▶10.結末~第1章[完]~
僕達は学園への侵攻を始めた。予告しただけあって、生徒と教師陣が共に待ち構えていた。しかしながら、その中に理事長である姉さんは居ない。
僕とミズアメは学園の生徒なので、正体がバレないように仮面を着ける。
「お互い、成功させて無事に会おうな。」
「怖いからフラグを建てるな、僕まで巻き込まれるかもしれないだろ。」
「死ぬ時は道連れだ、仲良く逝こうぜ。」
死ぬなんてまっぴらごめん、完全拒否である。
「安心してください、亜美さんの事は私が守ります。」
早乙女さんの言葉は力強かった。
「じゃあ、作戦通り僕達は屋上から攻めるから、まぁ頑張ってくれ。凛、頼む。」
「人の使い方が荒いわね。」
凛がやれやれとでも言わんばかりの顔で僕の脇の下に手を通す。
小夜と凛は自力で、僕は凛に抱えられて空を飛んで、ひっそりと屋上に向かう。
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「無理はするなよ、いざとなったら逃げてくれ。」
私は隣を走る助手こと花に言った。
「貴方を一人置き去りにはしませんよ。危なくなったら私が殿を務めます。」
「やめてくれ、そんな事をしたら後味が悪くなるだろ。」
「私も同じですよ。要するに結局、勝てば何も心配は要りませんよ」
そうは言っても、花の能力はともかく私の能力は戦闘に向かない。
つまり私の武器は颯太に作らせた麻酔銃のみだ。麻酔は漫画やアニメのように打って即刻効果が出るわけではない、少し時間差が生じる。その上、弾は私と花のものを合わせても50発程度しかないが、待ち構えている敵は100を超え、さらにここに居るということは、全員戦い向きの能力だろう。1人に弾を1発も使えないので、戦闘はかなりの部分を花に任せることになりそうだな。
「悪いな、守って貰うことになる。」
「是非守らせていただきますよ!貴方が居なければ、組織は立ち行きませんので。ただ、あまり強くされると、」
花は生徒の方に向き直って言い放った。
「怪我しますので、お気をつけて。」
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「どうしたものかな、問題は姉さんがどこに居るかだな。」
「そのまま理事長室じゃないの?」
「いや、姉さんって喋るの好きだし、養護教諭だったりもするから1階の保健室にいたり3階の職員室にいたりで居場所が分からねえんだよ。下手したら前線に出て戦ってたりも...」
「今のところ、それは無いみたいだけど、表に出てくるのも時間の問題かもしれないから。手分けして探そう。」
「賛成だ、僕は1階を探すから2階と3階は頼むぞ」
「OK、私は3階探すから凛さんは2階をよろしく。」
「.....」
「どうした?黙り込んで」
「いや、大丈夫、少しボーッしてただけ。私は2階を探せばいいのね、大丈夫よ。」
「いいか、姉さんを見つけても絶対に1人で戦おうとするな。姉さんはマジで強いから。」
僕はその場を後にし、最初に保健室に向かう。そして、案の定、姉さんは保健室にいた。僕は凛と小夜にこっそりと知らせる。
「あら、久しぶりね。」
「久しぶり...と言う程離れていた訳じゃ無いだろ、せいぜい1週間だ。」
「私にとっては久しぶりなのよ、ほぼ毎日会っていた弟と1週間も会えなかったんだから。」
「ブラコンが...!」言葉を飲み込む、流石に実の姉に対してキモイとは言い辛かった。
「家族愛は素晴らしいものよ♪ それで、貴方は何をしに来たのかしら?」
「よく言うよ、分かってる癖に。」
「やっばり、学校を乗っ取りに来たのね、残念だわ。」
「だったら、力づくでやるしかないな。」
啖呵を切ったものの正直1人では勝ち目は薄い。どっちでもいいから早く来てくれ。
天に願いが届いたのか、小夜が来てくれた。
「やっと来てくれたか、さぁ姉さんをやっちゃってくれ。」
