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獣体人魂放狼記  作者: 走る花火
死に物狂いのサバイバル編
7/12

5歩目 うだうだ考えるより取り敢えず腹を括れ

何がとは言いませんがDLCのやり込みで更新がさらに不定期になりそうな今日この頃

(クソ! 図体も手数も完全に上で攻め所が見つからない! こんなのが丁度いい相手!? 絶対に嘘だ!)


 降りしきる雨に加えて日が落ちてきたからか、視界が徐々に悪くなっていく森の中を右、左、右、右、左とステップを繰り返し、後方から地面を踏み砕きながら迫ってくる脚から死に物狂いで逃げ続ける。

 今のところ脚自体には当たってないけどすぐ真横を踏み砕かれた土とか岩が通り抜けていくから全然安心できる状況じゃない!

 というか走り出してから体感10分くらい経ってる気がするけどこいつ諦めるって選択肢がないのか!?



 クラスE:塔蜘蛛 ティタンスパドゥル

 種族:剛蟲(ごうちゅう)

 状態:通常

 魔力総量:86/86


【アクティベイトスキル】

〖牙爪術蟲式(ちゅうしき)

 クラスE:〈ヴェノンファング〉

 クラスF:〈スマッシュスタンプ〉〈スマッシュファング〉


巧糸術(こうしじゅつ)

 クラスF:〈粘糸(ねんし)〉〈剣糸(けんし)

 クラスE:〈砲糸(ほうし)〉〈槌糸(ついし)


【パッシブスキル】

〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉


【称号スキル】

〈狡猾なる捕食者〉



(何より一番文句を言いたいのはこれだ! ワニみたいな奴(アイアンドレイク)以上の大きさであれよりも弱い!? なんの冗談だ! 実戦で慣れろとか言ってたけど慣れる前に殺す気か!?)


 回避を繰り返しながら、こんなことになった元凶がいるはずの場所を睨みつけ……絶句。

 次いで追われている最中だってのに一瞬その事を忘れ、頭が熱くなるようなどこか覚えのある感覚がした。

 なにせ視線の先、空の上で肩肘ついて寝転がる自称神様(あの野郎)は、あろうことかこっちをガン無視で以前コンビニで見かけた週刊誌を読み進めていたからだ。ご丁寧に傘まで浮かべている。


「んん? おーおー大変そうだねぇ、頑張れ~」


『誰のせいだと……うわっ!?』


 視線に気が付いたのか、自称神様は一瞬こっちに目を向ける。しかしすぐに週刊誌に視線を戻しながら手を振るだけで済ましやがった。

 ふざけた態度に文句を言おうとするも、注意が逸れたせいで走る速度が僅かに落ち、生まれた隙を刈り取るように尻尾の先端を振り下ろされた巨大な脚が掠めていく。

 ……起きてからほぼずっと走ってるのに疲れがあんまりないのはありがたいけど状況自体は最悪だ、本当に文句を言いたくなる。











 事の発端は大体あいつ(自称神様)のせいだ。


「さぁて少年、攻撃用のスキルはあるかい?」


 満足そうな笑みを崩し、突如自称神様は真顔っぽい表情で俺を見下ろす。


『スマッシュクロウってのがさっき見えたけど、もしかしてあれ?』


「それで合ってるよ、今からその使い方を覚えてもらうからいつでも走れるように構えておいて」


『……走れるようにって、あんた俺に何やらせようとしてんの?』


 嫌な予感が強まり、一応言われた通り身構えながらも俺は自称神様を横目で睨みつける。

 質問に対する答えはなく、代わりに指を鳴らした音が聞こえた。


「ま、百聞は一見に如か──」


 返事と共に向けられた笑顔は突如として発生した地響きと同時に広がる砂塵で見えなくなり、代わりに黒い影が視界に広がった。


(なにが……は?)


 顔を上げると、丁度目を開けた”それ”と視線が合った。

 雨の中でもよく分かる計8個の無機質な光、こっちを()()()()それら全てに薄らと俺が映っていた。

 少し視線を下げれば鎌のような形をした鋭い何かが2本、雨に流されていく赤がそれが何の役割を担っているのかを物語っている。

 見れば見るほど俺のよく知る蜘蛛とよく似ている。もっとも、周りの木に匹敵する巨体に目を瞑ればの話だ。

 一瞬だけ目線を周囲に向けて確認できたのは、その周りの木より少し細い程度の脚が8本。視界の端でそれらが動いたかと思うと、目の前にあった顔が上へ上へと遠ざかっていく。

 そうして完全に立ち上がった姿は、さながら図鑑で読んだタカアシガニを思わせた。


(……こんなのから逃げろってことか)


 走れるようにってのは多分こいつのことだ、正直逃げ切れる自信がな……い?

