フリースタイル・ダンジョン
五味さんは獰猛な野獣が威嚇するように、まくし立てた。
「拙者、親方と申すは、お立合たちあいの中に御存知のお方もござりませうしょうが、 お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへおいでなさるれば、 欄干橋、虎屋藤衛門、只今は剃髪致して、円斎いと名乗りまする。元朝より大晦日までお手に入れまするこの薬は、昔ちんの国の唐人外郎と言う人、わが朝へ来きたり、帝へ参内の折りから、この薬を深く篭めおき、 用ゆる時は一粒づつ、冠の隙間より取り出いだす。 依って、その名を帝より、"とうちんかこう"と賜る、 すなわち文字には、「頂き、透く、香におい」と書いて、「透頂香」と申す」
さ、さすが二世俳優!?
早口で読み上げているのに、言葉の一節一節が聞き取りやすい。
五味さんがドヤ顔で座長を見下すと「やるじゃねぇか」と鬼高知座長は、その技量を認めた。
スゴい。まるでラップバトルのフリースタイルダンジョンみたいになってきた。
鬼高知座長は五味さんの挑発に乗る。
どうやら役者魂に火が着いたようだ。
「面白れぇ……いいか? ワイのお手本をよーく聞けよ……」
静まりかえる稽古場に緊張が走る。
見ているこっちが手に汗をかいてきた。
座長は軽く発生をしてから、『ういろう売り』を披露した。
「せっしゃ、オナラと申すわ――――」
え?
出だしで最低な噛み方した!?
みんな耳をそばだててたから誤魔化しようがない。
だって、座長が自分で「よーく聞けよ」って言ったから、みんな集中して聞いていた。
座長は咳払いをして誤魔化した後、一言。
「発声練習はここまでだ。よーく聞いとけよ?」
噛んだのを無かったことにした!?
座長は気を取り直して『ういろう売り』を始める。
「拙者、オナラと申すは、お立ちんぽウンチにオチンチンのお方もござりませうしょうが、 エロ本でお発ってクンニー、センズリ、キカタン、おせっせ、早漏オマタはインポテンツ過ぎて、青姦の超気持ちいいでオッパイでズリになさるば、パイパン橋、パンチラパンモロ、タマタマ、ゲイジャンルに至ってはAVと名乗りまする。カンチョーよりオナホールまで手マンに入れまする、この薬指は、昔、チンの国のトウチンチンという、チンチンのチンがデカチンでチンチンして◎✕△%@¥&$ーーーーアナルファック!!」
座長は五味さんへ渾身のキメ顔で言った。
「どうだ?」
一つも言えてない!?
座長は涼しい顔で五味さんあしらう。
「まぁ、今日はこれくらいで許してやる」
一つも言えてないのに何で、勝ち誇った言い方してるんだ?
呆気に取られる五味さんをスルーして、座長は劇団員に向けて課題を出す。
「稽古はここまでだ。お前ら、しっかり『ういろう売り』を覚えてこいよ!」
多分、劇団員のみんなは思ったことだろう。
《お前がな!?》