倉木リアナは悩ましい
ト書き。座長の鬼高知に呼ばれた褐色のハーフ顔を持つ倉木リアナは、廊下を歩き座長が控える事務室の扉をノックした。
「失礼します」と述べて入室。
来客をもてなす向かい合わせのソファーの手前に、座長が座りリアナへ背中を見せていた。
座長はリアナに視線を向けることなく「おぉ、来たか?」とだけいい、片手で持ち上げたスマホの画面を熱心に観ていた。
思わず画面の中を覗く。
ウソ?
この人、人前で平然とエロ動画を観てる。
小さい画面の中には、行為に至ったばかりの男女の姿が映っていた。
「なぁ? 倉木リアナル……リアナ」
エロ動画を観ながら話すから、人の名前を間違えた。
最低すぎる。
「何か悩みがあるんだろ? 言ってみろ」
今の悩みは座長がエロ動画を見続けていることだけど。
この人、スマホでエロ動画観ながら、私の人生相談にのろうとしてる。
信じられない。
私はとりあえず、話を切り出す。
「その、私は演技を今のまま続けていいのかと、悩んでいまして……」
「はぁ~ん。なんで?」
「最近、テレビ局やエンタメ業界のオーディションに落ち続けてて」
「あぁ~んん。で?」
ちょっと、あえぎ声みたいな疑問形を言わないでよ。
「やっぱり、私はハーフのタレントで人よりも肌が黒く見えるので、それが原因なのかなって」
「本当にそう思うのか?」
「この前、オーディションで私のアピールが終わった後、面接をしたプロデューサーとスポンサーが小さい声で『この子は使いづらい』と会話していたのが聞こえたので」
「ほぉー、なるほどね」
鬼高知座長はしばし間を置く。
でも、エロ動画からは頑なに視線を外さない。
「まぁ、ワイの立ちバックから言わせてもらえば……立場から言わせてもらえば」
もう、この人キモチ悪い!
「お前の芝居を見ているとな……演技に集中しているように見えないんだよ」
今はエロ動画を見てないで、こっちの話に集中してよ!!
「アナルをどう思う?」
「?」
私は座長の話を推測してみた。
「いえ、リアナです。倉木リアナ」
「あ! リアナはどう思う?」
座長は自分の間違えに気づくも、何も反省することなく言い直す。
だからエロ動画見ながら語るのやめてよ!
しかも、いつから私のこと名前で呼ぶようになったの?
座長はマタに手を当てながら考えをまとめる。
「そうだな~……例えていうなら、アダルトビデオに出演している、セクシー女優みたいなもんだ。口では気持ちいい、気持ちいいと言っているのに、頭の中で次の段取りを考えていて、実際に気持ちいいかわからない」
最っ悪!!
例えが最悪すぎる。
「わかるか?」
わかるかっ!
「いいか? アナル」
リアナっ!!?
「本当に人を引き込む芝居。それがあれば肌の色とか、人種の垣根なんて飛び越える。でなきゃ、ハリウッド映画や韓流ドラマで日本人が泣いたり笑ったりしないだろ?」
エロ動画観てる人に言われたくない!
何も響かないよ!!
「そういうことだ。以上!」
「はい……ありがとうございます」
私が立ち尽くしていると、スマホから目を離さないまま座長は腰を浮かせ、ベルトをゆるめ、ズボンをズリ下げ始めた。
戸惑ってしまった私は、思わず声をかける。
「あ、あの!」
すると鬼高知座長は音速よりも早く振り向き、目を丸くしながら私と目が合う。
どうやら私が部屋を退室したと、勝手に思っていたようだ。
彼は冷静な声でこっちに話かける。
「お前、なんで、まだいるんだ?」
「まだ、悩んでいることがありまして……」
「いや、悩みなんてないよ。無い無い」
「それは私が決めることなので」
「ワイは疲れてるんだ。早く休んで明日に備えたいんだよ」
エロ動画の前で腰を浮かせて、女性である私の目の前で、ズボンを下げようとしている。
いや、元気そうだけど?
この際、疑問をぶつけてやれ。
「なんで、エ、エロ動画観ながら相談にのったんですか?」
「タイパだよ。タイムパフォーマンス。人生相談にのりながら性欲を処理して、時間のコストを削減してんだよ。ワイは忙しいからな」
マジで死ね!!
「でも相談したいことが、まだ」
「それ気のせいだから。もう帰っていいよ。ほら、早く帰れよ。帰れ帰れ」
座長は腰を浮かせたまま両手で私に向かって、追い払う動作を見せた。
それに呆れた私は事務室を退室して、廊下を歩き始める。
なんなの?
私の悩みよりエロ動画の方が大事だっていうの?
マジで最低な座長!