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第27話

 泣いても、嘆いても時は過ぎていく。


 二度目の生で思い知らされたのは、自分の馬鹿さ加減と愛されなさ。思い返せば胸が痛むけれど、ただ嘆くために戻ってきたわけではない。


 今できていることは、アイリス姉さまを家族として円満に隣国へ送り出せた。ロージー姉さまの秘密を守れた。その過程で偶然に呪いを祓えた。


 今からできることは、アイリス姉さまの薬師への道を支援すること。ロージー姉さまを王都に送り、女性近衛騎士へと支援すること。これからも呪いを防ぐこと。ダスティンと円満な結婚生活を送ること。


 ……最後の二つに不安が残る。


 だいたい呪いなんて誰がどうやって? イエルならわかるだろうが、訊いてもはぐらかされそうだ。


 でも、情報なら集められるかもしれない。過去と現在を照合できるのは私だけだ。


 ダスティンと私が本当に結婚するまであと六年。それまでにできることを思いつくままやってみようか。女神さまの言う『夫婦円満な結婚生活』も送れる……はず、多分。


 ともかく、これに賭けてみよう。私は今度こそ生き延びて、大切な人たちを守るのだ。


 私は昨夜書いた手紙に、望みを託した。



 我が家自慢のティ―ルームで、私は一人の令嬢とお茶を楽しんでいた。


「ご招待、本当に嬉しいわ」


 アイビー・バローネ子爵令嬢はにっこりと笑って紅茶に口をつける。


 あの夜、手紙に書いたのは二人だけのお茶会へのお誘いだった。二つ返事で応じてくれたので、彼女好みの円やかなお茶と好物のセイボリーを用意した。座った席からは窓越しに今が盛りの花がきれいに見えるだろう。


 美しい金髪に水色の瞳を持つ、一つ年上の気の置けない友人に私もにっこり笑って答える。


「何よりです。あとで、東国のお茶も入れますわ。姉のお土産ですの。お試しになって」

「さすがね。今は品薄なのでしょう。アイリス様に大感謝ですわ。そういえば、アイリス様は隣国へ行かれる予定を変更されたのですって?」


 こちらの予想どおりに、情報通のアイビーは笑顔で問うてきた。私も微笑んで答える。


「ええ。今、リックウッド伯爵家の御三男を家でお預かりしているのだけれど、姉が発ってすぐに体調を崩されてしまったの。うつる病だといけないから、姉は戻ってこちらで様子を見ていました」

「まあ、大変でしたのね。皆様、お加減はいかが?」

「幸いうつる病ではなく、もうすっかりよいの。今まで頑張りすぎてしまわれたのね」

「神殿から快癒の祈りを呼ばれたと聞きましたわ」

「まあ、お耳が早いのね。隣国では、お医者様の診立てと神殿の祈りの併用で早く治るらしいの。今なら東国の巫女姫様のお力も借りられそうでしょう?」


 表向きには、ダスティンが倒れて我が家に神殿騎士と警備隊が来た理由を、姉が隣国へ病を持ち込まないよう検分したとしている。呪いについては慎重な捜査が必要なので、我が家は被害そのものがなかったことに。


「ブロック伯爵家はすっかりあちら風なのね」

「ふふふ。良いものを積極的に取り入れる家風ですの」

「まあ、素敵ね」


 微笑みあって、紅茶を味わう。彼女の好きな茶葉は香りも味も柔らかい。


「で?」


 そう言って、美しい所作でカップを置いたアイビーは私をじっと見つめた。やはり騙されてはくれないらしい。


「あら、なあに?」


 私が笑って首を傾げると、アイビーはふんと顎を上げて社交の口調から友人への砕けた態度に変わった。


「建前はもういいわ。あなたがお家に招待してくれたのなんて初めてじゃない。何かあるわね。お言いなさい」

「今日はロージー姉さまがいないからよ」


 澄まして答える私に、アイビーはぐっと詰まった。


 ご令嬢の憧れのロージー姉さまには、本人の知らぬところで『親衛隊』なる組織ができている。姉さまに暴走気味の愛を捧げる令嬢達を、あらゆる手でまとめあげた隊長こそアイビー・バローネ子爵令嬢なのだ。隊員たちはロージー姉さまの迷惑にならないことを信条として、皆で陰から応援するのだとか。


「……そうよね。ああ、そうだと思っていたわ」

「期待させたかしら? ごめんあそばせ」


 ため息を吐くアイビーに追い打ちをかけると、恨みがましい目を向けられた。


「そうね。姉さまが帰ったら、こちらに声をかけてもらいましょうか。それまでゆっくりなさって」


 あっさりと言った私にアイビーが息を呑む。知らん顔をしてお茶を楽しんだ。


「よろしいの?」


 アイビーがおずおずと尋ねる。私は笑顔で答える。


「ええ、会いたかったのでしょう? かわりに私も一つお願いしてもかまわない?」

「それは……聞いてから考えるわ」

「あら、とても簡単なことよ。私、アイビーのお姉さま、オリビア様の婚約者のエンリケ・サイス伯爵令息にお聞きしたいことがあるの。バローネ子爵家で四人でお茶会したいわ。招いていただける?」


 私はそう言って優雅に微笑んだ。アイビーには想定外の言葉だったらしい。驚きを隠しもせず、私をまじまじと見つめていた。


 さあ、目標へ準備開始だ。

お読みいただきありがとうございました。

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