▶3譲りたくない戦い
なんやかんやの結果うちで引き取った小夜だが、部屋があるにはあるのだが、物置となっていて寝る部屋がない。つまり誰がベッドを小夜に譲るかという戦いが繰り広げられている。
ちなみに小夜は現在風呂に入っている。子供に大人の醜い争いを見せるわけにはいかないというリーダーであるユキの判断である。
「という訳で譲ってあげてくれない?まさか女子をソファーで寝させたりしないわよね。」
「そうだそうだ、まさかさせないよな。」
「いや、私は別にソファーで寝ても.....」
内気な紗良はそう言うが、ユキの言うことにも一理ある。男と女では身体の造りが違う。
というか.....
「おい龍之介、お前はいつから性別を変えたんだ。」
「今日からだ!」
「そうか、だったら股の間にぶら下がってるもんとか処理してやらねぇとな。安心しろ、俺の能力なら痛みなく処理してやれる。」
「ちょっと待て!目が本気になってるぞ。私が悪かった。どうか矛を収めてくれ。」
「じゃあ、譲ってやるよな」
「それとこれは話が別だ。ここは平等にジャンケンのタイマンをしよう。」
「望むところだ。覚悟しとけよ。」
「「最初はグー、ジャンケン...」」
「「ポン!」」
「あぁー、負けたあぁー。」「っっしゃあー」
俺が負けた。勝負は勝負なので大人しく譲った。床とかソファーは首が痛くなるから嫌なんだけどなぁ。
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深夜、俺は寝付けず、ベランダで外の空気を吸っていた。静かだ。心が凪ぐ。
「いい気持ちだ。」
「だね、心が落ち着く。」
驚きで体を震わせる。背後に小夜がいた。
「いつの間に...、てか子供の起きてる時間じゃないだろ」
「ま、子供じゃないので。」
「随分と都合のいいこったな、この前子供だって言ってただろ。」
「まあ、別にいいじゃん、そんな過去のこと。」
「ほんの半日前のことだけどな。」
「過去は過去だよ、過去なんて振り返ってたらキリがない、未来について考えましょうよ。」
「いい言葉だな、誰の受け売りだ?」
「私のオリジナルですよ〜だ。」
「嘘つけ、てか喋ってたら目が冴えてきたからちょっと散歩にでも行こうかと思うが一緒に来るか?」
「もちろん行きますよ、ちょうど暇してた所だから。」
小夜と駄弁りながら歩いて大きな公園の前に通った時の事だった。
「ねぇ、手合わせしない?どちらかが降参するまで戦うって言うのは?」
「やだよ、絶対勝てないし。わかってて言ってるだろ。」
屋敷で攻撃が一切当たらなかった事を思い出す。
「じゃあ最初に一撃入れた方の勝ちでいいし、細かいルールは決めていいからさ」
「まあ、それなら。」
それでも勝てる気はあまりしないが。
「よし決まり!負けた方は勝った方の言うことを1つ聞くという事で」
「おい!聞いてないぞ!」
「言ってないからね、それに罰ゲームが無いと盛り上がりに欠けるでしょう。」
小夜の笑みが完全に悪女のそれであった。
「はぁ、コインが落ちるのが合図だ。後、ほらゴム製のナイフだ、これなら大怪我にはならないだろう。細かなところはこんなもんだ、いいか?」
俺がため息をつきながらナイフを投げ渡して確認し、小夜が受け取ることで承諾となす。
俺がポケットから取り出したコインを真上に投げる。
落ちる寸前、小夜が笑みを浮かべながら言った。
「殺す気でかかって来て下さいね。」
俺は戦慄を覚える。
そしてコインの落ちる音が静かな夜に響き渡る。