▶9.証明
「な!僕の言った通りだったろ!」
小夜との話が終わった後にミズアメの元に身の潔白を証明しに行った。大人姿の小夜を連れて行って、大きくなったり小さくなったりを繰り返してもらって、同一人物である事を証明してもらった。
ミズアメは唸る。
「うーん、確かにそうだが、見た目も服装も何もかも変わってる人間の正体に気づけと言うのは無理がありすぎるのだが。」
「それはご尤もだが、文句は小夜へとどうぞ。」
「それは卑怯だぞ、こんな美人な小夜ちゃんに文句なんて言えないに決まってるだろ。」
容姿の美醜で決めるなよとは思ったが、言いたいことが分からなくもないだけに複雑だった。
「亜美さん、お世辞がお上手ですね、そんなことを言われては舞い上がってしまいます。」
小夜が上品に笑う。コイツデカくなって、性格が見た目に寄ってないか。
「やっぱり緊張するから元の姿で話してくれないか。」
ミズアメが耐えかねて言う。その気持ち分かるぞ!
「まったく、仕方ないですね。これで良いですか」
みるみるうちに小夜が縮んでいく。さっき見たとはいえ、不思議なものである。
「凛さんが見当たりませんけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、その内帰ってくると思う、多分。」
「おい、最後で信用度が墜落したぞ。本当に大丈夫なのかよ。」
「本当に大丈夫なんだよ、アイツの帰る場所はココしか無いから。ほら、話をしたら」
「なによ、…悪かったわね。」
僕の腕を砕いた事を言っているのだろう。
「別に気にしてねぇよ、治して貰ったし。」
「私を慰めるために嘘つかないでいいのよ、アレはもう取り返しがつかない。」
「だから、治ったんだって!見てみろ。」
傷の塞がった痕のある右腕を見せつける。
「嘘……そんな訳……」
凛が唖然とする。まぁ小夜がいなかったら腕を切断しなきゃならなかったかもしれないレベルの大怪我だったしな。
「話は察したが、なんでそんな大喧嘩になったのか聞かせてもらおうか。」
ミズアメの怒りを感じる。
「私は先に部屋に戻ってますね。」
「おい、卑怯な!」
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~20分後~
「―という事があったんだよ。いや〜あそこまでボコられるとはな。」
ミズアメにはかなり茶化して経緯を伝えた。具体的には、僕が凛の緊張をほぐそうと言った言葉が逆鱗に触れて拳どうしの喧嘩になったと伝えた。概ね事実ではあるので、嘘では無い。
「お前らさぁ、子供じゃないんだから。大怪我しなくて良かったけどさ。」
(………しーらね。)
「思い出したから言っとく。おい颯太、明日言ってた通り学校に行くから覚えとけよ。」
…何の事だっけ
「忘れてるのだろうが、学校襲撃の下見と作戦の下準備を兼ねている。」
「思い出した、ちなみに何をすればいい。」
「とりあえず、忘れてどっか出かけたりしないでくれたらそれでいい。」
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「……きろ、……起きろ!…起きろって!」
「ぐふっ、おえー」
目覚まし代わりに腹パンを打ち込まれる。もっと優しく起こしてくれ。
「はぁ、ユキならもっと普通に起こしてくれるのに。」
早くもホームシックを発症しそうだ。
「彼女が甘すぎるだけだ、何時だと思ってんだ。10時半だぞ、生活リズムはキープしとけ。後でやって欲しいことがあるから来てくれ。」
「お前は僕の母親かよ。わかったから、ちょっと部屋の外で待っててくれ。着替えるから。」
「さっさとしてくれ、今日のお前は忙しいんぞ。」
「ほら、着替えたぞ。」
「やっと始められるな。頑張ってくれよ。」
「一体僕は何をやらされるんだよ、怖ぇな。」
「お前にしか出来ない事だ。」
そう言われて、着いていくと、山奥の小屋に案内された。
「なんだココは、アジトでは出来ないことなのか?」
「危ないからな、まぁテレビでも見ながら、のんびりやってくれ。」
やって欲しい事について教わる。
「━━━出来るか?」
ミズアメが真剣な顔で聞いてくる。
「出来ないことは無いが、それだけの量を作るとなると、時間はかなり掛かる事は理解しといてくれ。」
「当然だ、夜までに作ってくれたらいい。」
「人遣いが荒いな。まぁやってやるよ!」
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僕とテレビしかない隔離された部屋では、ガスマスクから漏れる息の音がよく聞こえる。
「シュコー、シュコー、ようやく全部出来た」
随分と危険な物質を作らされたものだ。
「こんなもの何に使うのだろうか。」
こんな成分は化学の授業でしか見た事ないぞ。
『ガガッ、『あー、あー、聞こえてるのかしら、コレ』』
一瞬の砂嵐の後にテレビの画面が切り替わり、そこには何も映っていなかったが、声で理解した、凛だ。
『まぁ、いいわ。予告してあげる、2日後の夜、私たちは刻星学園を襲撃し、占拠する。目的はただ1つ、非能力者―アルビノ―の待遇の改善の要求よ。』
「まじかよ。」そう思わず口から漏れた。
まさか、テレビ局をジャックして予告するとは。襲撃って奇襲みたいに黙ってやる物じゃないのかよ。
この予告は、すぐさま拡散され、動画サイトには、1000件を超える投稿があった。
しばらく待ってから、ミズアメに電話をかける。
「おい、テレビのアレは何だ。」
『見ての通り、予告だが。』
「襲撃なら、予告なんてせずに卑怯に黙って奇襲しろ。」
『予告に意味があるんだよ。私達が求めるのは、あくまでも待遇の改善であって、そこに暴力を介在させる必要は無いし、出来ればさせたくない。』
「じゃあ、この2日で社会が変わるかどうかってことか。」
『そういうことだ。今は待とう。』
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そして約束の夜になった。結論から言って、政府は動かなかった。
コチラも襲撃への準備を進めていたとはいえ、まさか一切の動きがないとは思っていなかった。
「いつまで悩んでいるつもりだ。国は私達を救おうとしなかった。ただそれだけだ。」
ミズアメが発破をかける。
「もう引き返せないのよ、優しい優しい私たちは警告はしてあげたのよ。向こうだって文句は言わないわよ。」
予告したら何やっても文句言われないと思っているのか自信ありげな凛。
「死なない程度に頑張りましょう。命あっての幸せですから。」
早乙女さんが遠回しに逃げてもいいと言ってくれている気がする。
「大丈夫ですよ、お兄さんは私が守るから。」
実際に守ってもらった経験から『僕が守る』なんてカッコイイことは言ってやれないのでちょっと悔しい。
「じゃあ行くか」
実行班である僕達5人は目的地に向かって移動を始める。