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記録60 A Chronicle Woven from Threads and Unknown Scripts

長らくお待たせしております。

惑星クトゥリウム最果ての第9帯域で、生き抜くすべを見つけ出せ。

ストリングスが、キリキリと音を立てていた。

耳ではなく、骨に、肌に、神経に微かに響く音。それは超微細な振動で、静寂の海に命の痕跡を刻み、時間をわずかに前へと進めていた。


――道を示すために。

――帰り道を失わぬために。


ヴェルヴェット号から切断されたストリングスは、アリアを中継地点として新たに張り直され、ついに地下都市の底へと共鳴波を届けていた。


吐息は白く、冷たさが肺を刺し、呼吸の音すら無音の世界に溶けて消えた。この地下はまるで冷凍保存された空間だった。崩れた構造物の影は、数万年、数億年を経ても、昨日まで誰かがいたかのように輪郭を保っていた。


時間が流れることを拒んだ都市。その闇に、シェーネたちは今、足を踏み入れた。


……微かな風が、どこからともなく通路をなぞり、金属の奥でかすかな音を響かせた。

誰もが一瞬だけ、深く息をついた。


足元の乾いた金属の床が、微かに音を返す。バルゴら探索班の記録が示した経路は正確だった。罠もなく、生活感もない。ただ、無機質な壁と沈黙だけが続いていた。


そして、いくらか進んだ時、シェーネたちは先の部屋からわずかな人気を感じた。手信号で息を合わせ、3人の動きが音もなく分かれた。

銃口が闇に持ち上がり、影が視界の奥に映った瞬間、指に力がかかる。


「待ちな!!」

シェーネの声が鋭く響き、引き金を止めさせた。


……音もなく、緊張が解けた。

闇に沈んでいたのは、銃口を向けるべき相手ではなかった。そこにいたのは、ザルヴァト商会の探索班の姿だったのだ。


ゼムは床に散らばった資料をかき集めようと身を屈めた姿で。

リラは通路の奥を見据え、仲間に声をかけようとしたその一瞬で。

セオは制御盤に手を伸ばし、指先にわずかな緊張を宿していた。

カイルはその背後で制御盤を覗き込み、言葉をかけようとした姿で止まっていた。


だが、一人の姿がない。ただ、足元に残る足跡だけが、最後の足掻きを物語っていた。

それはバルゴのものだ。その足跡は暗い通路の奥へと続き、戻ってきてはいなかった。


……闇の奥から、冷たい空気が吹き寄せ、ストリングスの微細な振動がわずかに強く感じられた。


エルナの直属の部下で船医のミラ・スケリッジが前へ出て、脈を探り、光学センサーで瞳の反応を確認した。

「……カイル・ヴァシル、リラ・ジン、ゼム・クライス、セオ・ヴァンオール……確認しました」

その声は冷静でありながら、熱がわずかに滲んでいた。


指がストリングス通信デバイスを叩き、共鳴波に声が乗る。

「こちらミラ・スケリッジ。探索班、発見しました……しかし全員、意識がなく硬直状態です……私たちがあの時、時間に囚われた、あのままです……ここは第9帯域の深部……だからこそ、時間の呪縛がより濃く彼らを絡め取っている……そして……バルゴ・サリム……キャプテンの姿がありません。足跡は奥へ……続いています」


報告が途切れた静寂の中で、遠くでストリングスが張力を調整するような微かな音を立てた。


アリアのブリッジで、エルナはわずかに息を詰めた。声は出さず、口元を閉ざし、背後でざわめくクルーの声が空気を震わせた。そしてエルナは、端末越しに深く頭を垂れた。


《……キャプテン・シェーネ……》

わずかに震える声。

《どうか、我らがキャプテン、バルゴ・サリムを……救ってください。》


その姿は見えなかった。だが、その頭を深く垂れた重みが確かに伝わった。



――シェーネの脳裏に、アリア艦内でのブリーフィングの光景が甦った。


赤い警告灯の明滅が、ブリッジの壁に影を揺らしていた。

机の上には探索班が持ち帰った手記の束、金属片、書類の断片。

擦れた文字、滲んだ線、震える指で刻まれた鉛筆の跡。


ザルヴァト商会の分析班は解析を終え、静かに告げた。

《保存状態は良好……推定、40億年以上前のものです》


DDが低く呟いた。

《ノーデンスの森、イレム砂漠……あれらの文明はせいぜい20億年前、10億年前……》


シェーネは目を細めた。

「この星の文明は……生まれ、滅び、また生まれ……繰り返してきたのね。」


DDが頷いた。

《第9帯域だけが、この高所にあった……じゃから、これほどの保存状態で、最初の残響が生き残ったのやもしれんのう》


ストリングスの振動だけが、命の音を刻み続けていた。



シェーネらは、探索班を発見した場所に簡易テントを張り、ストリングスを繋ぎ直す。テント内に探索班の面々を移し共鳴波を与えた。空から届く波は弱く、全員に分散させる数のストリングスも持ち合わせていなかった。

シークレットとミラの二人を、彼らが目を覚ますまでの間、待機させることにした。



そして……暗い通路の先、シェーネとオダコンの二人は足跡を追った。


やがて、バルゴが残したであろう紙片の断片を拾い上げる。朽ちかけた端に、震えるような字が刻まれていた。


「星の拒絶を越える術を求める。この地の文明は、その解を得ようとしていた。だが、彼らもまた、星の意思に屈したのだろう。ならば、私はその答えを……見届け、必ずここから脱出する」


シェーネとDDは目を交わしたかのように、無言で頷いた。それは自分たちが各帯域を進む中で導いた推測と、同じだった。


そして数時間の探索の果て――。

辿り着いたのは、文明の始まりすら遡る神殿だった。崩れかけた巨大な建造物。黒い大空洞に沈むその輪郭だけが、星の歴史の深淵を語っていた。


沈黙の中、DDが小さく呟いた。

「……やはり……祈りに、たどり着くのじゃな……」


ストリングスの微かな響きが、その神殿の闇へと吸い込まれていった。

この惑星、銀河の中でも最古の文明に等しい過去をもっているようです。

未知なる惑星は未知のまま、ロマンの中で海賊共はどうやって生き抜くのか?


英語にこだわって題名を書いていますが、日本語訳を書いた方がよければコメントください。

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