時にはちょっとした現実逃避も悪くない
お久しぶりです、新大陸に里帰りしてたり設定面の見直しをしていました
……床、硬いな。
いや、床ですらない。いつもの埃の匂いじゃなくて土の匂いだ、とうとう外に捨てられたらしい。
どこだろここ、まだ起きたばっかでよく見え…………そうか、そうだった。
視界に入った毛むくじゃらの腕に意識がはっきりしてくる。
狼に転生してデカい蜘蛛とか熊とかに追い回されるなんて都合のいい夢だと思ったけど夢じゃなかったらしい。
蜘蛛と言えば痛みがない、折れてたはずの右の前肢が綺麗に治ってる。多分あのクズの仕業なんだろうけどなんかマッチポンプ感が拭えない、次会ったら念のためぶん殴ろう。
取り敢えずまた状況確認か、動けるには動けるし多分大丈夫──ん?
起き上がろうとした拍子に何かが尻尾に当たる。振り返って見てみれば、俺の足元には色は違うけど見覚えのある薄紫色の石と折りたたまれた紙が落ちていた。
石の方は十中八九昨日突っ込まれた魔魂と同じ物なんだろうけどなんでこんなところに……いやあいつか、近くに置くならせめてもっと分かりやすいところに置いてほしいんだけどな。
……それこそ一旦置いておこう、万が一バイアクヘーと同じだったら嫌だし一旦解析でちゃんと調べないと。
【クラスE:ティタンスパドゥルの魔魂】
【地の底より湧く災厄に対抗すべく、その身を塔のように成長させた大蜘蛛の魔魂】
また気になるのが書いてある。地の底と災厄か……ひょっとしてニグレドの解析で出てきた深禍獣って奴のことでいいのかな。
そんなのに対抗するための進化となるとつくづく低めのクラスにされてる理由が分からない、確かに至近距離まで近づけたらどうにかなったけどそれだけで…………いや、仮に何人かで挑むの前提でそうしてるなら分からなくもないな。
(……で、紙か)
薄っすら文字みたいなのが見えてるし多分これは手紙だ、一応隙間があるから爪でなんとか開けそうだけど何故か見た感じ3回くらい折られてるからすごい面倒くさい。あのクズこっちの手間増やさないと死ぬ病気にでもかかってんのか?
……まぁいいや、ここまでして変な内容だったら会った時テルジラでも撃っ──うわっ!?
手紙らしき物を開いた瞬間、飛び出した無数の文字が顔中に張り付き、そのまま引きずり込まれるように俺の視界は黒一色で埋め尽くされた。
『魔魂と呼称される死したモンスターの残留魔力の結晶は他の生物が取り込むことによってさらなる力を授ける場合がある。しかしながらこの結晶は通常よりも魔力の濃度が非常に高い、まるで消える寸前の蝋燭が一瞬燃え上がったところをそのまま止めたようだ……あぁ失礼、この例えは君には理解できないかな』
なん、だ、声?
というか意識はある、どうなってんだこれ?
『やり直すのも面倒だ、このまま続けさせてもらおう。早い話が効力を強めた代わりに劇毒が成分に含まれたプロテインのような物らしくてね、先日回収したサンプルを取り込んだ個体は体から魔力の結晶を生やして死んだよ』
『ぱっと聞いたら恐ろしいように思えるかもしれないが、別の個体は適正でもあったのか生前の魔魂の主が扱っていた戦技……おっと、今ではスキルに■■■■ら■た■だっ■か? まぁそれを使えるようになっていたよ、驚きだろう?他』
……あれ、止まった。
周りもよく見えないし本当になんだったんだ、最後の方はノイズ入って「君が知るには早すぎるよ」
真後ろ、密着してるんじゃないかってくらい近いところから声が聞こえてくる。
思わずテルジラを撃とうと口を開きながら振り向く、そしてすぐに後悔した。
血みどろの手がこっちに伸び──
「はっ…はっ…はっ……は?」
気が付くと俺は息を荒くして石の前に座っていた、整うのも待たずに周りを見たけどあの手紙はどこにもない。
そんなのよりもなんだ今の女の人、いや女の人だよな? 一瞬しか見えなかったけど目玉あったか? ってか俺今首掴まれかけた? いつ後ろいたんだあれ?
冷汗が流れるのを感じ、息を整えるのを思い出しつつ冷静とは程遠い頭で無理矢理考えようとするも、当然分かることは何もなかった。
いや、強いて言うなら怖かった。あんな一瞬だけだったのに心臓の音が速いし震えが止まらない。
魔魂以外じゃ二度とあのクズの持ってきた物、今回みたいに紙とかそういうのには触れないでおこう。なんか関係あるか分からないけど同じことがあったら寝れなくなる。
(……そういえばこれどうしよ)
変わらず地面に転がっている石に向き直る。適性がないと体が結晶だらけになって死ぬらしいけど、獅子熊とバイアクヘーの魔魂はなんともなかったからな。
それにわざわざあのクズが俺の近くに置いてるから試してみるのもありか、癪だけどまた襲われた時に少しでも生きて…………生きて、か。
よく考えたら変な話だ、全部どうでもよくなったくせに転生の話に乗っかって、死にそうになったらまた諦めて……こうして振り返ると俺は本当に何がしたいんだろ、分からなくなってきた。
腹からなんとも言えない音が聞こえてくる、流石に起きてから何も食べずに考え事だけしてたら減りはするか。
正直かったるいけど仕方がない、腹が減ってはなんとやらって言うし。先にこれだけ処理しとこう。
魔魂を口に咥え、力を込めて噛み砕く。欠片が口の中に散らばったかと思えばすぐに何事もなかったかのように異物感が消え、代わりに体中に何かが広がっていく感覚と、未だ聞き慣れないノイズ混じりの声で読み上げられる文字の羅列が浮かんできた。
《魔魂の捕食を確認しました》
《経験が蓄積されたことにより、アクティベイトスキル【走破術・クラスE+:アサルトステップ】を習得しました》
《ティタンスパドゥルの魔魂を捕食したことにより、アクティベイトスキル【牙爪術狼式・クラスE:ヴェノンファング】を吸収しました》
先に出たのは初見だけど蜘蛛の奴は名前だけ知ってるな、結局使われるような状況にならなかったけど。
そういえばスキル? の詳細って確認できないのかな。今増えたのはまだ名前から大体分かるけど全部が全部そうってわけじゃないはずだし、使い方が分からない状態で無理矢理やって事故ったら洒落にならない。
解析と同じ要領……いや、流石に結果に対して使うってのも変だな。そもそもこのスキル云々も言っちゃえば意味分からないのに。
(別に今は気にしなくてもいいか、さっさと何か食べれるものを……お?)
洞窟の入り口に歩いていくうちに当然だけど光が差し込んでるところまで来て周りが見やすくなる。暗がりにいたから気づかなかったけど、足跡が洞窟の中──それもさっきまで俺がいたところに続いていた。
形からしてどう見ても俺の物だけど……俺、ここまで歩いてきたのか? いや違うな、確か倒した後はそのまま気絶してて今さっき起きたはずだ。
……駄目だ、よく思い出せない。立て続けに色々起きてたし今は何も考えないでおこう。




