第58話
また拒否されるのか。呪いが解けても、私の言葉はこの人に届かないのか。
しかし、ダスティンの次の言葉は私の予想もしないものだった。
「そんな風に思い詰めているとは思わなかった。あの時に伝わっていると思っていたから」
「え」
私の戸惑いに、ダスティンは目をそらさず続けた。
「覚えているかい? 夏の終わり、夕暮れの庭で、私はきみに一生をかけて報いると誓った。あの言葉を受け入れてもらったと思っていたよ。わかってもらえるまで、何度でも言おう。私はきみと共に生き、共にこの地を守ると決めている」
ダスティンはそう言って立ち上がり、私の隣に来た。立ち上がろうとする私をやんわりと押し留めて跪き、椅子に座る私の手を取って言った。
「『報いる』という言葉がよくなかったのかな。私は、つまり、きみに一生かけて愛情で応えると言いたかった」
「私に、愛情で?」
「そうだよ。きみの姉上との婚約解消で、今までの自分が徒労に終わったと思った。そこに飛び込んできたきみは、救いの女神に見えたよ。あの時から、私の心にはきみがいる。呪いを解いてくれたときも、あれが暴れるのを押さえられず、目覚めてきみが無事だったと知ってどれだけ安心したか」
私を見つめるダスティンは、優しく手を包み込んで続ける。
「きみがいたから、私はここにいるんだ。これからは、そばに私がいることを忘れないで」
真摯に見つめてくるダスティンに、私は思いを溢してしまった。
「ありがとう。貴方が、私との結婚を、そんな風に考えていたとは思わなかったわ」
「どう思っていたの?」
優しい声で問われて、つい本音がでた。
「償いの一つだと」
「は?」
突然のドスのきいた声に、私は驚いて焦ってしまった。
「だって、姉さまの代わりがデビュタントもまだの子供の私よ? 婚約期間が長くなるし、その間も両家円満に婚約解消したと示さなくてはならないわ。その間、貴方は不安定な立場で子供の相手をしながら、爵位を得た友人達とつきあうのよ。それが貴方へのば「ミリカ」
言いかけた言葉を強く遮られ、視線でそれ以上を留められる。私が申し訳なくて目を逸らすと、はあ、と溜め息が聞こえた。
「確かに、きちんと伝えてなかった私が悪いが、ここまで誤解されているとは」
「ごめんなさい」
「謝るのは私だよ?」
そう言ってダスティンは困った顔で笑った。包んだ手に柔らかく力がこもる。
「今まで伝えられなくてすまない。ミリカ、きみを大切に思っている。だから、一人で抱え込まないでくれ。きみは先程『私が盾になる』と言ったけれど、『私』ではなく『私達』だよ。私を信じて、どうか頼ってほしい」
そう言ってダスティンは私をまっすぐに見つめた。優しく真剣な眼差しも、包まれた手も、私を捉えて離さない。その姿は、前回の短期間円満だった関係を思い出させた。胸が詰まって話せなくなった私は、ただこくりと頷いた。途端に笑顔になったダスティンはそうっと手を離した。
「ああ、お茶も入れかえてもらおうか。誰か頼む」
その声で廊下に控えていたメイドが速やかに入室する。婚約者とはいえ、一応部屋の扉は開けていた。流れるように新しいお茶が用意され、開け放した扉からまたメイドが退室していった。
カップから、私好みの爽やかなお茶が香る。そういえば、今日はどのお茶が用意されていたかも気付いてなかった。今更、自分が緊張していたのを自覚して、クスッと笑ってしまう。
それを見て不思議そうなダスティンに、私は笑顔を向けてお茶を堪能した。
きっと大丈夫、今のダスティンは信じられる。これも円満な結婚に向けての一歩になる。私達がそうしなければならないのだから。
◇
アイリス姉さまを婚約披露パーティーに呼ばないとは決めたが、このまま知らせずにいようか。私のその悩みはあっさりと片付いた。
ダフニー嬢からの手紙によると、私達の婚約披露パーティーがある霜備え期最初の休日前後は、いつも隣国の海上が大荒れの時期なのだそうだ。船も欠航し、物理的に戻れないとあった。
『それもあって、この日を選んだのだと思っておりました。尚、アイリスはその前週に大切な実習があり、今とても忙しくしていると支店の者から聞いております』
ダフニー嬢の知らせで心配事が一つ減り、私はほっとしたのだった。
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