▶2.不思議な少女
先日の事件から少しして、期末テストがあった。俺もユキもテスト3日前くらいまでタスクをこなしていたので点数は期待していなかった。
そして終業式、校長のなっっがい話を聞いて(姉さんは短かった)教室で担任から成績表が渡される。
俺の成績はともかくとして、驚くべきなのは、雪の成績だ。テスト直前までほぼ毎日俺のタスクをこなすのに付き合っていたのに、全教科満点の学年トップだ。
「なぁ、なんでそんな成績良いの、チートか?」
「まぁ、勉強したからね。」
「いやそんな時間無かっただろ。」
とんでもない化け物スペックである。天才というものは恐ろしいな。
「それより貴方はどうだったの、点数は足りたの?」
「割と余裕でな。ほら」
そう言って、俺の成績表を手渡す。
「何これ暗記に偏りすぎでしょ、落差がおかしいでしょ。」
「覚えるのは得意でな。」
ちなみに俺の点数としては、理科や社会などは80~90代と高得点だが、数学は1桁である。
「どうだ、すごいだろう」
「すごい・・・ね。」
ひきつった顔で雪は言う。
その日の放課後、保健室と理事長室の違いはあれど、また呼び出された。理事長室のドアを開けるとそこには肝心の理事長はおらず、十人位の生徒がいた。その中には雪や龍之介、紗良など幾人か見知った顔をあった。
俺は同じ寮の雪たちのそばに行って同じ寮の紗良に聞く。
「これってなんの集まりなんだ?」
「さあ、その様子だと八神くんも知らないんだね。」
「ああ、おっと来たみたいだな」
ドアを開けて理事長が入室し、話し始める。
「みんな、暑い中お疲れ様。今回来てもらったのは、緊急の依頼が入ったからよ。」
「先生ー、そーゆうのは警察の役目じゃないんですかー?」
一人の生徒が言う。それに対し、姉さんは理由を言った。
「その警察直々の依頼よ、警察も人手不足なのよ。嫌なら断ってもいいわ。あまり気分の良いものではないから。」
「それで、依頼の内容はなんですか?」
龍之介が恐る恐る聞く。
「殺人が起きたと推定される現場の捜査です。」
「「え・・・・・・」」
全員が押し黙る。
しばしの間沈黙が流れる。
「じゃあ場所を教えるから行ってくれる。それからこの事は他の生徒には秘密にしなさい。」
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そうして、俺達は教えられた場所にやってくる。そこには大きな3階建ての屋敷が建っていた。そして、ここにいる人数は当初と比べると3割程度にまで減っていた。
中に入ると鉄臭い匂いが鼻に入り、ドロっとしたものを踏む感触があった。思わず後ずさる。
(血だ、当然だ、ここは殺人現場なのだから、覚悟はしていた、なのに何だこの吐き気は。)
思考がグチャグチャになって上手くまとまらない。
まわりを見ると結構な数の生徒が吐いていた。
紗良が背をさすってくれる。
「大丈夫?コレで匂いはマシになると思うから。」
沙良がマスクを渡してくれる。
「サンキュ、おかげで少し楽になった。」
「無理なら外で待ってていいよ」
「いや、大丈夫だ。」
そう言って、俺は奥へと進んでいく。その後を雪が着いてくる。しばらくして、ある違和感に気付いた。
「なぁ、遺体はどこにあるんだ。」
そう、これだけ大量の血があるのに一人の遺体も見当たらない。
「警察が運び出したんじゃないの?」
「それは無いんじゃないか、その余裕があれば学校に依頼してないだろうし。」
「そう‥なのかな?」
「考えても分かんないだろうし、手分けして屋敷を探索したほうがいいだろ。さっさと終わらせたい。」
そう言って、屋敷の中を動ける人達5人程度で探し始める。
幸い、血が広がっているのは1階だけだったので、俺は3階を担当することとした。
ある小部屋を探している時、そよ風が頬を撫でた。風の来る方を見ると窓が開いており、少女が座っていた。
俺は即刻能力を使い、壁を変形させ攻撃する。だが、攻撃全てがいなされ、避けられた。
「なんですか、いきなり。こんな可愛い女の子に攻撃して! 」
