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一話〜夫不在の初夜〜


 一応初夜なのに夫は不在だ。

 その為、使用人達は頗る気不味そうにしている。

 あれから本当に彼は出掛けてしまい帰ってくる気配はない。食事も一人で済ました。

 

「奥様、あの……寝床の準備が整いましたが……」


「ありがとう。後は大丈夫だから、下がって頂戴」


 申し訳なさそうにそう告げる侍女に、エレノラは満面の笑みで答えた。

 



「ミル、おいで」


シュウシュウ〜


 ベッドに座り名前を呼ぶと、真っ白な小さな毛玉はちょこちょこと駆け寄ってきた。

 十センチ程で黒くつぶらな瞳と全身白い毛で覆われているそれは、エレノラのペットもとい家族のモモンガだ。

 数年前に森で弱っていた所を拾ったのだが、とても懐いておりエレノラの側から離れようとしないので生家を出る際に一緒に連れてきた。


「今日は疲れちゃったし早めに寝ましょう。それにしても、ベッドがふかふか〜! 食事も美味しかったし、正に天国だわ」


シュウシュウ!


 ミルはベッドの上で跳ねて遊んでいる。

 巨大なベッドは大人が四、五人寝ても問題なさそうな程大きく、そしてなによりふかふかで気持ちが良い。枕もシーツの肌触りも格別だ。

 改めて部屋を見渡せば、豪華な調度品が目につく。

 

「本当、高そうな物ばかりね……」


シュウ?


 色んな意味でため息が出た。


 エレノラ・フェーベルーー亜麻色の長い髪は一つに纏めて編み込み、身長は平均的だがかなり細身だ。自慢出来るような容姿ではないが、母譲りのすみれ色の瞳だけは気に入っている。

 そんなエレノラの生家は伯爵家ではあるが、ど田舎貴族な上に貧乏だ。

 収入はそれなりにあるのだが、伯爵である父が良くも悪くも人が良く、収入の半分以上を教会や孤児院への寄付や貧しい人々への施しに使ってしまう。その為、伯爵家は万年火の車だった。

 屋敷の維持費すら厳しく、使用人も数人雇うので精一杯だし調度品などは買い替える余裕もない。

 仕方がないので、近隣の森で薬草などを採り売ったり、家庭教師をして稼いでいた。

 エレノラには弟が二人おり、母は幼い時に亡くなっているので自分が確りしなくてはならない。弟達には不自由はさせたくないと日々頑張っていた。


 そんな中エレノラが十七歳となった時、父がやらかした。

 どうやら知人の借金の保証人になっていたらしいのだが、その知人は逃げてしまった。無論その借金は丸々父が引き継ぐ事となり……今に至る。

 正直、寄付などを止めればどうにかならなくはない。だが、これまで継続的に行ってきたので突然止めれば子供達などが困窮してしまうかも知れない。

 そんな風に頭を悩ませていた時だった。

 家庭教師をしている子供の父親ーー雇い主である侯爵から、ブロンダン公爵家へ嫁がないかとの話を持ち掛けられた。


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