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能力なんてクソくらえ・  作者: 迫り来る睡魔
6/10

▶6.潜入

 寮に帰って来ても僕はまだ頭を抱えていた。


「ああ、もう!!潜入なんてどうしろってんだ!」


「お困り?」

 小夜がドアの隙間から覗きながら言う。


 一応潜入のことは秘密なので自室で声を抑えて叫んでいたつもりなのだが、聞こえてしまったらしい。でもまぁいっか。


「まあな、この前の襲撃の組織に潜入しろって言われてたが肝心の方法が思いつかなくて悩んでたところだ。というか、入ってくれば良いだろ。」

 その言葉で小夜が部屋に入ってきてベッドの上に座る。


 考えていても埒が明かないし、口が固いだろうと()()して話す事にした。


「なぁ潜入ってどうやったらいいんだ?何か案無い?」


「具体的に言ってください。何の、どんな組織に潜入するかによってアドバイスも変わります。」


「アドバイス出来んのかよ、ホントにお前は何者なんだ?」


「見ての通り、ただの可愛い可愛い女の子ですよ♪」


 可愛いって自分で言うことでは無いだろう。小夜(コイツ)とは喋っていて飽きないが、どうも話が逸れる。


「それは置いといてだな、この前言ってた知り合いが居るかもしれない組織に入りたいんだが。」

 話を元の筋に戻しておく。


「そのお友達に連絡したらどうですか?入れてくれるでしょ。」


「多分繋がらないだろ」


「そーいうのはやってから言ってください!」

 小夜が言うのでとりあえずミズアメに電話をかける。


 そして数回のコール音の後に「繋がった…」


『当たり前だろ。てか珍しいな、お前からかけてくるなんて。』電話の向こうでミズアメが話す。


「なぁ、会えないか?」要件を端的に伝える。


『何だ?告白か?美人局なら間に合ってますので。さようなら』


「ちょっっ、待ってくれ。」

 俺がガチ焦りする。せめて話くらいは聞きたい。その様子を見て小夜が横でケラケラと笑っている。


『冗談だ、ソレなら 今送った場所に明後日に会うのはどうだ。』

 ミズアメが笑いながら日時と場所を提案する。送られてきた場所を見てから承諾する。


「決まりだな、それじゃあ明後日待ってるからな。」

 そうして電話は切れた。緊張から解き放たれたことで一気に全身の力が抜け、ベッドに倒れ込む。


「はぁ〜、疲れた。ん?」

 温かいのはともかく枕にして柔らかいような…あと良い匂いもする。


「とんだ幼女趣味(ロリコン)ですね。」

 枕と思ったのは小夜の太ももだった。傍から見ると僕は幼女の太ももに顔を押し付けている状態なのでぐぅの音も出ない程小夜の発言はドがつく正論であった。


「…………ごめんなさい。でも、もう少しだけお願いします。」

 どうにか謝罪を絞り出すが、それと同時に延長を願い出る。

 なんと言って良いのか分からないが、懐かしいと言うかなんというか、とにかく安心するのだ。


「責任…取ってくださいね。」


「……………ごめんなさい。」


 恐ろしい要求に沈黙が続き、丁重に断ると、「取ってくれますよね」とでも言いたげな無言の圧を掛けてきたので仕方なく「……考えておきます」と濁したのだった。

 __________________

 そしてミズアメとの約束の日がやって来た。


 寮のメンバー達には知り合いのところに遊びに行くからしばらく帰らないと言って出てきた。決して嘘では無い、まぁ泊めてくれなければ野宿だが。


「それで、何故お前まで着いてくる?」


「だーかーらー!何度も言ってるようにお兄さんが心配だから着いて行ってあげてるんだよ!」


「心配されるような年齢じゃねえし、向こうも来るのは僕1人を想定してるだろうから。」


「子供1人増えたところでどうってこと無いでしょう。」


「まぁ、いいけどさ…。」

 ここまで来て今更帰れなんて言ったところでどうしようもないので困ったらその時考える事にした。


 そうしてミズアメの指定した場所に行くとミズアメが既にベンチに座っていて、こちらに気付くと手を振ってくれた。


 一応言っておく、僕は遅刻なんてしていない、奴が早すぎるだけだ。まだ約束の十五分前だぞ。


「よぉ、遅かったな。待ちくたびれちまったぞ。」


「お前が早すぎんだよ。まだ約束の時刻になってすら居ねぇよ!」


「ごめんごめん冗談だ、ところでその子が噂になってる颯太の子供なのか?」


「着いてくると言って聞かなくてな。って、ちょっと待て!コイツが俺の子供?どういう噂になってる!」


「え?、颯太と天藻(あまも)さんの子供って噂で聞いたんだが?」


「だとしたら年齢的におかしいだろ、僕もユキもまだ15だぞ。」


「私に言わないでくれ、あくまで噂なんだから、別に信じてなかったぞ。ところで何の用……いや、分かりきってるな、この前の企業襲撃の件だよな?」


「まあ…な、何か理由があるのか?」

 重々しい口振りに対して思わず言葉が濁る。


「理由……ね、強いて言うならあそこの社長が嫌いだったからだな。アイツの簡単に人を切り捨てるような性格が。」

 ミズアメは淡々と言う。



「確かに聞いたことありますね。『時創は社員を使()()()()』と。ただ、労働に対する正当な報酬が支払われており、社員も受け入れている、だから誰もソレに触れないでいるのが現状ですね。」