「そっちこそ何してる。下の血はお前の仕業か。」
「はぁ、違いますよ、それよりもアレには関わらない方が良いですよ。」
少女はため息をつきながら言う。
「教えろ、何が起きた。」
俺は警戒を解かずに話す。
「別に〜人が殺されただけですよ。」
少女は指で髪を巻きながら言う。
「だったら、死体はどこに。」
「さあ、食べられちゃったんじゃないですか〜。」
「茶化すな」
「だって知らないですし。あ、それよりも私を養って下さい」
「は?、何言ってる..、意味が分からん。」
「別に良くないですか、というかいいですよね。」
少女から圧を感じる。何となくだが、断ったらタダじゃ済まない気がする。というか死ぬかも。
「ちょ、ちょっと待て。そんなこと俺じゃ決められん、同居人に聞くだけ聞いてやるからそれで勘弁してくれ。」
「お仲間がいるんですね。わかりました、お仲間のところに連れて行ってください。」
「そう言えば、お前の名は?」
「小夜です。以後お見知り置きを」
そして、ユキたちのところに連れていく。
「なぁ、上にこんなのが居たんだがどうしたらいい?」
「こんなのって?」
「これ。ほら自分で話せ、小夜」
小夜をユキの方へ押しやる。
「.....小夜ちゃんはこれからどうしたい?」
「えっ…と、このお兄さんと…居たい…です。」
少女の面の皮は随分と厚いようだ。
「じゃあ、あなたさえ良ければ一緒に暮らさない?」
小夜は自分の持つ幼さという武器を生かし、ユキからその言葉を引き出した。小夜は頷く。
「一緒に‥暮らしたいです。是非」
「なあ、決めるのは紗良とか龍之介に聞いてからでもいいんじゃないかな。」
「大丈夫よ、2人もきっと頷くから。」
こっちが大丈夫じゃ無いんだよ!!しかしながらそれを口に出す訳にも行かず渋々認めることとなった
帰り道、俺は小夜に耳打ちする。
「おまえ、詐欺師に向いてるよ。」
「褒め言葉をありがとうございます。」
「...可愛くねぇやつ」
「どこが?これでも結構モテますよ。そう言えばお名前を聞いていませんね、教えてくれませんか。」
「颯太だ、八神颯太。あと敬語はやめてくれ、なんか嫌だから。」
「八神...なるほどそういう事ですか。」
「ん...悪い、聞き取れんかった。」
「いや、なんでもないよ、ちょっと考え事を。」
「何2人は仲良くなってるのよ、むぅ」
俺たちが話しているのを見た雪はむくれている。
「なんで拗ねてんだよ」
「だって、颯太ばっかり小夜ちゃんと話してるから」
「そんなこと言われても...ねぇ。そのうち仲良くなれるんじゃないか?」
「そうね。私も小夜ちゃんと喋りたいな。」
雪が優しく話しかける。
「ごめんなさい、お姉さんの彼氏を独占しちゃって。」
「「彼氏じゃない!」」
俺とユキの声が同時に出る。
周りから笑い声が聞こえる。
「息ピッタリだし、お似合いじゃん。」「バカと天才でバランス取れてるじゃない。」「よっ、名夫婦」
ヤジが飛んでくる。ユキが赤くなって否定する。
「もう、そんなんじゃないって!」
そんなに強く否定されると心に来るものがある。
盛り上がっている人達から少し離れて歩く。
「お兄さんはあの輪に入らないの?」
俺に残酷な問が投げられる。
「いや...ああいう賑やかなのは苦手で...」
「ああ、陰キャか」
「陰キャじゃねぇよ、話せる人とは話せるんだよ。」
「そうやって決まった人としか話せないのを陰キャって言うんだよ。」
まったく、人が目を逸らしていることをズケズケと。
「お前、いい性格してるな。」
「ありがとう」
「皮肉だ、額面通りに受けとんな」
「私、素直なので。」
小夜が誇らしそうに言う。
「そーゆう所だ。お前何歳なんだよ」
「うーん、10歳」
見た目にあった年齢をあどけなく言う。聞いても無駄なのだろが。
そして、最終防衛ラインこと理事長である姉さんさえも快諾してしまったことで希望は潰え、受け入れる他無くなった。というか、あいつ絶対子供なのは見た目だけだ、中身は俺と同じか少し上だろ。