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記録21 沈黙する鉱都

新たな惑星ノクス・ヴェルム、ここは一体どんな惑星なんでしょうか?

沈みゆく暗黒の惑星『ノクス・ヴェルム』


かつて、無数の採掘基地が星を覆っていた。資源を貪り尽くすために建設された精製プラント、都市と見紛う巨大な坑道網、休むことなく稼働していた重機の群れ。しかし今、それらはすべて黒煙を纏い、腐り落ちている。


金属の街は、もう金属すら残していない。ただ、空洞になった坑道だけが闇の奥に口を開けていた。


静寂が支配する惑星の上空、アマデウスが大気圏へ突入する。機体全体が微細な振動に包まれ、シートの隙間から軋む音が響く。センサーが大気の密度変化を警告するが、それ以上に感じるのは――惑星の拒絶だ。


ケイはシートに深く腰を沈め、片手で固定ベルトを締め直した。


「……」

黙って目を閉じる。振動が体の芯まで響き、鼓膜を震わせる。


「この星に“何か”いるな」

深く息を吸い神経を研ぎ澄ませる。


「感知範囲に反応なし。”黒蝕”はあまりに微細で反応はしません。ですが、それ以外にも何もいないとも、断言できませんね」

アイの声が無機質に響く。アマデウスと意識を共有する彼女もまた、何かを感じ取っているようだった。


コクピットの前面に展開されたモニターには、ノクス・ヴェルムの降下ルートが映し出されている。どこまでも暗黒ガスが広がり、視界は絶望的に悪い。


「……“暗黒ガス”ってのは世間の呼び方か」


「えぇ。この星の住人は“黒蝕霧(こくしょくむ)”と呼んでいるようです」

ケイは窓の外を見た。


黒蝕霧――それは、機体の周囲を纏わりつくように、ゆっくりと波打っていた。

流動的な煙が、アマデウスの機体に絡みつき、表面を這うように動く。

まるで何かを探るかのように。


「動くものに吸い寄せられ、吞み込んでいく……」

「その性質が“黒蝕”の名の由来かと」


静かに会話を交わしながら、着陸準備を進める。


「今回の目的は“ジョン・ジョー”の捜索だ」

ケイは目を開き、暗黒の霧の向こうを見据える。


「えぇ、ロビン様の話ですと、彼はこの星で消息を絶ったと……」

「……この最悪の環境で、ヒト一人を探すのは至難の業だな」

ケイは左右に首を振り、鈍い音を鳴らす。そして、モニターに点滅する最終交信地点を映し出した。


それは――地表ではなく、惑星の奥深くに続く“暗黒の口”から発信されていた。


「……地下だったか」

「えぇ。元は採掘施設でしたが、今はほとんどが崩落し、唯一残された坑道の奥深く――そこから通信が送られてきたようです」


モニターに映し出された映像が、ぼんやりと形を結ぶ。

巨大な穴。かつて採掘された坑道の跡。崩れた鉄橋。

そのすべてを、黒蝕霧が蠢きながら覆い尽くしている。


「ロビンには、その後の通信は?」

「いいえ。ジョン・ジョーからの通信は、ここで途絶えています」


「ケイ、アークは無数に存在しています。私たちが手に入れた小袋はそのほんの一握り。アーク……エルドラードが消失する以前から、世に解き放たれていたのでしょうか?」


「……それとも」


「それとも?」

アイは言葉を飲み込み、機体の微細な制御に集中する。


その時、ケイは鼻で笑った。

「ジョン・ジョーが何を見たのか。それがアークに繋がるのは間違いない。なら、オレ達はオレ達で道を切り開く」


「えぇ……」

アイは淡々と同意し、コクピットの前面に着陸予測地点のマーカーが細かく点滅する。


「ケイ、着陸地点まであと2分です」

その瞬間、機体が大きく揺れた。警告音が鳴る。


「……歓迎されてはないな」

ケイは呟き、視線を窓の外に向けた。

黒蝕霧の隙間に、かつての鉱業都市の亡骸がぼんやりと浮かび上がる。


「こんな星のどこかで、ジョン・ジョーは何を見たのか」

――あるいは“何か”に飲まれたのか。

その答えは、これから彼ら自身が確かめることになる。





アマデウスの機体は、黒蝕霧を切り裂くように降下していく。

センサーが警告を発する。

《外部装甲、微細な侵食を検知。大気循環を遮断します》


ケイは静かにモニターを睨みながら言った。

「さっさと降りよう。長居する場所じゃない」


表に近づくと、シェルター都市のドックが見えてきた。

かつて鉱業用の宇宙船が出入りしていたであろう巨大なハンガー。しかし、その姿は無惨だった。

外壁には無数の穴が空き、何度も補修された跡がある。表面の金属が黒く変質し、ところどころ剥がれ落ちている。かつて稼働していたドックのクレーンやコンベアは、もはや動かない。