 小夜が丁寧に解説してくれる。


「ま、時創の関連はそもそもが私怨だったし、殆ど終わった。今は本来の目的である能力至上主義を打ち倒すことを目指している。だから私に…いや、私達に力を貸してくれないか。」


「これからよろしくな」差し出された手を握り返す。

 正直よく分からないが、姉さんに最低限の義理は通しておきたい。


 話がまとまったと思ったその時、「私は入れてくれないんですか?」と小夜。


「もちろん構わないよ。人手は一人でも多い方がいいからね。」

 よかった、もし断られていたら僕は助言者(アドバイザー)を失う所だった。


「―早速、拠点に案内する。」

 僕達は拠点へとついて行く。

 ______________________


「なぁ、本当にここが拠点なのか?どう見ても………。」

 ミズアメに連れてこられた場所は24時間営業のスーパーだった。


「スーパー?ですよね」


「……だよな、ミズアメは何か買うつもりなのか?」

 そう聞くと、ミズアメはやれやれとでも言いたげな顔で首を降った。


「察しが悪いなぁ、ココが私達の拠点(アジト)だ。まぁいいからついてこい、来たら分かるから。」



 言われるがままついて行くと、バックヤードにある冷凍室へと連れてこられた。


「夏とはいえ、さすがに寒いですねぇ。」


「寒いなんてもんじゃねぇ、凍え死ぬ。」

 実は僕らを殺すために此処に連れてきたとかは無いよな。、


「安心しろ、心中するつもりは無い。というか、まだ死にたくない。」

 そう言いながらミズアメが隅っこの床を外すと、穴があって梯子が続いていた。



 梯子を下りると、快適…とまでは行かなくとも、かなり過ごしやすい環境が広がっていた。電気も通っているようで、住めそうな場所だった。


「まさかこんなものが地下にあったとは。」


「驚いて貰えたのなら作った甲斐があった。結構な金額したんだぞ。」


「何処からそんな金が湧き出るんだよ。」


「そうですよ、こんなものを作ろうとしたらウン千万は下らないですよ。」


「投資系で儲けてんだよ、前にも言ったんだけどな。」



 通路を抜けると広い空間に出る。その空間の隅っこで僕達と同い歳くらい?の女が座って本を読んでいた。女はこちらを見ると目を見開き、怒りだす。


「何してるの、殺すわよ。」

 突如として身体が重くなる。突然の事で膝をつき、どうにか立ち上がろうとするが、身体が全く動かない。能力なのは確定として、ヤバイ、呼吸が出来ない。


 「あ、ああ、」


「わ…悪い、リン、コイツは今日から入る新人の八神だ。同い年だから仲良くしてくれ。」


「また急に‥‥、しかも今回は同年代の男‥はぁ。私は凛、名字は知らない。悪かったわね。」

 彼女はため息をつきながら言って能力を解く。


「構わねぇよ、僕は八神颯太、コッチのちっこいのは小夜だ。」


「『ちっこい』は余計だけどね!」

 癪に障ったようだが、ちっさい事は気にしない。気にしたら負けだ。


「この広さに2人だけなのか?」


「もう少し居るけど、今は上で仕事中よ。」


「上?スーパーで働いてるのか。」


「そうだ、上にあるスーパーの従業員はほとんど組織(ウチ)のメンバーだ。スーパーは便利だぞ、大量に食材を仕入れたり電気を使おうと疑われる心配はほぼ無い。そう考えたら安いもんだった。」


「本当にお前の行動力を見習いたいもんだわ。」


「ホントどういう金銭感覚してるんだって話ですよね。」


 合理的…と言えば、そこまでなのかもしれないが、『安い』と言えるのは、やっぱり狂ってるからだな。


「まぁ夕方までゆっくりしててくれ。」


「遠慮なくそうさせて貰いますね。」


「僕はこの辺りを少し見て回りたい。」


「案内してやろうか、お前よりはこの辺りの事は知ってるぞ。」


「遠慮しておく、まずは一人でゆっくり見てみたい。案内は次の機会に頼む。」


「そうかい、気をつけて行ってこいよ。」


「ん。」


 〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️

 僕はアジトから離れた場所で電話をかける。ガチャリと音がして相手が話す。


『やっと連絡して来たわね、首尾よく行ってる?』


「とりあえず組織に入れた。」


『上出来よ、さすが私の愛しい弟。』


「やめろ、こっ恥ずかしい!」


『ホントのことじゃない。』


 まったくこの姉は‥。可愛がってくれるのは有り難いが、ここまで表に出されるとこっちが恥ずかしくなる。


「それで、僕は何をすればいいんだ?正直、今すぐ何かを起こすとは考えにくいんだが。」


『監視してくれていたら良いのよ。一週間に一回くらい簡単な報告をしてくれたら有難いわね。』


「僕が寝返るとは考え無いのか。」


『別にそれでもいいのよ、ただ彼女に危険なことはさせないでね。大事な生徒だから。』


「へいへい、リョーカイっ。」


『それじゃあね。』

 姉さんとの通話を終了し、ポケットにスマホを直す。


「そう言えば……、」この組織の目的は何だろうか?入るときに何か言っていた気がするのだが‥‥。


「ま、あとで聞けばいいか。」そう自分を納得させた。

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