスを手にしているからですね。


私が20歳になれば通常は結婚をするのですが、竜人様の結界が破られる年が近い為、この時期の結婚が遅れるのは通常の事。支度も交換する品も選び、竜人様の気分を害さないようにと徹底した準備が行われる。

その事に心の底から安堵した。

竜人様が来ればすぐに式を挙げる為、20歳になれば準備も始めますが、公爵子息であるあの方に別のお相手が見つからないかと探したいのですが…外に出れる訳もなく、そして私以外に触れられる者が居ないのは分かりきっている事なので、なにも出来ずじまい。


『花嫁さんは僕の事だけ考えて』

「失礼致しました」

『僕はいつだって君の事を考えてる』

「はい」

『僕の物だ』

「かしこまりました」


少しだけ気分が浮上しながらドレスに着替えていく。


『僕の花嫁は君だけだ』


でしたら私の花婿はあなた様だけですね。


『今年の贈り物はなんだと思う?』

「少し考えさせて下さい」

『待つのに飽きたら声をかける』

「はい」


今年はなんだろう、靴もピアスも…身に着ける物は全て贈り物として私のクローゼットに仕舞ってあると言われている。

早く扉を開けて中をゆっくりと見てみたい。

サイズが合わなくとも構わない、その時の私へと贈られた品を見て大切に仕舞っておきたいのです。


お菓子かもしれない、それとも髪飾り?

花束はお会いする際に渡すからと言われて楽しみにしているので、花束ではないと思うのだけれど…

もしかしたら竜人様のお国のマナー本や常識が乗っている本かも。


「本ですか?」

『ふふ、残念』


朝食も終わり本を読んでいる最中なのに、ちっともページが進まない。

もしかしたら最初に戻ってドレスかもしれないと考えると、それなら他の物もありそうだとまた悩んでしまう。


「ブランケット?」

『どうしてそう思ったの?』

「ご一緒に眠ると伺いましたので、2人でもかけられるブランケットかと思いました」

『そういう物はもう整えてあるから、贈り物とは別』


驚きです。クローゼット以外にも誂えている物があるなんて…私の居場所がもう作られているのですね。

早くお会いしたいという気持ちよりも、早く帰りたいと願ってしまう。


「い”っっ!?」

『っ、ごめん!』

「問題ありませんよ」

『ごめんね…ごめんなさい』


お声が届いてからたまに瞳が痛み出す時がある、そういう時は花婿さんの感情と魔力が膨れ上がっているのだと教えて頂きました。

年々頻度が増えていくので、花婿さんが心配になります。


「花婿さんは大丈夫ですか?」

『大丈夫だよ、まだ痛い?』

「いいえ」

『ちょっと暴れて発散して来ようかな?』

「ご無理はなさらないで下さい」

『しないよ、花嫁と死ぬまで一緒にいるんだから。無理なんてしたらいられなくなるでしょ?』


よく手合わせをすると仰っていましたからきっと体を動かしに行くのだと思います。

花婿さんはこういう時、必ず発散しに行くと言いしばらくお声が聞こえない。

ですが必ず小さな、ささやくお声で『僕の花嫁』と柔らかな口調で戻って来て下さるのです。


その後も本を読みつつも贈り物の内容を考えていた。




「失礼致します、エルマー・アワーバック公爵子息が到着されました」

「ありがとう」


護衛の方が扉越しに知らせてきたので身支度を完璧に整えてから扉を開け、応接間に向かう。

極力歩く事にしている、美しい所作を身に着ける為に。


「クローディア・ウィズダムです」

「入りなさい」


扉を魔法で開くと婚約者が立ち上がり手袋越しにキスをする動作をされ、肘を差し出されるので手を軽く乗せると、場所を覚えたのか転移で食事の席まで連れて行かれる。


「アワーバック公爵子息、転移は許可された際か緊急時以外でしてはなりません」

「君はお堅いんだね」


そう言いながら席にエスコートされるので座るけれど私はお堅いのでしょうか、そういう私は花婿さんにどう見えているのか…


初めてマナー以外の目線を気にした。


花婿さんは私を見て満足なさって下さるのでしょうか…もしも幻滅されてしまったら…


婚約者が食事を始めたのを見てスプーンを手にしようとした時。


『式で挙げるドレスが完成したよ、僕の花嫁』

「っ」

『贈り物はお揃いの懐中時計』


ああ、早くクローゼットを開けたい。


「誕生日おめでとう」


はっと婚約者の声で顔を上げる。


「ありがとうございます」

「祝いの品は後で受け取ってくれ」

「かしこまりました」


いけない、どんな時でも完璧な所作でいなくては。

少しだけ息を吐き全ての動作に集中する。


『僕の花嫁だ』


はい。


『君に触れたい』


私も触れてみたいです、手袋を外して、直接感じてみたい…花婿さんを知りたい。


『食事なんてするな』


そう言われて気付く、花婿さんはどなたかと食事を共にする時があるのでしょうか。

花婿さんは話し上手ですからきっと会話が弾むのだろうと考えると…


なんだか気が重い。


これはきっと…


「顔合わせは済んだ」


いけない…顔合わせ…ああ、両家の顔合わせですね。

私達が参加しない顔合わせは済んだと手紙に書いてありました。


「存じております」

「公爵夫人としていくつか覚えなければならない事があるから何度か来てもらう」

「かしこまりました」

「要望はあるか?」

「ございません」

「進めておく」

「かしこまりました」


食事が終わると転移で帰った婚約者を確認してから部屋に戻る。

公爵邸へ向かうなら準備を整えておかなければならない、必要な物を手紙に記し、ドレスと装飾品の確認をして追加で必要な物もいくつかあったので、それも手紙に記し護衛に渡す。

