▶5.疑惑
夏休みが始まって少し経った頃だった、少し気になるニュースが放送していた。
ニュースの内容は時創製薬という世間的にもよく知られている大手の製薬企業が昨夜、何者らかの襲撃を受けたとの事だ。それよりも僕の目を引いたのは、襲撃の様子とされる映像にミズアメらしき人物が映っていたことだ。
とはいえ、確証が持てないのでユキにも聞いてみた。
「なぁ、映像に映ってるコイツ、ミズアメに似てないか?」
「??、ミズ…アメって誰?」
「え!?ミズアメって言ったらミズアメだ。ほら、分かるだろ‼️」
「あだ名で言われて分かるわけ無いでしょ。名前で言って。」
「えっ……と…ほら、アレだよ、アレ」
「いや、オレオレ詐欺みたいに言われても…」
ユキが困ったような顔をする。
(ヤバい、ミズアメ呼びし過ぎてアイツの名前出て来ん!)
「…ほら、最近旅に出た…クラスメイト…?」
「ああ水谷さんのことか。というか何で疑問符がつくのよ、ちゃんとクラスメイトだから!!」
「ま、そんなことは置いといて、これなんだが…」
スマホを使ってニュース映像を見せる。
「えっと…、確かに似てる気がしなくも無いけど、よくこんなの気づいたわね。」
「ふぁ〜、どうしたんですか?」
僕たちの声を聞いて小夜が欠伸をしながら起きて来た。
「なぁ、ミズアメって奴知ってるか?」
「ええ、あのお兄さんにベタベタしている忌まわしきドラ猫ですよね。」
「ベタベタはして……無いことはないか。」と言うか、「何でそんな事知ってるんだよ。」
「それは…、。お兄さん、私は何時でも何処でもお兄さんのことを見守っているからですよ♡」
「可愛く言っても、言ってる行動のヤバさは変わらないぞ。あとマジで怖いからガチでやめてくれ。」
「大丈夫ですよ。私達の仲は保護者公認ですから。」
「嘘つけ!僕ですら居場所を知らない親とどうやって会うんだよ。」
「ホントなんですけどねぇ~」
そんな事を話しているとガチャりと扉が開く音がする。どうやら外出していた紗良と龍之介が帰ってきた。
せっかくなので2人も加えて話す事にした。
「……という事なんだがどう思う。」
「そう...だなぁ、彼女のことをよく知らないから分からないとしか言えないが、彼女について悪い評判や黒い噂なんてのは聞いたことが無いな」
悩みつつも龍之介が意見を出す
紗良も「たまに水谷さんと話すけどそんなことをするような人とは思えない。」と言っていた。
それらを踏まえて僕が考えていると、ユキが発言した。
「考えるだけじゃ解決はしないんだから、貴方がそうだと思う方を見ればいいし、それを決めるのが今である必要性は皆無なのよ。」
「そうだぞ、悩むくらいなら見たくない仮想なんてもの見ずに放っておけばいいんだよ。」
「仮にそうだとしても何かしらの理由がある筈だよ!」
「そうですよ、お兄さんが無理する必要は無いんだよ。」
そう言って皆、各々の言葉で僕を励ましてくれる。
「そうだな、それは次に会う時に聞けばいい。」
そう言い、思い、その問を後まわしにした。
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翌日、僕は姉さんの元にいた。
「僕、夏休み中なんですけど…」
「だから?何か問題でも。」
「あ、はい、すいません。」
やっぱりこの人ヤダ、絶対弟のこと何とも思ってないだろ。
僕が嫌な顔をしていると姉さんはクスリと笑って話した。
「冗談よ、本当に申し訳ないと思ってるけど頼みがあるのよ。」
姉さんの冗談はキツすぎる。
「それで、内容は?」
「一昨日起きた事件に学校の生徒が関わってるかもしれないから、その組織に潜入して調査して欲しいの。」
「……分かった。」
ちょうどアイツに確認したいことが出来たばかりなので承諾した。
「随分とアッサリね。」
だが……「警察に任せないのか?」
「任せないというより警察が動けないと言うべきかしらね。どうしてかは分からないけれど被害届が出されていない、だから警察は動けないのよ。」
「は?意味が分からないし、届けが無いと動けないなんて警察は肝心なトコで役に立たねぇな、ところで組織への潜入はどうやるんだ?」
「さぁ?自分で考えなさい。」
………マジかよ、方法を丸投げするのはダメだろ。
「なぁマジで丸投げ?」
「マジよ。頑張って!言ってくれたら出来ることは手伝うから!」
「なら、時創製薬の取締役と話がしたい。」
「分かったわ、今から行きましょうか。」
「今から!?」
「そうよ、ちょうどこの後代表と会うアポは取ってあるから。」
「随分と準備がいいな。僕が言うことを分かってたのか。」
「コレに関しては偶然よ。私も被害届を出して無い事には思うところがあるのよ。」
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姉さんの車で時創製薬にまで来た。時創製薬は昨日のこともあってクソ厳重な警備だった。
姉さんが受付の人にアポを取っている旨を伝えると受付の人は内線で確認した後、僕達は応接室に案内された。部屋の中で中年の男性が待っていた。
「はじめまして代表、本日はお時間をとっていただき、感謝します。」
姉さんに続いて僕も慌てて軽く頭を下げる。
「頭を上げてください、記者のついでですから。こちらも理事長さんと話す機会が出来て良かったです。」
「そう言って頂き光栄です。紹介が遅れましたが、これは私の弟の颯太です。早速本題ですが ━」
一連の社交辞令を済ませて本題に入る。というか、『これ』呼ばわりは家族でも少し傷つく。
「 いきなりで不躾ですが、何故、被害届を出されなかったのですか?」
姉さんが真面目な顔で聞く。だが、返ってきた答えは意外な物だった。
「端的に申し上げると被害というものが全く無かったからですね。」
「全く?」思わず口が滑る。
「颯太くん?と言ったかな。私も驚いているのだよ、私も彼女達の目的が皆目見当がつかない。ただのイタズラなのか、力の誇示なのか」
「犯人たちと面識は?」
「…分からない、私も恨みを買うことをしていないわけでは無いんでね。」
その後も姉さんと僕が質問をしたが、目新しい情報は出て来なかった。ほとんどが既にニュースや新聞などで出ている情報だった。
そして、残った問題はどうやってミズアメと接触し、組織に潜入するかだ。何も思いつかない。これも何も姉さんの丸投げのせいだ。
姉さんの丸投げのせいで僕は頭を抱えながら帰る羽目になった。
……というか、今更だが、お使い感覚で激ムズミッション課して来んなよな。
(はぁ、どうしよ。)