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記録12 オアシスの崩壊

ロビンとの出会いが彼らにもたらすものは何か?

ここから先はルードゥスに根付く闇との闘いです。

刮目せよ。

「情報が欲しい」

ソファに腰かけたままのケイは少し前のめりになりロビンに言った。


ロビンは静かに指をトントンとテーブルに打ちつけながら、じっとケイを見つめた。

「お前が情報を欲しがるなんて珍しいな」


ケイは答えず、ただ視線を返すだけだった。

ロビンはため息をつき、背もたれに寄りかかった。

「それで? 何が知りたい?」


「アークだ」


その単語を聞いた瞬間、ロビンの表情が一瞬固まった。


「その様子を見る限り、多少は知っているようだな」

ケイはロビンをじっと見つめて問いかける。


彼はそのリスクを理解していた。アーク――それは単なる違法取引の品ではない。ロビンが知る限り、それに関わった者たちはことごとく消され、誰も真相に辿り着いたことはない。それほどに危険な代物だった。


ロビンはケイの顔を見つめながら、無言でエールを口の運ぶ。彼にはケイに対する大きな借りがあった。過去、マフィアの抗争に巻き込まれ、命を落としかけたとき、偶然にもケイが彼を救った。もっとも、ケイ自身はロビンを助けたつもりなどなかった。ただ、道端の石ころを蹴ったようなものだった。

ただ、その恩義もあり、ケイはクラブのVIP会員となれたのだ。


だが、その借りすらも超えるほどに『アーク』という言葉は危険だった。


ロビンは低くつぶやく。

「お前もわかってるよな? その話に踏み込むのは、冗談抜きで命を賭けることになる」


ケイは微動だにせず、ただ静かにロビンを見据えた。


「……ったく、お前というやつは」


ロビンは苦笑し、指でこめかみを押さえながらソファにもたれかかった。

「まあ、俺も何かしら情報は持ってるさ。ただし――」


ロビンは指を立てた。

「等価交換だ」


「……何が望みだ?」

アークの危険度について認知しているケイは、貸しのあるロビンの提案は十分納得がいった。


「まあ、ついてきてくれ」

ロビンはケイを連れて地下へと向かった。入口は分厚い金属扉で封じられ、そこには全身を重装備で固めた巨体の警備員が二人立っていた。


ロビンが扉の前に立つと、警備員の一人が無言で顎をしゃくった。ロビンは低く短く**アルコル**とコードワードを呟く。


『ピッ』


声紋認証装置が作動し、機械的な音が響く。

扉の奥には、薄暗く湿気のこもった空間が広がっていた。天井には古びた換気ファンが低く唸り、壁には過去の取引でついた焦げ跡や銃痕が散見される。そこには無造作に並べられたカウンターとガラスケースがあり、中には精巧な銃器や密輸されたテクノロジーが陳列されていた。


二人は足を踏み入れると、店の奥から無骨な男が姿を現した。頬には古傷が走り、腕にはタトゥーが刻まれている。彼はロビンを一瞥し、無言のままカウンターを指で叩いた。ロビンは軽く頷き、無言でケイに目配せをする。


「ここはアルコル……セブンポイントのもう一つの顏、密売所だ。ここの連中は信用できるが、客には容赦しない。余計な動きはするなよ、グリム」


ケイは淡々と周囲を見渡しながら、壁に並ぶ銃器を目にする。その中には最新のエネルギー兵器や、戦場でしか見たことのない旧式の火器まで取り揃えられていた。


「なるほどな……」

ケイは小さく呟いた。


ロビンの経営するここは、表向きはクラブ7.(セブンポイント)として、裏では武器の『密売所アルコル』として、多くの客を抱え、違法改造された武器や様々な情報の売買を行っていた。