「パース、今回は見てるだけ、いざとなったら手を出すかもだけど。姉弟喧嘩には干渉しないよ。」
「はぁー!」無理無理無理ムリ!小夜が粘れば勝ちと思っていたので、かなりの絶望感がある。
かくなる上は、凛が来るまで粘るしかない。
「あーもうっ、やってやんよ!」
「がんばれー、応援してるからねー。」
『応援するなら力を貸せ!』と心の内で思ったが口に出せるほどの余裕は存在しなかった。それ程までに僕にとって、姉さんは脅威的な存在なのだ。
「それじゃ、始めましょうか。かかって来なさい。」
「殺しちまっても文句ナシだぜ。」
「それはコッチのセリフよ!」
姉さんの手元に剣が現れる。そして、剣を姉さんは振り抜いた。その一閃は飛ぶ斬撃と化し、射線上のあらゆるものを裂いて進んでくる。僕はその斬撃をナイフで掻き消す。切り裂かれた天井が落ちて、戦いの場は外へと移された。
「いきなり『草薙』かよ……。」
世界には”神物“と呼ばれる現代技術で再現不可能とされる能力が宿った代物がいくらか存在し、その2つが、姉さんが現在使用している刀剣状の『草薙の剣』と僕の使用しているナイフ形の武器も名前は知らないが神物の1つだ。『草薙の剣』は“なんでも切り裂く“といった能力が、僕の武器には“壊れない”能力が宿っている。
今の斬撃もこのナイフで無ければ、武器ごと真っ二つに裂かれていただろう。ショボイように見えて実は結構強い武器なのだ。でも名前が言いにくいので僕は単にナイフと呼んでいる。
「この程度では終わらないわよ」
姉さんはさらに多くの斬撃を繰り出し、僕は基本は避けつつ当たりそうなのはナイフで弾きながら近づく。
そして、姉さんの懐に入ってナイフを振ろうとした時、足元から石柱が勢いよく生えてきた。僕の身体は空高く打ち上げられるが、創られた石柱を変形させて難なく着地の足場を作った。そうする間にも能力による次の攻撃と斬撃が織り混ぜられて飛んできて、上手く地上に近付けない。
姉さんの能力は”創る“、僕とは違い、素材が無くても創り出すことが出来る。また若干、コンマ数秒、姉さんの能力の方が発動が早い。そして姉さんは戦闘においての僕の師であり、闘い方は非常に似通っている。故にワンアクションあたり1秒にも満たない差が命取りとなり、後手に回っている。今もどうにか足場を作って逃げ回るのが精一杯だ。
「クソッタレが……、」
考えろ!どうやったらこの弾幕を突破して姉さんに1発入れられる。
空からは学園の敷地内が見渡せて、グラウンドで(恐らく教師と)戦っているミズアメや早乙女さんの姿が見える。どうやら互いに近付けず、睨み合いをしているようだった……が、どこからか現れた凛によって戦局はひっくり返された。彼女の生んだ波動1つで周辺にいた学生がほぼ倒れてしまった。
グラウンドの制圧が終わった事は嬉しいとはいえ、こちらまで来るのには少々の時間が掛かるだろう。
凛、まじで頼む!早く来てくれ!死ぬ!
そんなことを考えながら命からがら逃げ続ける。そうだ、小夜はどこだ!流石に助けてくれるだろ。
辺りを見渡すが、小夜は見つからない、凛も来ない。つまり助けは期待出来ない、
「...だったら、少しぐらい自棄になってもいいよな。」
僕は空高い足場から離れ、重力に身も任せる。致命傷になりそうな攻撃のみに対処し、身体はどんどん加速する。
「痛っっ!」
着地した衝撃で足がイったようだ。だが、そんな事では止まれない、止まることは死だ、生きることを諦めない限りは止まるつもりは無い。
着地してからは、戦いの中で生まれた大量の石の柱や校舎の残骸で姉さんの視線を切りながら近づく。そして正面から斬り掛かる。
「正面は悪手じゃないかしら。まだ射程外でしょ。」
確かにそうだ、仮に僕が腕を伸ばしてナイフを振ったとしても姉さんには届かない。対して、姉さんの剣は射程内だ。それでも、僕は振りかぶる。姉さんが剣を振る、その一撃は振りかぶった僕の体勢からは避けようが無いものだった。……能力が無かったならな!
