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能力なんてクソくらえ・  作者: 迫り来る睡魔
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▶1.プロローグ

 この世界には、″能力″というものがあり、微弱なものからとてつもなく強大なものまで、その振れ幅は大きい。

 また、一部の職は、能力によって大まかな階級が決まってしまう。

 その上、厄介なことに一度開花した能力は永遠に変わることは無い。そのことから一部の人間はこれを″能力至上社会″と呼ぶ。





 入学式から約1週間、今日も今日とて俺こと高校生の八神(やがみ)颯太(そうた)が学内の廊下を歩くと、皆がざわめく。このざわめき、一見、俺が人気者のように見えるかもしれないが、全くの逆である。

 陰口を叩かれているのだ。もっとも、本人の前で言っているのだから『陰』では無いような気がするのだが・・・。


 陰口といっても、俺には、後ろめたいことなど無い。ただ一点を除いて。陰口の理由は、ズバリ、コネ入学と思われているのである。

理由としては俺の姉がこの学校の理事長というだけである。一体どこから広まったのか分からないが(それ)を否定するだけの材料を持ち合わせないのでどうしようもない。


 入学したのが定員割れしているような高校ならまだしも...俺はこの国トップクラスの学校で奈良県にある刻星(こくせい)学園に通っている。俺を含めて皆入学のために努力してきたからこそ、ズルを許せず妬まれるのだ。


「くそ、コネだって立派な力だろうが。」


 俺がぼやくと、後ろからチョップされた。


「冗談だよ、ユキ」


 この女(コイツ)の名は天藻(あまも) (ゆき)同じ寮の人間で俺のことを信じてくれる数少ない人間だ。―ちなみにこの学校は、全寮制であり『衣食住を共にすることで学び合う』を教育理念の1つとしている。―

「もうすぐ期末テストだけど見返してやろうのとは思わないの?」


「ほっとけ、そのうちどうにかなる。」


中間テストの結果は、まぁ外れ値と言うやつだ。

それが原因で俺のコネ入学が疑われたのだが。(実際のところは違うが。)


「だいたい、勉強なんて何に役立つってんだよ。高校受験のために頑張ったじゃねえか。」


「ゴールは大学受験でしょう。そもそも、勉強の何が嫌なの?勉強は楽しいものでしょう。」


 もうダメだ、その言葉を聞いて俺は悟った。彼女(コイツ)に俺の心は理解できない。俺もそれなりに努力してきたつもりだがこの域に達することは出来なかった。学びを快楽と思う変人(天才)に話したのが間違いだった。


 その瞬間、後頭部に痛みが走る。雪がまたチョップしてきたのだ。しかも今度のはさっきより強く。


「痛っ、何すんだ」


「いや、なんか失礼なことを考えてそうな顔をしてたから。」


「顔で判断すんな!、見た目で決めつけちゃダメって幼稚園児でも知ってるぞ。」


「ハイハイ、そんなことより教えてあげるから、勉強して、この調子だと留年するよ?」


「ヤバくなったら本気出すから安心しろ。」


「全然安心出来ないのよ!」


「寿命縮むぞー、あ、コレ見せるの忘れてたわ。手伝ってくんない?」

そう言って俺は雑用(タスク)のお知らせを見せる。


「これの日付明日じゃない!!何でもっと早く見せないのよ。」


”タスク“とは一学期に1度くらい回ってくる警察の業務の中でも危険度が低いものをやらされ、その代わり学費と寮代が無料というリターンがデカすぎる策である。


 そして、この学校には、相棒(バディ)制度というものがあって、各人に一人相棒(バディ)を設定することでタスクに赴く際の万が一の事態に備えるためのものだ。

 だからタスクは二人一組でないとできず、俺の相手は(ゆき)である。そして俺は皆に嫌われている。

 これらを踏まえての最適解を導き出す。


「手伝ってください、お願いします!」


 俺は頭を下げて頼み込む。


 雪はため息をついて答える。


「いいけど、まったくそのやる気を勉強の方向に使った方が早いと思うんだけどなぁ。」


「あいにくと勉強に対するやる気持ち合わせてなくてな。」


「それで、何点くらい必要なの。」


「んーと、大体100点あれば安心だろ。」


「やっばりやめていい?」

「いい訳無いだろ、一度言った言葉を撤回するな。」


「だって、そんな阿呆なんてきいてなかった。クズ、外道!」


「悪いとは思ってるよ、雪は着いてくるだけでいいから。」


「いや、一度言ったからには手伝うわ、私も一度くらいやって見たかったのよ」

 ラッキー、雪が手伝ってくれるなら楽だな。



 受付に行き、仕事内容が書かれた紙を受け取る。




 それからしばらく俺達は毎日タスクをこなすために出かけていた。タスクに行っている間の授業は、欠席扱いにはならないものの、後で補習などをしてくれる訳では無いので空いた穴はもちろん自習で補うしか無い。



