表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/117

エピローグ 未来を歩くために

これから共に歩くために。

アマデウスの艦内は静寂に満ちていた。スラスターの低い唸りと、壁を走る光の筋だけが生命を示している。窓の外に散る星々は凍てついた宝石のようで、ひとつだけ脈動する座標が遠くに息づいていた。漂流衛星『モノリス』。


操縦席のケイが短く言う。

「航路固定、誤差なし」


隣のアイが即座に応じる。

「モノリスまで27時間43分56秒。軌道に通常の重力則は働いていません。……人工的な修正が加えられている可能性が高いです」


その言葉に艦内の空気がひやりと冷えた。メシエは後部の座席に腰をかけ、胸の奥の熱を感じていた。恐怖の名残りか、それとも未知への昂ぶりか、自分でもわからない。


ケイが外套の内側から、小さな黒い結晶を取り出す。光を吸い込みながら内奥で微かに揺らめくそれは、惑星ノクス・ヴェルムで回収したという黒蝕核。


(……ノクス・ヴェルム?)


「……これがオレたちの行き先だ」

短く低い声が響く。


メシエは息を呑んだ。結晶を見た瞬間、頭の奥に疼きが走り、視界が淡く歪んだ。恐怖と嫌悪、それでも目を逸らせない。災厄の残滓でありながら、確かに“歩む理由”を形にしたものだと。


アイが静かに言葉を落とした。


「黒蝕核、アポステリオリを経て尚、消えることの無い事実。これはこの世界の因果の外にあるのかも知れません」


言葉は淡々としていたが、その奥に微かな畏れが滲んでいた。彼女は一瞬だけ瞼を伏せ、再び視線を上げる。


「……私たちの未来は、この先に──」


艦内に短い沈黙が落ちる。ケイは答えず、ただ前を見据えるだけだった。



メシエは座席に腰を下ろしたまま、端末の画面を開き、指先で文字を刻む。旅を始めてから、実はずっと日記をつけている。誰にも見せたことのない、自分だけの声。



『パパ、ママ──


もうすごく前のことに感じてる。まだ怖い夢を見るけど、それでも毎日必死で。ただ生きるために前を向くしかないよ。


還りたいと思うことは無くなったよ。歩く場所は変わったけど、私は前を向けてると思う。ケイもアイも冷徹に見えるけど、でも一緒に歩いてくれているんだ。なんでだろう、まだそれはわからない。


それに、世界がこんなにも汚れているなんて……ううん、純粋なんて知らなかった。生きるって本当に大変なんだね。


私を拾ってくれてありがとう……だから、ちゃんと未来へ向かいたい。


私は、私が生まれてきた意味を知りたい』



メシエは指を止め、息を吸う。画面には拙い文字が並び、震えや迷い、弱さや希望が刻まれていた。正確無比なアイのログとは違う、個人の証のような文字列。それでもいいと思えた。これが自分の存在証明だから。


窓の外、星々は変わらぬ光を放っている。その中でひとつ、脈動する光点、モノリスへの座標が見えてきた。メシエは立ち上がり、その光を見つめる。胸の奥に熱が宿り、震える指を握り直す。


「……私は歩く」


誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。


──未来を歩くために。


アマデウスは静かに宙を進む。星の海を裂き、まだ誰も見ぬ未来へ。

エピローグいかがでしたでしょうか?

短い章でしたが、次のステージへ。

メシエの成長と共に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