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『かわいい』が取り柄の妹~姉の私も似たようなものですがそれが何か?~

作者: 斎藤 こよみ


ティアーヌ侯爵家には二人の娘がいる。

姉がマリアンヌ、妹がアリエッタ。


マリアンヌは、アリエッタが生まれてからずっと比較されて生きてきた。

マリアンヌより歩くのが早い。マリアンヌより文字を書くのが早い。

マリアンヌより可愛いドレスが似合う。マリアンヌよりマリアンヌよりマリアンヌより……。


母はつり目の気が強そうな美女で、父はほんわか系のわんこぽい人だった。

そしてマリアンヌはどちらかと言えば、母に似ていて。妹は父に似ていた。

残念なことにマリアンヌはマリアンヌで、母に似たこの顔が嫌いではなかった。


ただ、時代が悪かったのだ。

どちらかと言えば、『かわいい』が求められている今、マリアンヌの母アリアのようなつり目・クール美人・気が強い女はあまり評価されなかったのである。

そして男性もまたどちらかと言えばほんわかした優しさ重視の男性が求められる世の中。母は自分の家の伝手を最大限使って父アレクサンドルとの縁談をこぎつけたらしい。


そんなこんなで、可愛い可愛いと褒められ、甘やかされた妹がちょっと(・・・・)ばかし頭のネジが緩い子になってしまったのも無理はない。

さすがの両親も「あれ、これやばくない?」と気付いたころにはもう手遅れで、『かわいい』だけが取り柄のアホな残念な子になってしまったアリエッタだった。

妹ばかりが可愛がられた姉マリアンヌは、といえばやはり『かわいい』からは程遠いためそれならば、と長女であるため後継としての勉強に力を入れ、ここ最近は領主経営の補佐を始めた。


そして、『かわいい』ばかりが持て囃されたマリアンヌ、アリエッタの幼少期時代――。

とあることがきっかけで、『かわいい』と『かっこいい』が両方求められる時代がやってきたのである。

それはマリアンヌ13歳、アリエッタ11歳のころまで遡る。


ティアーヌ家と懇意にしているカレスト伯爵家主催のお茶会で事件は起こった。


同年代の子供同士の交流を兼ねたお茶会に集まった子供たちは、貴族らしく、頭でっかちでどこか他人を見下したところがある子どもばかりだった。

大体の貴族は学園に入ったり、成長するにつれ家での教育で矯正されていくのだが、まだ何といっても子供であるために楽観視していた大人たちによって、『相手の立場になって考える』ということをしない、できないままこうした交流会へ参加することになってしまった。


そんな子供たちが集まるお茶会が何事もなく終わるわけもなく……。


「なんだこいつ!顔だけじゃん!」


アリエッタに向かってそういい捨てた子供がいた。

その男の子の家は伯爵家の傍系で、この時代には珍しく意外なことに『かわいい』だけではなく『かっこいい』も好む家であった。だからなのか、『かわいい』だけ(・・)のアリエッタが許せなかったのだろう。


主催である伯爵家と懇意の、しかも格上の公爵家の令嬢に対する暴言にその場の空気が凍った。

アリエッタはその言葉をきちんと理解はしていなかったが周囲の反応に次第に大きな瞳にたっぷりの涙をため……盛大に泣き出した。

そんなアリエッタを慰めながらマリアンヌは冷静に返す。


「貴方はどうなんですの?」

「え?」

「ですから、貴方は何か誇れるものはありまして?」

「それは、その」

「あら、自慢できるものがないのに私の妹に向かって「顔だけ(・・・)」なんて言ったんですか?」

「――ッ、そう言うお前はどうなんだよ!!」


言葉に詰まった少年が悔しそうに返すと、マリアンヌは自信たっぷりの()で堂々と言い放った。



「私も似たようなものですがそれが何か?」



自信満々でどうにも潔い発言にノックアウトされたその場に居合わせた令息たちはその後、『かっこいい』の布教に全力を尽くしたという。


そして『かっこいい』で令息たちを魅了したマリアンヌが、アリエッタに「顔だけ」と言った少年に猛アタックされこれまたこっぴどく振るのはまだ未来のお話である―――。



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