「甘いんだよ!」
姉さんの足元が急激に隆起する、故に姉さんは体勢を崩したせいで空振りして体勢を崩す。僕は振りかぶった武器を振り抜く。その一撃は空振りすること無く、姉さんを切り裂き、姉さんは血を垂らして倒れた。
「勝て...…た……のか。」
「そうよ、良かったわね、正真正銘、貴方の勝ちよ。……まさか颯太に負ける日が来るなんてね。」
「僕も成長し続けてるからな、まぁもう一度やっても勝てる気がしないけどな。」
「どうかしらね。」
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しばらくしてミズアメたち3人がやって来た。
「おい、殺しちゃ駄目って言ったんだが…」
「いや…生きてるぞ。」
「はぁ、そんな訳……」
「生きてるわよ」
姉さんがムクリと起き上がる。
「ひっ、きゃああああああああああ!!!」
ミズアメの金切り声が響いて耳が痛い。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない、私にとっては治せる傷だったってだけで、そもそも致命傷ですら無いからね。」
「んなバカな……もういいや。」
あ、ミズアメが諦めちゃったよ。やっぱり深手を数十秒で治療できるとかチートなんだよな。
「それで、何が望みかしら?一つだけなら聞いてあげるわよ。出来れば具体的にお願いね。」
「負けたんだから言う事全部聞きなさいよ!」
負け惜しみだと主張する凛を僕が遮る。
「やめろ、殺し合いなら負けていたんだから。姉さんが素直に負けを認めてくれたから僕は勝てたんだ。」
姉さんがゾンビ戦法でも使っていれば、一切の勝ち目は無かった。あくまで『殺し合い』ではなく『喧嘩』の範疇だから勝てたのだ。
「…………それなら、入試の受験資格を非能力者にも与えてください。」
ミズアメはしばらく考えて、頼みを言った。
「分かったわ、ただし危険を鑑みて能力者と比べて制限する点があるのは飲み込んで貰うわよ。」
「勿論です。」
「そ、それなら今日のところは帰りなさい、後片付けは私と颯太でやっておくから。」
「なんで僕もなんだよ...……」
「壁の穴とか、この大きな石の柱とか、ほとんどの被害は私達兄弟が原因というか仕掛けてきたのはそっちなんだから……別に私はやらなくても貴方に賠償請求したお金で直せば……。」
「よろこんでやらせて頂きます!!」
そんな金を払える訳が無い。
「よろしい、私も出来るだけ手伝うわ。」
姉さんはとっても優しいが、自分の尻拭いは自分でするべきと強く考えている。ちっちゃい頃も何度言われたことか。
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〜3日後〜
姉さんだけでなく、凛やミズアメ、ユキ達も手伝ってくれたので予定よりも、とても早く修復が完了した。また、学園侵攻のことについては緘口令が敷かれ、殆ど世間に広まらなかった。唯一広まったと言えるのは、僕がそれなりに強いということだけだ。今までコネ入学と見下していた奴が実は強いと知った奴らは傑作だった。
そして、非能力者の入学の件だが、なんと侵攻の翌日には公表されたのだ。恐らくだが、姉さんが権力で押し通したのだろう。世間の反発については殆ど無かった。
というのも、そもそもとして非能力者と言われる者達はこの国に1000人居るかどうか、つまり0.001%程度しか居ないのだ。100人、200人も居たあの地区が異常なだけなのだ。まぁそんな訳で世間的には『ま、いいんじゃね。』くらいの感覚なのだ。
ついでに、その翌日には、他の入学を非能力者の入学を禁止していた高校が続々とアルビノの入学を解禁し始めたのだ、流石は能力者育成においての最前線の刻星学園といったところだろうか。
まぁ、なんだかんだ学園侵攻の件は『死人が出なかった』という事で許された。それからは、まるで何処かから圧力が掛かったかのようにメディアでこの事件が取り上げられることはパッタリと無くなった。
一応、非能力者の地位向上を目指してていたミズアメが率いる組織について話すと、ミズアメは別の人間にリーダーの座を譲った。
「本当によかったのか、組織を捨てて。凛や早乙女さんは勿論、お前というカリスマに着いてきてた人も抜けたんだろ、随分痛手じゃないか?」
「私の知った事じゃない、元々私の組織じゃない」
「そうなのか?僕はてっきりお前が作ったのかと。」
「私は場所を提供しただけだ。いつの間にかトップに立たされてたけど……。そんな訳で私が抜けたところで何もかわらないんだよ、元の形に戻るだけだ。」
「あっそ」
後から知った話だが脱退後もミズアメは拠点としていたスーパーを彼らに無料で貸し、税金等諸々の費用を払っていたそうだ。