紅茶を淹れて一息ついたところで花婿さんに話しかける。


「贈り物をありがとうございます」

『こっちに来たら僕にも贈り物をして欲しいな?』

「もちろんでございます」

『何か考えてあるの?』

「…秘密です」

『ふふ、秘密なら仕方ないなぁ』

「はい、式の…ドレスも楽しみです」

『絶対に似合う』

「はい」

『懐中時計を見ているけど…君を見ているようだ』


私も花婿さんを感じたいです。


今回の結界が解けるのは私が21歳になった一月後の3月25日。

花婿さんにも確認しましたが、合っているそうなのでその日が待ち遠しいです。

上空に住まう花婿さんは今、揃いの懐中時計を眺めている。


私は天井を見上げて見えない花婿さんを思う。






少し早めに寝室へと向かい、淹れたばかりの紅茶とジェリービーンズとチョコレートを空間魔法から取り出してベッドの上に置く。


「準備が整いました」

『ちょっと待って!』

「くすくす、慌てないで下さい」


そのように大きな声も出せるのですね。

まだ知らないたくさんの花婿さんがきっとある。

それを早く知りたいと願ってしまう。


『出来た!』

「くすっ、はい」

『チョコレートを食べよう』

「はい」


1つ掴んで口に放り込む。

チョコレートもジェリービーンズもまだ好きではないのです。

きっと味が違うと思うとそちらのお菓子を好きになりたいと思い、お菓子の好きを空けておいている。


『5個食べた』

「ん、まだ1つです」

『僕が20個食べるまでにどれくらい食べられるかな?』

「そんなに食べられません」

『そのうち食べるようになるよ』


竜人様には特殊な鱗が存在する、そしてそれを人間に飲ませると寿命が延び、魔力量も増えると教えて頂きました。

ですがそれが重要ではなく、長い時を共に生きたいと望んだ相手に飲ませる事で確たる2人となり祝福され、片方が死すれば相手も死ぬ。

竜人様同士なら飲ませ合う者も稀にいらっしゃるようですが、私は竜人ではない為、花婿さんの鱗を飲む事になると…魂だけで繋がるのではなく、死まで繋がれると仰って頂きました。


鱗を飲むかどうかは君が決めるといいと言われた際、迷う事なく私は“はい”と答えた。

食事の量も増えると教えて頂きましたので、きっと私ももうすぐ、チョコレートが20個食べられるようになります。


『ジェリービーンズとチョコレートで人形の顔が作れるんだよ』

「そうなのですか?」

『一緒に作ってみよう』

「はい」

『きっと好きになる』

「はい」

『チョコレート22個食べた!』

「くすくす、私は2つ目が終わりました」

『次はジェリービーンズ』

「はい」


紅茶を飲んでチョコレートの甘さを消してからジェリービーンズを口に運ぶ。

こんなに楽しい誕生日はもうない…と毎年思う。

そして毎年、違う楽しさが生まれるのできっと来年も楽しいです。


そして22歳の誕生日は今までで1番の楽しさが生まれます、絶対に。


『君の頬はどんなぬくもりだろう』

「花婿さんのほっぺはふくふくな気がします」

『ふはっ!ふくふくじゃなくても触ってくれる?』

「もちろんです」


もう2つ、3つと、ジェリービーンズを口に運びながら花婿さんの頬がジェリービーンズでいっぱいになったのを想像してしまって笑いが止まらなくなる。


『ふふ、なあに?』

「くすくすっ、ふふ、たくさん口にジェリービーンズを詰め込んだ花婿さんを、ふふ、想像してしまいました、ふふっ」

『じゃぁ、僕が次に食べる時は花嫁の前にしよう』

「我慢はよくありません」

『我慢じゃないよ、楽しみなんだ』

「…でしたら私もお会いして一緒に食べるまで楽しみに取っておきます」

『詰め込むから見ててね?』

「くすくす、はいっ」

『横になって』

「ふふ、はい」


ベッドの上のお菓子を空間魔法で仕舞ってから紅茶を飲み干して、洗浄魔法で綺麗にして仕舞ってから寝室に入る前にしたけれど、もう1度自身にも洗浄魔法をかけて横になる。

右側を空けて、右を向きながら目を瞑る。


『僕の花嫁さん』


小さなささやきに、もしかしたら花婿さんも横になってくれているのかと思う。


「はい」

『君を抱き寄せたい』


花婿さんは温かいのでしょうか、それとも冷たいのでしょうか。


『早く…腕の、中に…』

「おやすみなさい花婿さん」


ストンと眠りについた私が起きた時1番に耳にするのはきっと…


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