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記録16 終焉の抱擁

圧倒的なアイの力を見せ、そして…。

不気味に雨の上がった明け方のビネス。分厚い黒雲に覆われた空。エリュシオン・パレスの最上階で、狂気に支配された赤羽の鳥人属(ガルーダ) ローク が、血の匂いにまみれながら獣のように咆哮した。


咆哮とともに前に突き出されたヘルディバウアー。その銃口からプラズマを帯びた弾丸が放たれる。

超高速のレールガン弾が唸りを上げ、壁、床、天井を粉々に砕いていく。

しかし——


ケイには、当たらない。


彼はただ静かに歩き続けていた。

まるで、ロークの猛攻が何の脅威にもならないかのように。


「グギャアアアアア!!!」

ロークは震えながら、狂ったように引き金を絞り続ける。


カスリもしない。

手をかざすケイ。

レールガン弾は、まるで意思を持ったかのように軌道を逸れ、ケイを避けていった。


ロークには、その異常が理解できなかった。

だが、ケイの目元には異変が生じていた。


——隈


目の下に広がる 黒い影 が、ジクジクとうごめく。

まるで蛇のように皮膚の下を這い、じわじわと広がっていく。


「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」

ロークはレールガンを乱暴に振り回しながら突進した。


ケイは、静かにナイフを抜く。


ロークのレールガンが振り下ろされる。


刹那、ケイの姿が消えた。


レールガンの一撃は床を打ち砕き、地面がクレーターのように抉れる。


だが、ケイはそこにはいない。


「……?」


ロークが戸惑うより早く——


刃が閃いた。


次の瞬間、ロークの右腕が宙を舞った。

切断された腕が地面に落ちる。


ロークは後方へと大きく退き、絶叫し、膝をつく。

「グ……アアアアアアアアアアアアァッ……!!!」


のたうち回り、血が滝のように流れ、床を濡らす。


そして——視線を落とした先

ロークの足元に、血に塗れた妻と子の亡骸があった。


ロークの目が揺れる。

嗚咽が漏れる。


「アイシャ……リオ……」


彼は震えながら、手を伸ばそうとする。

だが、そこに腕はもうない。


それでも、彼は何かを救おうとするように、伸ばし続けた。


ケイは、その光景を無感情に見下ろした。

銃を抜き、無言で引き金を引く。


——。


銃声。


ロークの胸に、大きな穴が開く。

彼の巨体は崩れ落ち、亡骸の上に倒れ込む。

まるで最期に抱きしめるように。


「アイ……シャ、……リ……ォ……」


彼の声は掠れ、途切れた。

——それが、彼の最後の言葉だった。


ケイは、一瞬だけその場に立ち尽くした。

だが、何の感情も抱くことなく、銃をしまい、静かに背を向けた。




——アイが駆けつけ声をかけた。


「……ケイ……」


「……終わったか?……そこの三人を連れて…行くぞ、アイ」

彼は命じる。


アイは無言でワイヤーを伸ばし、三人の遺体を拘束する。 機械のように正確な手つきで。

だが、その目に映ったのは、ロークの両腕が妻と子を抱くように倒れている姿だった。


一秒の沈黙。


アイは何も言わず、ワイヤーを引き締め、片手で三人の遺体を持ち上げる。

雨音の消えた静寂の中、ただ彼女の心音だけが響いていた。冷却装置の音と共に。


その音に、ケイはふと足を止め、アイを見た。

彼女もまた、ケイを見ていた。


静かな視線——。


何か言いたげに口を開きかける。


「……私は…あなたのアンドロイド」

ぽつりと呟くように。


「あなたに従います。あなたは私とは違う……あなたは……」

言葉の続きはなかった。


アイはそのまま遺体を引き上げ、機械的な動作で歩き出す。

ケイは一瞬、その言葉の意味を考えた。

だが、それ以上は何も言わず、窓際まで歩き出した。


頂から辺りを見渡すと、極限まで五感の研ぎ澄まされたケイの目には、騒然とする下の者たちの様子がはっきりと映る。

シンセサイザーを経由して、必要な情報のみが彼の脳へと伝達される。温度や湿度、大気の動き、そこに混じるガスや燻る火種まで。


まるで冷徹にロークを暗殺したケイ。

この先に待つ、エリュシオン・パレスの終幕劇。

次話 お楽しみに。

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