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第32話

お久しぶりです

 私は毒を盛られた? 今、苦しくもないのに? 姉さまは何を言っているの?


 私はただ混乱し、ロージー姉さまと動けない三人を見ていた。


「誤解です。ブロック嬢」


 執り成すサイス様を、姉さまは無言で睨みつける。オリビア様もアイビーも怯え戸惑っていた。姉さまは私の手を引いて、ティーセットの置かれたワゴンへと連れて行った。


「ミリカ、ティーポットの蓋を開けて」


 私は言われたとおりに蓋を開ける。ふわりと甘い香りが漂い、中に開ききった茶葉と薄紅色の花弁が見えた。ひゅっと息を呑む音で顔を上げると、ロージー姉さまが目を見開いていた。姉さまはさっとテーブルに駆け寄り、使ったカップ全てを確かめる。


「……なんてこと。警備の者! この屋敷から誰も出さないように!」


 姉さまの叫びに使用人が弾かれたように動き出す。


 ロージー姉さまが三人に向き直り、すっと深く頭を下げた。


「エンリケ・サイス様、バローネ家のお二方、これまでの私の行動を謝罪いたします」


 私達が当惑していると、警備の者が大勢でこちらにやって来た。姉さまがさっと振り向き、固い声で告げる。


「こちらの皆様は毒を盛られています。今から私の言うところに連絡してください」


 そこからお茶会は中止になり、混乱の極みとなった。


 警備の者が走り回る中、バローネ家の姉妹はお互いに縋るように手を握り、それをサイス様が宥める。ややあって、難しい顔のロージー姉さまの元には見知らぬ一団がやってきた。そのまま抑えた声で何か話し合ったあと、


「ミリカ・ブロック嬢。こちらへお越しください」


硬い表情の男性に言われ、ロージー姉さまに遮るように連れ出される。扉が閉まる直前に見えたアイビーはとても不安そうな目をしていた。


 そこから私は別室へ通され、診察が始まった。派遣された医師に瞼の裏、舌や口内を調べられ、脈を取られる。挙句に侍女に服を脱がされ、なんと姉さまに肌を検められた。


 終わると、姉さまに追い立てられるように馬車で帰路についた。馬車の中、姉さまは腕を組んで何も話そうとはしない。


「どういうことです。説明してください。ロージー姉さま!」


 姉さまは私の問いに黙って首を振るだけだった。


 訳が分からない。


 帰り着くと即座に自室に押し込められた挙句、姉さまは「一週間、ミリカを部屋から出してはいけない」とエマに申し渡した。


「ミリカを守るためだよ。いいね?」

「理由も言わず、そのようなことは承知できません!」


 横から抗議する私に、


「従わなければ身の安全は保障できない」


 姉さまは厳しく告げて部屋を出ていく。外から鍵をかける音が聞こえ、私はただ呆然としていた。



 突然に始まった監禁生活。


「なんて暇なのかしら」


 深夜、私はベッドの上で横になり、時間を持て余していた。


 あれから私の部屋の扉と窓の外には護衛が交代でついている。扉が開くのは三度の食事や湯浴みの時で、それも限られた使用人だけという徹底ぶりだ。


 隔離されて暇すぎてエマに愚痴を聞かせていたら、食事時とお茶の時にしか自室に現れなくなった。朝食を運んできたエマに


「ロージー様からの御指示なのです。ミリカ様をなるべく安静にしておくようにと」


 困った顔でそう言われては私も引き下がるしかない。


 することがないので、つい昼間は寝てしまい夜眠れない。こうして真っ暗な中で考え事ばかりする羽目になる。


 そもそも私はここにいる場合ではないのだ。


 前回のような不幸に会わないために、早くダスティンの友人たちについての情報を集めないと。そのために行ったバローネ家のお茶会では、サイス様に学院のクラスが変わりダスティンとは疎遠になったと言われた。それ以外に知りえたいくつかの情報は。


 サイス様が上位クラスに移ったきっかけはクラスメイトとの殴り合い。

 殴り合いの原因はオリビア様を貶められたから、らしい。

 相手はニクラス・アザリーとジャン・カルド。

 その二人にダスティンも絡まれていたが、いつしか仲良くやっていた。


 そして、サイス様からはこうも言われた。「ブロック嬢が貶められることはない」と。


 豊かなバローネ子爵家に婿入りするサイス様は、学院で他家の次男や三男から妬まれ、婚約者を貶められた。


 なら、同じくブロック家に婿入り予定のダスティンも同じでは? まさか当時アイリス姉さまも貶められていた?


 アイリス姉さまは何と言った? 私は必死で思い出す。


 前に、我が家の年明けの祝いで揶揄されたと聞いた。「学院生のちょっとしたおふざけ」とか、それと他にも聞いた気が……あれは、いつ?


 瞼が重くなっていく。急な眠気で考えがまとまらない。眠りに落ちる直前、また夢に女神さまが現れてくれたらと思いながら、私の意識は途切れた。

お読みいただきありがとうございました。

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