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かわいらしい女の子

「エル!これはなんてお花?」


「ルビーお嬢様……その花は、バラというお花です。おててが傷つきますから、決していきなり触るようなことは……」


「いたっ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!エル!痛いよお!」


「お嬢様!」


時は流れ、あの不穏なホールでの集まりから五年たった今。ルビーお嬢様は五歳になった。


いまやすくすく育ち、花園で駆け回る、泥だらけの活発な少女である。

そしてたった今、バラの棘で左手をケガしたらしい。


「エル、ルビーこの花嫌いよ!全部枯れちゃえばいいのに!」


そう叫ぶと、立ち上がってまだ小さな右手を広げる。そして、息を大きく吸い込み、指で8の字をえがいた。


すると、ルビーの足元から風が起こり、髪の毛が舞い上がる。高く上げた腕を、一気に真下に下ろす。次の瞬間、先ほどまで風に揺られていた真っ赤なバラの花が一気に枯れ落ちた。

ついさっきまで生命力を持っていた花が、いまや見るも無残にしおれている。


「ぎゃあー!お嬢様!!だっ、だめです!枯らしちゃだめですっ」


左手のケガを手当てしていたところ、右手でいきなりそんなことをしでかすものだから、たまったものではない。


「えへへ!エル、ルビーすごい?すごい?」


五歳になったルビーは、少しずつ魔法の能力が発現していた。初めて魔法を使ったのは、三歳の時だった。昼寝の時間に袖を引っ張られたので見てみると、お気に入りのクマのぬいぐるみの色を様々な色に変化させていた。

茶色から、黄色。緑、白、黒、青、そして最後に赤。そのぬいぐるみは、今も赤色のままである。


色を変えるほかにも、物を浮かしたり、埃で色々な形を創ったり。

彼女は、魔法を使うときが一番生き生きとしている。


「お嬢様。とってもすごいです。ですが、もう一度お花をもとの状態に戻せたら、もっともっとすごいですよ!」


そうおだてると、


「エルがそういうなら、ルビーもう一回やってみるね!」


そういうと、もう一度8の字をえがき、指をひゅっと上に向けた。すると、枯れていた花が息を吹き込まれたようにもう一度咲いた。

美しく真っ赤なバラがゆらゆらと揺れる。


「どう?エル?」


得意げに、誉めてほしそうにころころと笑いかけてくる。


まだこの子は五歳なのだ。花を枯らすことなど、きっとなんとも思っていないのだろう。


「お嬢様、とっても素敵ですよ!すごいですね、ルビーお嬢様は!」


「やった!ねえ、エル、あっちの方にもっときれいな花が……」


楽しげに話していたルビーの顔から笑顔が消えた。


ルビーの目線の先には、輝かしい海のような深みのある青の宝石眼に、ゆたかな金髪をゆらした、ある少女がいた。


「ルビーじゃないの。まだこんなところでおままごと遊び?」


「ラピスラズリお姉さま……」


目線の先には、ルビーの姉である、ラピスラズリがいた。つんつんした猫のような瞳で、微笑を浮かべて歩み寄ってくる。


「ラピスラズリお嬢様。こんにちは。いかがお過ごしでしょうか」


ルビーのことだけをまっすぐ見て、花を踏み倒しながら一直線に向かってくるラピスラズリの前にsoさりげなく出る。


「あら、ルビーのメイド。こんにちは。ルビーと話したいから、下がってちょうだい」


……普通にしていればかわいいのに!どうにも気の強さが顔に出てるわね。


「ラピスラズリお姉さま……お姉さまも一緒に花かんむりを作りますか?あっちの方にきれいなお花がたくさん……」


「結構よ。私はお父様に呼ばれているの。アカデミーのことでね。でもまあ、あなたは……」


そこで言葉を切り、上から下まで眺め回す。色々な垣根に突っ込んだ頭はぼさぼさになり、転んで泥が付いたドレス、さらには指には包帯が巻かれている。さっきバラの棘で怪我をしたところだ。


「あなたはお父様に呼ばれることもないだろうし。暇で仕方ないなら、メイドに相手してもらうしかないわね」


そういうとラピスラズリはくすりと鼻で笑った。


表情から見て取れる。『愛されていない子』だと、そう遠回しに伝えているのだ。

あなたに会いたがるお父様はいないでしょう、とほのめかしている。


……ほんとに性格悪いわね!わたしのルビーに!悲しい思いをしたらどうしてくれるのよ!


そう思い、ちらっとルビーのほうを見る。

すると、なんとぱぁっと明るい顔をして顔を輝かせていた。


「そうなの!毎日退屈なんだけど、お父様と話すときのほうがとっても退屈だし、エルと一緒だと、とてもたのしいよ!お姉さまも遊べたらよかったのにしょうがないね……。

わたし、エルと遊んでくるわ!ごきげんよう、お姉さま!」


「ちょっ……ルビー!」


嫌味を言ったはずなのにニコニコしているルビーに、さらに文句を言ってやろうと口を開くが、さっさと走っていってしまったため、唇をかむ。


どうですか?これがわたしの育てているルビーお嬢様なのよ!


私は誇らしげに胸を張りたくなるのを抑えた。きっと本の中では、このような姉からの攻撃にもっと悲しそうにしていただろう。だが今は、楽しそうに泥にまみれて遊ぶ、かわいらしいお嬢様なのだ。


「ラピスラズリお嬢様」


もう一つ、聞きなれない声がした。


それは、ラピスラズリ専属メイドのルースのものだった。


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