しかし、ロビンは鳥人属(ガルーダ)にはこの密売所の出入りを認めていなかった。それが彼の信念だからだ。


ロビンは売人と短い会話を交わし、更に奥の部屋へとケイを招き、そこにある端末を操作して監視カメラの映像と売買履歴をチェックする。

そこには一人の客が映っていた。


武器の入った黒いケースを抱える客は、ここから出ると少し先にある角を曲がった。

ーーそこにある監視カメラに映像が切り替わる。

モニターには、赤羽の鳥人属(ガルーダ)の男が映し出されていた。彼の目は充血し、全身を激しく震わせ、異様な動きでケースを持つ客に飛びかかる姿が捉えられていた。


客は強化骨格を備えたサイボーグ人間だったが、一瞬のうちに赤羽の男に叩き潰された。路地裏に響く衝撃音とともに、装甲はひしゃげ、まるでただの鉄くずのように転がった。赤羽の男は対象をものすごい力で振り回し、殴りつけ、ケースを奪うとまるで獣のように飛び跳ねながら消えていった。


監視カメラに映っていたその男は、正気を失いながらもどこか理性の残滓を持ち、何かを探し求めるかのように暴れ回っていた。


ロビンはモニターでその映像を見ながら、苛立ちを隠せず、拳を軽く握り込む。いつもの冷静さは消え、分子タバコを何度も吸い、落ち着きなく目を動かしている。


「『バルハラ』使用者だな。クラブが……オレたちのオアシスが、こんなもので汚されるとはな……」


ケイはロビンの表情をみても、声色を変えることなく淡々と返す。

「バルハラ?」


ロビンはタバコの煙を吐きながら、低い声で答える。

「バルハラはな……戦場で生まれた狂想薬だ。最初は兵士の士気を高めるために開発された。恐怖を消し、痛覚を鈍らせ、殺戮に特化した存在に変える……いわば、戦うためだけの狂人を作る薬だ」


ケイは黙って聞いていた。


「今でも末端戦争では使用される最悪の薬だ。その依存性の高さと即効性の強さから、裏市場で流通し続けている。特にルードゥスでは、仕事のない鳥人属(ガルーダ)や貧しい若者たちがこの薬に手を出し、抜け出せなくなっている。戦場で使われたものと比べて質が落ちたとはいえ、依存すれば最後には廃人になるか、最悪、制御不能の殺人鬼だ。……ここ数年で急激に増えた依存者、出どころが不明だったがついにここまで……」


ロビンはタバコの火を見つめながら、口角を歪める。

「ここは鳥人属(ガルーダ)の最後の救いの場所であるはずだった。だが、バルハラの売人どもがここにも忍び込み、客を薬漬けにしようとしている。そしてついに、この男が現れた……」


ロビンは苦々しく、爪を立てた小指で額を擦った。


「……何故こいつは、ここまでして武器を……くそ、時間がない!近いうちに事が起こるぞ」

ロビンの拳が震えた。その瞳に映るのは、かつて自分が築き上げた安息の地が、静かに侵食されていく現実だった。


彼の声には怒りと無力感が滲んでいた。彼が地道に築いてきた聖域が汚され、崩壊しようとしている。

もしクラブが摘発されれば、そこにいる仲間達たちは再び路頭に迷う。ロビンは、それだけは避けたかった。彼にとって、このクラブが生き残ることこそが信念であり、それを守れなかった自分の無力さが彼を苛んでいた。


