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いちばんのおともだち

ルビーお嬢様の後を追いかけようとしたとき、別のメイドの声がした。


振り返るとそこには、


「ルース……」


ルースが厳しい顔をして、ラピスラズリにずんずん近づいてくる。


「いきなり走り出してどちらへ向かうのかと思いきや。なぜあのお嬢様にばかり気をかけるのです?侯爵様へのご挨拶に遅れたらどうなさるおつもりなのですか?」


そうルースは言うと、 ラピスラズリの 腕をギュッとつかんだ。


「いたっ……」


かなり強い力でつかんだらしく、ラピスラズリお嬢様は声を上げた。


「ほら早く侯爵様のもとへ行きましょう」


半分引きずるような形でズルズル連れて行こうとするルースに、あわてて声をかけた。


「ルース、ちょっと力が強いんじゃない?」


そう言ったが、冷たい瞳で返された。


「あなたには関係ないわ。あなたは早くあちらの泥んこお嬢様とでも遊んでらっしゃいよ」


ちらりと顔を向けると、またどこかの垣根に頭を突っ込み、お尻が半分だけ見えていた。


「ラピスラズリお嬢様にはあんな風になってほしくないのです。あなたがあのお嬢様をどう教育しようが勝手だけど、ラピスラズリお嬢様に変な影響を与えないでちょうだい」


そういうと、ラピスラズリの腕をつかみ、侯爵の部屋がある方向に行ってしまった。


「……変な……影響……ねぇ……」


逆にどうしたらあんなに落ち着いたお嬢様に育つのやら、とためいきをつきながらルビーのもとへと向かった。



「ねえ、エル。お昼にお姉さまが言ってた、『アカデミー』ってなあに?」


夕食の準備をしているときに、突然ルビーが尋ねた。

アカデミーのことは忘れているだろうと思っていたのに。


アカデミーとは、七歳になったら通う、位の高い子たちが学校のことだ。本の話では、ルビーはこの学校で呪われた子とよばれ、気味悪がられていじめられてしまう。

いじめられても、なおアカデミーに行き続けたのは、同じく侯爵家であるヴァーミリオン家の一人息子、ガイアが一緒にいてくれたからだ。


今ここで、アカデミーの話をしてもいいのだろうか?

この子が、つらい思いをしてしまうかもしれない場所なのに?


ルビーの目を見つめる。なにもしらない赤い瞳の少女は、目をきらきらとさせて、じっと見つめ返す。


「……ルビーお嬢様の瞳は」


「ん?」


「ルビーお嬢様の瞳は、とても美しいですね。暖かい色で、人に勇気を与える色をお持ちですよ。」


「エル……?」


いきなり瞳の色を褒められ、きょとんとしたルビーに、優しく微笑む。


もうこの子は、小説の中の孤独なお嬢様じゃない。私が運命をかえるって、決めたのだから。


「アカデミーについて、お話をしたことはありませんでしたね。アカデミーとは、7歳になったら通う学校のことですよ。ラピスラズリお嬢様は、ルビーお嬢様のおふたつ年上ですから、その学校の入学について侯爵様とお話されたのでしょう。ルビーお嬢様も、二年後はアカデミーに行って、ご学友と楽しく勉強をするのです」


「ルビーに、お友達ができるの?」


勉強をするというのはすっとばしたらしい。


「はい、ご学友と楽しく勉強を……」


「わぁ!とっても楽しみだわ!今からすごくたのしみ!」


デザートをほおばりながら、るんるんと楽しそうにする。


「エルもついてくるよね?」


プリンを口に入れてもぐもぐしながら聞いてくる。

エルシーはびっくりする。


「ルビーお嬢様、学校はお嬢様がおひとりで勉強をしに行くところですよ。警備も万全なので、護衛騎士もおりません。」


それを聞くと、今まさにさくらんぼを口に入れようとしていたルビーの手が止まる。


「そんなぁ!ルビーはエルがいないとなんにもできないよ!」


「ルビーお嬢様。あと二年ありますから、安心してください。私がそれまでに責任をもってルビーお嬢様の教育をしてさしあげます」


「うーん……」


エルシーがついてこないところだと聞いて、あからさまにがっくりしてしまうルビーをみて、ふふっと笑顔がこぼれる。


「ねえ、エル!」


「はい、いかがしました?ルビーお嬢様?」


「ルビーはね!エルがいちばんのおともだち!だからね」


小さな左手をさしだし、ぎゅっと握った。


「何年たっても。約束!」


ああ、私は。このお嬢様が、闇の魔法使いにならないように必死だったけど。


でも、もうそんな心配はないようね。今こんなに優しく育っている。

そう思うと、自然と笑みがこぼれた。


「はい。私も間違いなく、これからさきもルビーお嬢様の一番近くにいますよ」


ふたりは楽しそうに笑い合った。


生まれた当初は、周りのメイドたちが呪いだと騒ぎ立てていたが、年を重ねるにつれ、ルビーお嬢様の可愛さにとりこになり普通に接してくれるメイドが増えた。


料理長なんて、ルビーお嬢様が好き嫌いなく食べられるように一流の食材をそろえて最高の食事を用意してくれている。


それでもまだお嬢様を怖がるメイドがいるかもしれない。

でもきっといつかそんなメイドも、ルビーお嬢様のとりこになるわよ。

エルシーは心の中で確信していた。


そんなルビーとエルシーの幸せそうな様子を、部屋の外でラピスラズリが見ていた。


「ずるい。お父様に相手もされないようなルビーが、あんなにやさしいメイドがおつきの者だなんて。ずるいわ。わたしは絶対に狙ったものは手に入れたいの。エルシー……だったわね。見ていなさい。

必ず私のメイドにしてみせるから!」


そうつぶやくと、踵をかえし暗闇に姿を消した。


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