 蜘蛛の動きが止まる、その目は相変わらず俺を……厳密には、俺の隣を向いているように見えた。


「いやぁ久しぶりに召喚してみたけど相変わらずデカいねぇ、クラスが低い種族にしては迫力だけはある」


 視線の先にいたのは、身だしなみを整えながら楽しそうに笑う自称神様。心なしか、こいつを見る蜘蛛の様子は怯えているようにも見える。

 ……それよりも、今こいつが言ったことの方が気になった。


『クラスが低いってどういうこと?』


「少年が分かりやすいように言うなら……食物連鎖の下の方にいる奴、って感じ? まぁ君には丁度いい相手だよ」


『これで?』


「このサイズで、びっくりだよねぇ。じゃあそういうことで、スキルの使い方は実戦形式で慣れてもらおうか」


『…は?』


「大丈夫大丈夫、結構簡単だから安心しなよ。解析の要領で魔力を爪に込めて振るだけさ」


『いや、そういうのじゃ──』


 慌てて口にした抗議は最後まで聞かれることはなく、俺は心底楽しそうに顔の穴を歪めて空へと浮いていく自称神様を見送った。

 後に残ったのは中学生より低い程度の俺と、俺が飛び降りたビルみたいな大きさの巨大蜘蛛。誰がどう見ても獲物と捕食者って答えるだろう。

 図体に似合わない速さで巨体が動き出す、状況を考えれば目的は十中八九……そういうことだ。

 蜘蛛の真下へ飛び出したのと同時に、大木のような足が振り下ろされた。











(…あいつあとで絶対ぶん殴る)


 内心で毒づきながら蜘蛛の脚が地面に叩き付けられたタイミングでUターンし、木の裏に飛び込んで身を隠す。

 流石にこういった小回りは利かないみたいなのが幸いだ。とはいえ向こうはまだスキルを使ってきていない、名前で大体イメージはできるけど考える必要があるのは使われた時だ、状況が大きく変わる可能性がある。

 けど一番の問題は見た目の割に攻撃が速くて反撃の隙が無いことだ、現状やれることと言ったらさっきみたいに死角を通るかジグザグに避けるくらいしかない。

 薄々思ってたけどジリ貧だな、今こうして隠れてるのがバレてないのは奇跡と言ってもいい。

 ……自分に解析が使えるようになったんだし、一旦再確認してみるか。



 クラスX:虚灰狼ブランクヴォルフェ

 種族:魔狼族

 状態:通常

 魔力総量:60/60


【ユニークスキル】

〈外なる理〉〈吸収:星雲ヲ駆リシ風〉


【アクティベイトスキル】

〖牙爪術狼式〗

 クラスF:〈スマッシュクロウ〉

〖鑑定術〗

 クラスF:〈解析〉


〖魔法〗

《下級自然魔法》

 地属性クラスF:〈テルジラ〉


【パッシブスキル】

〈闇属性耐性〉〈心握耐性〉


【称号スキル】

〈一匹狼〉



 見た感じ使えそうな手札は……一応二つではある、けど爪で攻撃するってのは一旦保留だ。ただでさえ脚から逃げることしかできない現状で踏み潰されに行くような真似はしたくない。

 かといって無理矢理食わされて吸収した妙なスキルはどういうのか分からない以上使いたくないし、魔法(テルジラ)はそもそもの使い方が……いや、待てよ。


 頭に浮かんだのは初めて解析を使った時のこと、あの時読んだ土の柱(テルジラ・コルムナ)の説明文には確か”掌”ではなく地面に直接触ることで出力する拡張詞みたいなことが書いてあったはずだ。

 なら、今俺が持っているこれ(テルジラ)はもしかして──


「ッ!?」


 突如として隠れるのに使っていた木が吹き飛ばされ、その衝撃で俺は前方に弾き出される。体勢を立て直して顔を上げれば、木の破片を脚から落としながらこちらを見下ろす8個の光と再び目が合った。

 ……気づかれたし、もうこの隠れ方は通らないか。けど糸口が丁度見えてきたところだ、試すタイミングが向こうから来たと思えばいい。これで上手くいかなかったら死ぬだけだけどその時はその時か。

 真っ向からその巨躯を睨み返し、口を開ける。相手の動きに警戒しつつ自分の口元に意識を集中、考えが合ってるならこれで──来たッ!