ケイはBOLRを取り出し現在時刻を確認した。


「……18時間前か……おおよそ半日前だな。そうか、まだ大事になっていないことを考えると、事が起こるとすれば、もうすぐか……」

ケイは呼吸をするように冷静に呟いた。


「……ロビンさんよ。奴が奪っていったあれは何て武器だ?ここにあるなら見せてくれ」

少しの沈黙の後、ケイはロビンに問うと、ロビンは売人に目配せする。

売人は売買履歴から奴が奪っていった武器を特定し、カウンター奥の倉庫から出して見せてくれた。


「これだ。『ヘルディバウアー』……」

売人はケースのラベルを眺め、深刻そうな面持ちで説明する。


ロビンは無言でそのケースを受け取り蓋を開ける。中には、ずっしりとした黒鉄のレールガンが収まっていた。


「これだ。連射型のレールガンだが、通常の兵士が扱うには重すぎる。軍用の強化外骨格を着込んでやっと実戦で使えるような代物だ」


ケイはそれを見て、腕を組みながら眉頭を僅かに引き上げる。

「なるほどな……こんな鈍重な重火器でも、バルハラの使用者にとってはハンドガンと変わらないかもしれない。これを振り回されでもしたら、街一つ飛ぶぞ」


その時、ロビンの通信デバイスが短く震えた。


『ボス。バルハラ使用者の足取りがわかりました。昨晩、奴はクラブ近辺でもう一人の売人を襲撃し、追加のバルハラを強奪しています。その後、彼の足取りはしばらく途絶えていましたが、今朝未明に別の売人の遺体が発見されました。状況から見て、バルハラの過剰摂取による発作の可能性があります』


ロビンは舌打ちし、眉間に深い皺を寄せた。

「奴はすでに限界を超えている……理性はほぼ残っていないか」


《それだけじゃありません》

部下の声がわずかに強張る。


《売人を襲った後、奴は市街の裏路地を転々としながら、途中で装甲車両の警備員を襲撃しました。目撃者によると、尋常じゃない跳躍力で飛びかかり、一瞬で相手を仕留めたとか。しかも、その警備員はフル装備の機械義肢だったにもかかわらず、関節をへし折られていた……》


ロビンは深く息を吐き、目を伏せた。

「バルハラの副作用による異常なまでの身体強化……急激に侵されている証拠だ。厄介すぎる」


ケイは黙って聞いていたが、ふと端末を操作し、地図を確認する。

「最後の目撃情報はどこだ?」


《……ビネスの歓楽街で最も大きいカジノ……エリュシオン・パレスです》


ロビンはクチバシを鳴らし、腕を組んで天井を見上げる。

「最悪の場所に行きやがったな……グリム、すまない。頼めるか?急いでくれっ」


ケイはゆっくりと部屋の出口まで歩いた。そして、ロビンの方へ手のひらを向ける。

ロビンが怪訝そうに眉をひそめた瞬間、彼は拳を握った。

ロビンの風切り羽がわずかに震え、空気の揺らぎを感じる。ケイの存在が異様な重圧をまとったように感じた。


「……グリム?」

ロビンは低く問いかけた。


ケイは何も言わず、そのまま静かにアルコルを後にした。



――外ではアイが待機していた。すでにスーツに着替え、彼女の青い瞳が薄暗い光に輝いていた。


「準備はできたか?」

アイはわずかに頷くと、面を被り迷うことなく飛び上がり、壁を蹴って屋上まで駆け上がる。


アイの足跡が壁に刻まれる。それは彼女の圧倒的な重量を物語っていた。

屋上に到達すると。ケイは宙を駆けるエアバイクの一台に狙いを定める。すれ違う瞬間、そのエアバイクのハンドルを強引に掴み、男を引きずり下ろす。驚愕する男を横目に、アイはチップを彼に渡した。


「受け取って」


ケイは無言のままエアバイクにまたがり、トップスピードで空を駆ける。アイの重量にエアバイクは耐えられないため、彼女は屋上を飛び移りながら駆け抜けていった。



あと数分の距離に差し掛かったとき――

遠目に見えるエリュシオン・パレスのネオンが不自然に歪む。次の瞬間、爆発音が夜空を切り裂き、ビルの上部から炎が吹き上がった。


「……急ぎましょう、ケイ」


闘いはすでに始まっていた。

それぞれの名前、人物・クラブ・薬物など。命名にこだわってみています。是非、その設定の意味が何か、探ってみてください。より面白くなるかもしれません。


ケイとアイの二人は間に合うのでしょうか?

すでに戦いの火蓋は切られました。

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