第56話
お久しぶりです
「きっと、ミリカの勘は母親譲りだ。この呪いを知るまでは全く気付かなかったがね。そう考えれば、リックウッド邸でのミリカの振る舞いも納得がいくのだよ。これからも自分を信じて進みなさい」
父の温かい言葉に、思わず目が潤む。
「お父様。ありがとうございます」
私は頭を下げ、そう言うのがやっとだった。
「もっと早く気づいていれば、アイリスも……いや、今更だな」
父はふっと力なく笑う。
そこに父の後悔が滲んでいた。アイリス姉さまの現状に気付かず、単身で呪いにさらしてしまったこと、逃れるように隣国に送り出したこと、それは私たち家族の責任だ。
我が家の加護だけではアイリス姉さまを守れなかった。
父にかける言葉が見つからないまま、私は静かに退室した。
自室に戻ると、エマから届いていた手紙を渡された。宛名を確認して軽く仕分ける。
まず、オリビア様からの手紙を読む。私からの『バローネ子爵家とウィスカム家の関わりを教えて欲しい』との要望への答えだ。
手紙には、我が家とは全くなく、婚約者のエンリケ・サイス様とアルバン・ウィスカム様が学院で同学年という関わりのみとあった。ただ、当家は侯爵家の傍系で現当主で五代目。それ以前となる侯爵家のことはわからないという答えだった。
読み終わって、思わずふうっと溜め息をついた。
ずっと気になっていた。
私が今回の生を始めたのは、ダスティンの婚約者に名乗りを挙げた日だ。それまでの時間、つまりダスティンが学院にいる時間は前回も今回も同じ流れのはず。
そのなかで、アルバン・ウィスカムに違和感を拭えない。
サイス様とダスティンの同級生。ダスティンは学院で親しい時期もあったのに、その名前を口にしたのはこのまえの茶会だけ。前回のサイス様はウィスカム家から養子を取ったのに、同級生のアルバンを忘れてしまったようで。
募る不自然さがじわじわと不気味に思えてくる。
気を取り直して、意見交換会の皆様の返信を読む。こちらも、皆様へジャン・カルドとニクラス・アザリーについて尋ねていたのだ。どのような印象を持っていたか、些細でも古くてもよいので関わったことを教えて欲しいと。
侯爵令嬢のフェリシア様の手紙によると、さすがに不躾な真似はなかったようだ。それでも二人を不快に思っていたと言う。ジャン・カルドからは下卑た視線を感じ、ニクラス・アザリーの視線は冷たく不気味だったとあった。
ダフニー様からはとても率直な意見が届いていた。ブラドル家の家格はあの二人の家と同格、しかし、財力と後ろ楯の侯爵家をもつブラドル家を相当妬んでいたらしい。何かの集まりで当て擦ってきたから、幾度か返り討ちにしたという。ダフニー様らしい。
マーキア様はかなり嫌な思いをしたそうだ。伯爵家の中でもノールズ家は低位なため、必須の集まりでは二人にしつこく絡まれ困っていたと。だが、年々それも減ったと書いていた。
アベリア様からは違う角度の話があった。マーキア様とアベリア様は昔から仲がよく、絡まれるマーキア様をあの二人から助けていたそうだ。それでも度重なる二人のしつこさに辟易したアベリア様はダフニー様に相談した。そしてフェリシア様を紹介され、四人で行動するようになったそう。それが意見交換会の始まりだとあった。
ジャン・カルドとニクラス・アザリー。
この二人は首謀者なのか。だとしたら、どちらが? あるいは二人で結託して? それともダスティンと同じように呪いによる影響での振る舞いなのか。
それを確かめるために、私たちの婚約者パーティーを使うのだ。最小限の混乱で、確実に結果を出さなくては。そのために何が出来る?
私は少し考えてから、エマを呼ぶ。
「エマ、お返事を出したいの。手紙の用意をして」
数日後、私はダスティンと午後のお茶を楽しんでいた。この時間はパーティーについての打ち合わせを行うのが恒例になりつつあった。
「相談があると言ったね」
ダスティンの問いかけに、私は微笑んで返す。
「はい。アイリス姉さまは婚約パーティーに呼ばずにおきましょう」
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