第57話
お久しぶりです
私の言葉を聞いても、ダスティンは何も言わなかった。
内にあるものを探りあうように、ただお互いを見て黙っているだけ。端から見れば、この状態でも見つめ合う婚約者同士に見えるのだろう。そう思うと少し可笑しかった。
「ダスティン様。アイリス姉さまは、これまで後継の妻としての教育を受けてきました」
そう切り出した私の言葉を、ダスティンは静かに聞いていた。
「まず全ての令嬢と同じく、淑女として身を慎み、高潔たれ、と。さらに夫が当主となった暁には伯爵夫人として支えられるよう、当主代理としての業務も教育されていました。これは婿をとる家特有のものだそうです」
部屋には、私の声だけが響いていた。私を見つめるダスティンから目をそらさず、話し続ける。
「そのように育てられた姉さまは、私達家族にダスティン様とご友人からの扱いを一度も口にしませんでした。私、今なら理由がわかりますわ」
努めて冷静にならなくてはと、私は微笑んで、また話し始める。
「アイリス姉さまは、ご自分が動揺すれば、ブロック伯爵家が軽んじられると思われた。だから若いご子息のおふざけと流すことで、家を、私達を守ってくれたのです。私達は、アイリス姉さまに盾になって守られた。だから」
膝に置いた両手をぐっと握りしめて、私は声を絞り出した。
「私はアイリス姉さまにもうこのことで傷ついてほしくない。今度は、私が盾になる番です」
アイリス姉さまは留学まで一人で逆風に耐えていたのに、前回の私達は庇いもしなかった。自分達の所業を思い出し、情けなさにぐっと奥歯を噛み締める。
今回、囮になって好奇の目に晒されるのは私。そう決めたから、姉さまは招かない。
沈黙の続くなか、ダスティンは小さく息をついて話し始めた。
「しかし、婚約パーティーに家族が不在では、妙な憶測が飛び交ってしまう」
「はい。それが狙いですもの」
片眉を上げるダスティンに私はにんまりと笑って続けた。
「アイリス姉さまの不在で、余計なお話をされる方やこちらに含みのある方を見て、お家ごと今後のお付き合いを考えましょう」
「それは、あまりに短慮ではないか?」
「そうでしょうか?」
私はダスティンを見つめて、言葉を続ける。
「そもそも、意見交換会の皆様も同じパーティーにおられます。それが姉の繋いだ縁だとわからない家は、世事に疎く交流に値しないのでは?」
「これは次代として他家を見極める良い機会にもなる、か」
「ええ。それを念頭において、招待客を決めようと思うのです。これからの我が家のために」
にっこりと笑う私に、ダスティンは少し考えてから問う。
「ミリカは、いいのか?」
そのような婚約パーティーで、とダスティンの目が語っていた。
「そもそも、意見交換会の皆様と神殿に求められた茶番ですもの。ならばこちらも利用しなくては。あの方々には、こちらの人脈と商機をしっかり作っていただきますわよ」
リナーリス茶の販路拡大と、次代の顔繋ぎ。そのくらいの見返りはあってもいい。
「逞しいな。さすが次期伯爵夫人だ」
「まあ。あちらの申し出に、こちらは時間と手間と費用をかけるのですもの。最低限このぐらいはね?」
しれっと言った私を見て、ダスティンはおかしそうにくくくと笑った。切り出すなら今だ。私は怖気づく前に、酷いお願いを口にする。
「ですから、私は貴方に、友人を試して欲しいと望みます」
私がそう言っても、ダスティンは表情を変えなかった。怯えを押し込めて、私は続ける。
「貴方のご友人達が呪いに関わっていること、私は彼らを被害者だとは思っていません。首謀者ではなくても、こちらに悪意があって行ったことだと思っています。それはわが伯爵家への敵対行為。貴方が次期伯爵として生きるのなら、彼らを」
「ミリカ」
切り捨てて欲しいと言う前に、ダスティンが私の名を呼んで遮った。その思い詰めたような目に、私は口をつぐむしかなくて。
「ミリカ、ごめん」
そうダスティンに謝られた私は両手を膝の上できつく握りしめた。
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