 いっそ愛着が湧いてくるほど経験した体の中で何かが動く感覚。解析の時と違ってそれは口元へと集まり、漏れ出ていくようなことはなく逆に息を大きく吸ってそのまま止めた時のような重みが感じられた。

 今の体じゃ口がどうなってるのかはよく見えない、なのに何故だかこのまま行けるという確信が持てている。さっきまで最悪な状況だと思ってたのに妙な気分だ、悪くはない。

 こっちが何かしようとしていることに気が付いたのか、蜘蛛の牙が突如開いたかと思うと、そこから白い塊が撃ち出された。


「ルォアア!!!」


 それとほぼ同時に、本能的により大きく口を開く。瞬間、口の中から何かが勢いよく飛び出し、顔が押し込まれるような衝撃が襲ってきた。

 仰け反りそうになるのを咄嗟に踏ん張って押え込む。そうしてどうにか強引に前を向けば、糸の塊にたった今自分の口から飛び出したであろうもう一つの塊がぶつかり、小規模の爆発を起こしたところだった。




 (……これが、魔法か)


 思わず唖然とする。

 今の衝撃とその余韻なのか、僅かに痺れが残る口と爆発を考えて威力は相当な物なのはよく分かった。

 これなら何とか対抗できそうだけど……いや、まだだな。これでやっと同じ土俵に立てたくらいか。


 一瞬甘い考えが浮かんでくるも、すぐにそれを否定する。

 今まで噛み付くかひっかくしか手段がなかった状態に毛が生えた程度だ、おまけに経験という面じゃ俺は完全に劣ってる。

 とはいえ隙をついて撃つ、みたいなことができるようになっただけマシだろう、反動は大きいけどそれこそ今度はしっかり踏ん張ればなんとかなる、多分。

 狙うとしたら頭部、もっと言えば顎の部分だ。いくらデカくても流石にそこを何度も攻撃されれば怯みはするだろうし──


(い”っ!?)


 嫌な予感がして反射的に後ろへ跳ぶと、煙を突き破ってきた糸がさっきまで立っていた場所にへばり付く。あと少し遅かったらどうなってたかは考えるまでもない。

 こうして近くで見ると塔蜘蛛って呼ばれてる種類だからかやっぱり糸一本でも太い、塊の時よりも飛んでくるのが速いし絶対に油断できないな。


 追撃が来ないうちに再度走り出し、脚と糸に気を付けつつ塔蜘蛛の観察を始める。

 まず特徴的なのはやっぱりあの大きさだ、さっき考えた頭部周りを魔法で狙うのは体格差を考えると当たる確証が微塵も感じられない。

 距離の問題を考えるなら単純に考えれば脚なら狙える。魔法が効かないくらい硬かったら隙を晒すだけになるだろうけど……試さないとそれは分からないか。


 即座に前肢を地面に叩き付けつつそれを軸に重心を左に傾け、思い切り体を捻って側面を蜘蛛に向けるような体勢で滑りながら停止。雨で地面が柔らかくなってるおかげか、思ってたより摩擦とかの痛みはなかった。

 そのまま泥をはねながら正面に向かって全速力で駆け出す、当然糸は飛んでくるし脚も振り下ろされるけど紙一重でそれらをを掻い潜り、蜘蛛の死角になる真下のあたりまで来たところで再度足を止める。


(……よし、読み勝った)


 顔を上げれば、後ろを振り向こうとしているのか蜘蛛が脚を動かし始めた。おまけで木が何本か方向転換のために動く脚に巻き込まれて倒されていく、ここも予想はできていた。

 流石に何度もこうやって逃げていればいくら虫でもこっちの逃げ方を見越した動きをする可能性はある。それに向こうは異世界育ちの魔法が使える蜘蛛だ、猶更そんなことを考えられる知能があってもおかしくない。

 だからこんな風に土壇場で新しい手段を使ったら逆に引っかかるかもしれないと思ったけど、存外上手くいくんだな。ついでに雨で遮られないから蜘蛛の様子がよく見える。


 落ち着いて観察してみれば脚の構造自体は普通の蜘蛛とよく似ている。脚は毛が生えてるし人間で言う関節の部分もある、違うところといったら先端周りにだけ棘の生えた殻みたいなのが付いてることくらいか。

 殻から上の部分は柔らかそうだけど、流石に8本ある中で1本だけダメージを与えたところで効果があるとはちょっと考えられない。もし攻撃したとしても仕留められないのは目に見えてる、むしろ返り討ちにされかねない。

 やっぱりどうにかして頭部周りを狙って攻撃したいけど飛べるわけじゃないからな、鳥じゃな…………あぁそっか、そうすれば(・・・・・)いいのか。

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