表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/55

第16話

お読みいただきありがとうございます

前話を2/29に加筆改稿しておりますので、お確かめいただければ幸いです

 リックウッド伯爵もその意見に思うところがあったらしい。


「……貧民には食、平民には職か。寄進も含め、早急に検討しよう」

「ありがとうございます! あと、ブロック邸からのマトリカリアがリックウッド邸で増えたら、街や村の広場に植えてはどうでしょう。領全体で浄化の力が働けば、呪いに抵抗しやすいかと」

「なるほど。まずは、うちで根付くことが第一か」

「奥方を迎えに来るときに、そちらの庭師を連れてきてはどうだ?」


 父もリックウッド伯爵に提案した。そのまま二人で段取りを話し合う。


 私はその様子を見ながら、じっと考えていた。


 これまでとは明らかに場の雰囲気が変わった。リックウッド伯爵が冷静に応答していることで、使用人たちも落ち着きを取り戻した。邸内の空気も淀みなく、伯爵家に相応しいものになった。


 本来の姿をこれほどまでに損なう力にぞっとするが、イエルはこれでも微弱な呪いだと言っていた。ではそれが本気で牙をむいたら、まさか女神さまはそのために私を。


「ご令嬢、どうしました?」


 突然声をかけられて、体がびくっと震えてしまった。振り向くと、イエルがきょとんとした顔で私を見ていた。


「神官騎士様、失礼いたしました」

「いえいえ、こちらこそ驚かせてしまいましたね。顔色がよくないようですが、別室で休みますか?」


 イエルに心配され、私はさらに驚いた。なんだか見透かされている気がする。


「それには、及びませんわ。お気遣いありがとうございます」


 私の愛想笑いに、イエルは不思議そうな顔をした。


「私にはそうは思えませんが。何か心配事でも?」


 背筋がひやりとするのを悟られないよう、私は曖昧に微笑んだ。貴族なら察して話題を変えるが、イエルには通用しない。訝し気に私をじっと見ていたが、


「わかりました! ご令嬢、私が貴女のお力をこれからもあてにすると思っておられますね?」


 と急に大声を出した。


「はい?」

「大丈夫です。今後そのようなことはありません。この件以外にご令嬢が役立つことはないと請け負いましょう!」


 自信たっぷりにイエルは胸を叩いた。


「まあ、それはそれは」


 何か引っかかる表現だとは思いつつ、私はにこやかに答えた。


「ええ! ご令嬢のお力は素晴らしいですが、過敏すぎますので!」

「はあ……?」

「わかりづらかったですか? 私どもが普段扱っている呪いはもっと強い悪意に満ちたものなのです。この程度で音を上げるようでは神官騎士はおろか、神官すら無理。ご令嬢のような耐性ではまず使い物になりません!」


 今、私、とても良い笑顔で役立たず認定されている……。


「今回、封印された浄化の力が特殊で、ご令嬢と親和性の高かったのでご協力いただきましたが、これも珍しいことです。どうぞご安心ください。今回は封印を含め、異例ずくめでしたから。しかしあのような聖域じみた場所で育つと、ご令嬢のような純粋培養になるのでしょうか? 興味深いですね」


 私は令嬢の笑みを浮かべながら、イエルの話を聞いていた。


 結果的に、神殿に囲われたくない私の希望通りになっているけれども。イエルの言い方が微妙にもやもやする。使い物にならないとは失礼な。私、使われる気はありませんけど! 


 その日はリックウッド邸に泊めてもらった。夕食時に、次期伯爵となるダスティンのお兄様にも改めてご挨拶した。この兄弟は良く似ている。次期伯爵の方が若干目元が鋭く、髪のカールが強いようだ。


 夕食後にグレーナーとイエルも伴って今後の対策を話し合った。


「弟を救っていただきありがとうございました」


 頭を下げる次期伯爵に、私は違和感しかない。前回のこの人はもっと尊大で、爵位を継いでからはダスティンと私を見下す様子もあったのに。


「こちらで何かお気づきになったことは?」


 グレーナーに言われ、少し考えた後に次期伯爵はそういえばと口を開いた。


「二人の弟が帰ってきていた時、王都で文官をしている上の弟に『この家はいつもこのように騒がしいのか』と言われました。『二人の帰省で皆浮かれているのさ』と答えると、変な顔をしていましたね。忙しいからとすぐに王都に戻り、それからは帰省しておりません。上の弟は何かを感じていたのでしょうか?」

「無意識に避けたのかもしれませんね。こちらの皆様は呪いの影響下にあったため、たまに会うご次男の方が感じやすかったのでしょう」


 イエルがにこやかに答える。


「渦中にいる者の方がわからないのだな……」


 リックウッド伯爵が呟き、次期伯爵がイエルに質問した。


「神官騎士様、一度に永続的な浄化はできないのですか?」

「それは難しいですねえ」


 イエルは苦笑して続けた。


「この世に生きる限り、人は穢れをためるもの。穢れは呪いの元ですから、神に仕えて穢れを遠ざけた生を送るか、俗世にあるなら定期的に祓うしかありませんね」

「そういうものですか……」


 次期伯爵は気落ちしたように答えた。


「しかし、領地全体の浄化と、呪いへの対策を急ぎ講じなければ。マトリカリアが根付くまで待ってはおれん」


 リックウッド伯爵の言うとおりだ。


 土地や領民への影響を考えると、少しでも早い方がいい。できれば一回で効果があり、定期的に続けられて、皆が簡単にできること。


「あ」


 その思い付きに、私は思わず声を出してしまった。

お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