エピローグ そして、星だけが知っている
ノクス・ヴェルム編
エピローグです。最後までお付き合いください。
無音の宇宙に、星々は静かにまたたいていた。
ノクス・ヴェルムという名の星は、もはや存在しない。
痕跡すら。まるで、最初からそこに何もなかったかのように。
**アポステリオリ**――現実に変わった現象。星の記憶すら、宇宙から消えた。
タキオンジャンプで救助船団が消え去った後、ただ一隻、アマデウスだけが残っていた。
静かに、星々を見上げるアイ。
その手には、震えるような微細な動きで打ち込まれる、ひとつのログ。
LOG: ノクス・ヴェルム、観測終了。記録データ保存。残存生命体、確認できず。旅路、継続。
アイの視線の先、瞬いた星々の間を、一筋の光が流れる。
流星――。
それは、誰かの命のかけらか。
あるいは、滅びた星々の、最後の祈りか。
アイは、それを見つめながら、小さく呟いた。
「行きましょう。……あなたと共に」
彼女の隣、深い眠りについていたケイの指先が、微かに動いた。
アマデウスは、静かにエンジンを吹かし、辺境の小さな惑星へと降り立った。
……
船内の空気は、冷たく乾いていた。
無骨な壁に走る亀裂と、応急処置されたパネル。
ケイは、ゆっくりと目を開ける。
「……ここは……」
「あなたが目覚めるのを、待っていました」
アイがそっと答える。
その声は機械のものではなく、どこか温かみを帯びていた。
彼女は淡々と、これまでの出来事を語った。
ルシアとアエドが、ノクス・ヴェルムと共に還ったこと。
ダグは、ルードゥスへ向かい、ロビン・ウェインのもとへと帰っていったこと。
生き延びた者、旅立った者。
失った者、残った者。
すべてを聞き終えたケイは、目を閉じたまま、静かに呼吸を整えた。
そして、立ち上がる。
窓の外、小さな星々が瞬いている。
ケイはその光を見上げ、ぽつりと呟いた。
「――生きるか」
アマデウスは静かに漂いながら、星々の海へと溶けていった。
その遥か彼方。
宇宙を翔る一隻の黒い船影があった。
海賊ヴェルヴェット号。
彼らもまた、それぞれの願いを胸に、新たな航路を切り開いていた。
それぞれの旅路は、まだ終わらない。
ノクス・ヴェルムの仲間達に「お疲れさまでした」
と言いたい気持ちです。
個人的に、とても長い旅になりました。
お付き合いいただきありがとうございました。
何度も修正を加えたにも関わらず、読んでいただき本当に感謝しています。
次のストーリー
またゆっくりと練って書いていきたいので、しばしお待ちいただければ幸いです。