シェルターの管制塔から、静かな通信が入る。

《こちらシェルター51第3ドック。識別コード確認。降下を許可する》


アマデウスのエンジンが制動をかけ、ゆっくりと、歪んだ金属床に接地した。


ドックのゲートが閉まり、内部は完全な密閉空間となる。

警告音が鳴り、機体の周囲にある黒蝕霧を排出する作業が始まった。内部の気圧を一時的に下げ、機体の外部に付着した霧を排出する。排出された霧は、特殊なフィルターを通じて隔離される。

その後、清浄な酸素が循環し、ようやく安全が確保される。


アイは計器を確認しながら淡々と告げる。

「外部汚染クリア。酸素濃度、安全値まで回復」


ケイは、やや乱暴にシートのロックを外し、静かに言った。

「…ようやく落ち着けるな」


ハッチが開くと、冷たい金属の空気が流れ込んでくる。

外に出た瞬間、ケイは鼻をしかめた。

――消毒液と機械油の匂い。酸素はあるが、まるで"生きた空気"ではなかった。


都市へ向かう通路には、シェルターの住人たちが行き交っていた。彼らは皆、強度の高い防護服を着ている。ヘルメットをかぶり、背中に酸素タンクを背負っている。

一部の者は、上半身だけ防護服を脱ぎ、ヘルメットを腰にぶら下げていたが、明らかに慎重な様子だった。

そして


ケイとアイの姿を見て、一人の整備士らしき男が言う。

「お前ら……物好きだな。こんな星に何しに来た?」


ケイは男を見上げ静かに答える。

「ちょっとした用事さ」


都市全体は、かつて鉱業都市だった名残を色濃く残していた。

壁面には無数の「補修跡」があり、何度も張り替えられたパネルがつぎはぎのように貼り付けられている。天井には、かつて鉱業用のクレーンがあったが、今では使われていない。通路の照明は暗く、赤色灯が点滅する箇所が多い。

一部の住人たちは、顔に酸素マスクを常に装着し、まるで"宇宙船の中"にいるような状態だった。

そして、なにより特徴的なのは、ここの住民たちは甲人属有副肢類(クアドリス)という特殊人種である。この鉱石惑星で生きていくために進化した種族である。


彼らには二種類の人種がいる。

①「副腕種」(精密作業を得意とする種族)

✔ 外骨格が発達し、鉱石を扱う精密な動きが得意

✔ 主の腕2本+副の腕2本を持つ(副の腕は小さく、器用な動きができる)

✔ 採掘後の鉱石加工や機械修理、シェルターの補修を担う

✔ 道具の開発や、鉱石から特殊な武器を作る職人もいる


②「副足種」(高所作業・採掘特化した種族)

✔ 関節が柔軟で、天井や壁に張り付いて行動できる

✔ 足の爪が発達し、鉱石の壁に突き立ててしがみつく能力を持つ


その4本足の作業員が天井に逆さまに張り付き作業をしていた。


「…世界は広いですね」

「あぁ、流石に初めて見る種族だな」

二人は物珍しそうに行き交うヒトビトを観察した。



二人が着陸したここは、シェルター都市ディープホロー。「酸素供給施設」が都市の生命線であり、それが破壊されれば全員が死ぬ。特殊フィルターを通して地上の酸素と黒蝕を分別し、なんとかこの地中深くのシェルターに酸素を供給している。だからこそ、都市の防衛は異常なほど厳重だった。 壁のいたるところに、監視カメラと自動砲台が設置されている。


ケイとアイが都市の中心部に入ろうとすると、二人組の武装警備員に止められた。

「お前ら、新入りか?」


片方の男は、古びたボルトアクションライフルを持っていた。

もう片方は、電子スキャナーをケイに向ける。


アイは淡々と答える。

「識別コードは提出済み。通行を許可してください」


警備員は無言でスキャナーを確認し、ケイを一瞬、睨むように見た。


「お前達外部の人間だ。見ての通りオレ達とは明らかに違う種族だ」

「だが、ここで騒ぎを起こすような愚か者にも見えない。何をしに来た?」

副腕を組み、主腕に銃を持つ警備員が問う。


「…数年前にここを訪れただろう男を探している。その反応をみるに、異星人は珍しいんだろ?知らないか?」

ケイは単刀直入に聴いた。


「……そんなヤツはいたか?」

「いや、聴いたことは無いな。人探しか……仕方があるまい。目的を成したなら出来る限り早々にここを立ち去れよ」

「お前たちにやる酸素や水が惜しい、全員の命綱だからな」

警備員たちはしぶしぶ二人を通した。


ケイは短く頷き、

アイと共に、シェルター都市の奥へと歩を進めた。

かなり工夫した惑星とその環境にしています。この惑星で展開されていくストーリーをお楽しみください!かなり悩みつつなので、投稿に時間がかかるかもしれませんが是非続けて読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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