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二話〜超優良物件〜




『ブロンダン公爵家はグラニエ国でも有数の貴族だ。君も名前くらいは聞いた事があるだろう? そのブロンダン公爵家の嫡男の結婚相手にエレノラ嬢を推薦したい』


 その日もいつも通り家庭教師を終え帰宅しようとしていた所を、侯爵に呼び止められお茶に誘われた。


『私ですか⁉︎』


『嫡男のユーリウス殿は、公爵家の跡取りにして現在王太子殿下の側近をされている。頭脳明晰で容姿は眉目秀麗、その他に馬術や剣術など優れた腕を持っている素晴らしい人物だ』


 話を聞く限りかなりの優良物件だ。

 こんな機会はもう二度と巡ってこないだろう。

 ただ気になるーー


『あの、何故()なのでしょうか?』


 不審な目を向けると、侯爵はバツが悪そうにあからさまに目を逸らした。


『あー……実は知人に頼まれたのだが、年頃の娘が君くらいしか思い当たらなかったのだよ……』


 怪し過ぎる……絶対何か裏がある。

 エレノラは眉根を寄せる。

 

『う、嘘ではない、ただ……』


『?』


『相手に、問題があってな』


『問題ですか?』


『ユーリウス殿は、その、少し女性に興味が強いらしく……』


『ハッキリ仰って頂いて宜しいでしょうか?』


 奥歯に物が挟まったような物言いをする侯爵に、冷たい視線を向ける。

 すると諦めたようにため息を吐いた。


『無類の女好きなんだ。その所為で、中々結婚が決まらないそうだ』


 前振りで大体予想はついていたので別段驚きはしないが、やはり腑に落ちない。

 

『それだけですか?』


『ああ、そうだ。解せないか?』


『はい』


 女好きな男性など珍しくない。

 それに貴族なら政略結婚が普通なので、外で恋愛と名の浮気をする人間も多いと聞くし、そんな理由で結婚が決まらないなど考え辛い。

 特に話を聞いた限り、その公爵家の嫡男の他の条件を考えれば得しかない。

 女好きだからといって、彼と結婚したい女性は山ほどいる筈だ。


『先程、私は()()の女好きと言ったが、噂では常に数十人もの女性と身体の関係があるとされている。正直、ここまでくると病気だ。恐らく結婚したくらいでは変わらない』


(数十人⁉︎ 愛人候補がそんなに⁉︎)


 今はただの火遊びでも結婚したらそれはただの浮気だ。幾ら政略結婚でも、愛人が数十人はあり得ないだろう。何処かの国のハーレムじゃあるまし……。

 因みにこの国の王は后妃の他にも妃がいるが数人程度だ。それを考えると侯爵のいう通り病気かも知れない。


『その為、彼と一晩過ごしたい女性は後を絶たないが、結婚を望む女性は皆無なんだ』


『それはそうなりますね。ですが、それで何故私に……』


『公爵はもはや選り好みをしている場合ではないと思っているそうだ。ただそうは言っても、余り身分が低いのも考えものだろう。そこで、それなりの身分があり障壁の無い君が適任ではないかと思ったのだよ』


 要するに、一応伯爵令嬢だが親が反対もしない都合のいい娘という訳か。随分と安く見られたものだ。


『折角のお話ですが、他を当たってーー』


『最近、多額の負債を抱えてたと聞いた』


『‼︎』


 断ろうとすると、侯爵から予想外の話が出た。


『実はこの結婚に同意して貰えるなら、フェーベル家の負債の倍額を支払う……と相手側は言っている』


(負債の倍額⁉︎)


 そんな金額を貰えたら、借金を返すだけでなく屋敷の修繕や弟達にも色々と買ってあげられるだろう。それに使用人達の給金に色を付けてあげられるし、無論、孤児院の子供達に嗜好品も買えて貧しい人々には美味しい食事が配れる。

 

 一瞬にして脳内を期待感に包まれた妄想が駆け巡るが、侯爵の言葉に引っ掛かりを覚える。

 ”相手側は言っている”との言葉から分かるように、推薦したいと言いながら事前にエレノラの情報は渡されており既に交渉に入っているようだ。


『正直、君は息子の良き家庭教師であるので手放すのは惜しいが、君の為なんだ』


 如何にも涙ぐましく話すが、恐らく本音はブロンダン公爵家に恩を売り更には自分の株を上げたいのだと思われる。


『エレノラ、君は聡明な娘だ。もしかしたら、君なら彼を変える事が出来るかも知れない』


 言葉を変えて、あの手この手で説得をしてくる。兎に角必死だ。

 

(彼を変えるね)


 乾いた笑いが出る。

 まさかエレノラにその嫡男を躾なおせとでも言うつもりだろうか。

 自分よりも七歳も年上の男性を? 冗談じゃない。


 だが正直、気持ちは結婚へと傾きつつある。

 負債の倍額……実に魅力的だ。


『そういえば品位維持の名目で、毎月侯爵家(うち)が支払っている給金の十倍は出すそうだ』


(給金のじゅ、十倍⁉︎)


『ブロンダン公爵は、体裁の為にも息子に妻を据えたいだけだ。使い道は好きにしてもいいと話していた』


(使い道は自由……)


 思わず息を呑む。


『他にも諸々、手当を付けるとも聞いた』


(手当てまで⁉︎)


『どうだろうか? 存外悪い話では』


『そのお話、お受けします‼︎』


 侯爵の声を遮り思わず立ち上がる。

 更にはテーブルに手を付き前のめりになりながら返事をした。

 余りの高待遇につい我を忘れてしまった……流石に行儀が悪いと反省をした。


 こうしてエレノラは、お金目的で結婚する事になった。


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