 最後のタスクをこなした帰り道

「よし、ようやく終わったな。」

「まったくよ、これでようやく少しゆっくり出来るわ。」


 そんなことを雪と喋りながらの学園への帰路、近くで叫び声が聞こえてきた。

「きゃー、誰か・・誰か助けて!」

 俺たちは顔を見合わせた後、声の方へ駆け出す。

 声の場所に着くと、そこでは、男が女にナイフを突きつけていた。

 それを見て、雪は能力を発動して男に膝蹴りを放つ。


 雪の能力は《強化(ブースト)》、ただ身体能力を向上させるだけの能力だが、単純な能力故に発動が早く扱いやすい代物である。

 男の持っていたナイフが雪の蹴りによって弾かれる。


「ちぃ、クソが。」


 男は自身の不利を察知するとすぐに逃げ始めた。

 女性のことを気にかけた雪の隙を突いた行動だった。


「雪、女の方(そっち)に付いて、警察呼んどけ。」

 そう言い残し、俺は男を追いかける。


 俺の能力は荒事にはあまり向いていない小手先の能力だ。だから出来れば雪に片付けて欲しかったのだが。俺は先回りして男の前に立ち塞がる。男は隠し持っていたナイフを取り出して、振り回しながら向かってくる。俺は男の足元に突起を作り出し、男を転ばせる。



 俺の能力は、《錬金術師(アルケミスト)》、物質を別のものに変えたり、形を変える能力(チカラ)だ。


 転んだ男の手足を道路を変化させて作り出したロープで縛っておく。

 近くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

「おい、後は警察に任せて帰るぞ。」


「え、でも警察が来るまで居なくていいの?」


「大丈夫だろ、男は縛っといたし。」


「えっと、それでも大丈夫ですか?」

 雪は女性に聞く。


「は、はい!、助けてくださりありがとうございました!あなたたちが居なかったらと思うと怖くて怖くて、本当に感謝してます」


「いえいえ、あなたが無事でよかったです。それでは」


 俺達はすぐにその場から離れる。


「ねぇ、大丈夫?顔の傷」

 

言われて頬を触ると、手に血がついた。気づかないうちに怪我したようだ。たぶん男が振り回していたナイフで切れたのだろう。


「別に痛くないから大丈夫だ。」


「一応、保健室に行きなさいね」


「ん、わかった」




 学校に帰って、俺達はタスク達成の報告をしに行った。

 今日の事については、説明が面倒だろうと報告しないことにした。報告したとしても、危険なことをしないようにと注意を受けただろうが。


 そして俺達は寮に帰る。


 この学校の寮は学校の所有する学校付近の住宅を()()で学生に貸し出すシェアハウスのようなもので、俺たちの寮は4人構成されている。また門限などの制限が無かったりしてかなり自由である。


 ちなみにバディ同士は親交を深めるため、同じ寮である。


「「ただいまー」」


「あ、遅かったな。」


「もぅ、何かあったのかと心配したよ。」

 心配してくれるのは、虎堂(こどう)龍之介(りゅうのすけ)美濃(みの)紗良(さら)、2人とも同じ寮のメンバーだ。


「悪い、ちょっとな。」


「別にいいけどよ、ご飯作ったから準備手伝ってくれ。」


「ちょっとは心配しろよ。」


 全く心配しようとしない龍之介にツッこむ。

 そのやり取りを紗良と雪が笑って見ている。毎日がこんな感じなので割と楽しんでいる。



 その夜、今日の事件が少しだけ取り上げられていた。2人組の学生が痴情のもつれで殺されそうになっていた女性を助けて、名も名乗らず去っていったと。彼らはヒーローだと。

 それを見て、雪は少し照れていた。



 そして翌日、俺は保健室で理事長である姉の八神(やがみ)杏華(きょうか)と向かい合っていた。姉はこの学校の理事長と養護教諭を兼任している。本人曰く生徒に寄り添ってあげたいからだそう。


「どうしましたか、理事長わざわざ呼び出して。」


「やめて、そんな他人行儀な呼び方、いつも通り"お姉ちゃん“って呼んで」


「そう呼んだことは一度もねぇよ!てか、さっさと本題に入れ。」


「そんなに身構えないで、ちょっと聞きたいことがあっただけだから。昨日、あなたたち女の人を助けたでしょう。」


「何で知ってんの?」

この姉は耳が早すぎる。


「昨日、ニュースを見て、うちの学生じゃないかと調べたら偶然あなたたちだったのよ。」


「何だ、表彰でもしてくれんのか?」


「逆よ、逆。名乗り出ないで欲しいのよ。あなたたち、男の手の骨を折ったでしょう。」


「そうだったっけ。……ああ、折れてたのか、悪い。」

 少し考えて、分かった。

 あの時か、雪が男の手からナイフを弾く時折れたんだろう。


「別にあなた達が悪い訳じゃないし、誰も責めはしないだろうけど……」


「分かった、雪にも言っとくよ。じゃあな俺も忙しいんだ。」


「待って、学校には馴染めた?、友達は出来た?」

 姉さんは矢継ぎ早に聞いてくる。


「そんなに心配しなくても大丈夫だ、姉さんがそんなんだから俺がコネだって言われるんだ、俺だってもう大人だ、ある程度は一人で出来る。」


「それでも心配なのよ。大事な弟なんだから。」

 その言葉を聞きながら部屋を出る。


「まったく、いつまで子供扱いすんなっての。」

 今日はなんだかいつもより暑いな。顔が火照って仕方が無い




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