歌い手、はじめました!
私は小さい頃から、歌い手に憧れてきた。
Yautubeで人気者になるのが夢だったのに…
「下手くそが何調子乗ってんの?」
「ゆうきが好きなの!」
思うようにいかない現実に、恋愛に。波乱だらけの活動!?どうなっちゃってんのよ〜!!!(エコー)…………
「あっち〜〜……」
私は牧野まい、大学4年生。
現在ベットに寝そべり授業をサボり中。
大学4年生ってさ、大学のキラキラしたイメージも剥がれて、なんとなく効率良く生活しているつまらない人間になるんだよね。
「あー…エアコン…」
エアコンのリモコンはぐちゃぐちゃな机の上。今いるベットは離れていて、取りに行くのもめんどくさい。かといってこのままだと蒸し風呂で温泉卵になりそう。
私はなんとか重い体を引きずり、リモコンへと手を伸ばした。寝起きだからか狙いが定まらず、積まれていたペットボトルががらがらと音を立てて雪崩れた。
「まい〜〜!!起きたの!?あんた今日もサボり!?もう学生生活最後なんだから少しくらいーーー」
母の聞き慣れたセリフが一階から聞こえてくる。お察しの通りサボりは常習犯だ。
(パジャマを剥ぎ机のものをどけた)
とはいえ、いつまでもこうだらけているとさすがに飽きてきた。
私はパソコンを開き、大学のマイページに見に行く。せめてたまっている課題でもやっつけよう。私えらすぎるでしょ。
カタカタ……
ピロン。
通知が届いた。
課題を入力していたのに視界が少し遮られる。
「邪魔だな………ん?」
届いた通知は、Yautubeから。そこには、
「え…、メロくん!?約10年ぶりの復帰!?マジで!?!?」
そこそこでかめの声が出た。メロくん。中学生の時にハマっていた、歌い手だ。
私は急いでYautubeに飛ぶ。
久しぶりに聴く彼の声が、最近流行りの曲と共に耳に流れてきた。変わらない、爽やかさと甘さが絶妙に混ざった彼の歌声。
フラッシュバックする。中学の部活が終わったらダッシュして帰り、家族用のボロパソコンでYautubeを押す。長い起動中、わくわくしながら爆速で着替えていたあの頃。…
「懐かしいな…」
私は歌をループしながらしばし鑑賞に浸った。
「そういえば、あの時のボロパソコンどこにやったっけ。なんか見たくなってきたな。」
私は少し軽くなった体で、母のいる一階へ向かった。
「ねえお母さん、中学の時使ってたパソコンってどこやった?」
洗濯物を干している母に聞く。
「は?確か、お父さんの部屋にしまってなかった?」
「マジ!ありがとう!」
私はまたどたどたと階段をのぼり、2階の父の部屋に入る。東京で仕事中だから、探すのは今がチャンスだ。
「どれどれ…」
私は引き出しという引き出しを片っ端から開け、ついに見慣れた色の四角い物体を見つけた。
「よし!あった!」
私はすばやく取り出し、自分の部屋へるんるんと持っていった。もちろん隣にあった専用の充電器も持って、ポチッと開いた。
「うわ、長…!これもまたなつかし〜!」
体幹10分ほどローディングを待ち、今はない起動音を聞けた。染み付いた手つきで、ファイルにあるメモを開く。
「あ、そういえばメモなんて書いてたっけ。さすがに内容は覚えてないな…」
メモを開封すると、そこには【大人気歌い手まい!】と書かれた、へたっぴなイラスト付きの文が出てきた。
「えなにこれ…!?恥ずかし…!?でもやってたわ確か!!」
そこには、当時流行っていたボカロ一覧と自分が歌っている絵、コメントで自分を褒めた文がたくさん書かれていた。よくこんなバリエーション思いついたな。
そっか。昔は夢なんて持ってたっけ。何でもできる気がして、楽しい自分を想像して。わくわくしていた毎日。それなのに、今は将来なんて考えずサボってばっかりだ。
いつからこうなってしまったのか。大人になると夢なんて忘れるというが、いざ自分が直面するとなんだか不甲斐ない気分だ。
「…今やっても、遅いかな。」
このままでいいのか。就職して社会なんてでたら、もう変わる機会なんてなくなってしまうだろう。
私は決意した。夢を叶えてみよう、と。