帰ってくること回ること
シャボンソウの花言葉が頭をよぎる。
(『賢明な行動もあるよ』ってお父さんは教えてくれた。まさかお父さんは――)
思い至った直後、お母さんのカバンから音が鳴り響く。
眉をひそませたお母さんが音源を見ると、泡を食った様子で指をあてる。
少し会話して、ぼくたちに機械を見せてきた。
「ブロッケンの風にさらわれたよ」
機械からお父さんの声がして、お兄ちゃんの声も聞こえた。
ノートパソコンのおじいちゃんは何かを操作し、画面が真っ暗になる。
半分この画面は立ちあがり、片側はお父さんとお兄ちゃんを映す。
「検査するね」
お兄ちゃんは手にした機械の光をお父さんにあてていく。
音声がお父さんの身元と健康を告げたら、音を立てて煙を吹く。
「まだまだ改良が必要じゃな。さて、帰る手続きをするぞ」
「ねえねえ!聞いて聞いて!大ニュース大ニュース!」
公園から家に帰りすぐさま幼稚園に行くと、エリーちゃんが走ってきた。
「お兄ちゃんがね!お兄ちゃんがね!魔法使いになったの!」
天にも届く笑顔を輝かせ、エリーちゃんはぼくたちに話す。
その声は靴箱にいる慣らし保育を終えた子と会話するリン姉にも届く。
エリーちゃんのお兄ちゃんはつい先日みんなの側から魔法使いになった。
(幼稚園卒園まではみんなの側って、まるでドギーちゃんだね)
絡めた小指を見つめ、内緒の約束をした親友を思い出す。
「シイちゃんとミコトちゃん来たらすぐにこのこと教えるんだー」
魔に出会い検査中の二人の話をしていると、たまご組に先生が来た。
「皆さん、おはようございます。今日は合同保育がありますよ」
ぼくたちの通う幼稚園には年長さんや年中さんと交流できる。
年上として、年下として、世代や人種、言葉を超えて協調性を学んでいく。
合同保育のあと、エリーちゃんと一緒にお出掛けてお昼時間になった。
「光きらめく輝きは!鏡にあたり盾となる!」
「音色よ音色、音の色。奏で調べる旋律で雲をまわせて盾かくす」
エリーちゃんが唯一使える魔法に雲をかぶせて偽装していく。
盾は頑丈で、魔がいるお化け屋敷から飛んできた剣や斧さえ止める。
「わたしについた花が咲く!桜と桃が咲きほこる!」
おとねちゃんが魔法を使い、ドレスをぼくたちに見せた。
先ほどの魔法でドレスを見せたエリーちゃんと、笑みを交わす。
「おーい。今はホウキの時間だぞ。そうホイホイ使うのは控えような」
ミャリャウさんがぼくたちにやさしく声をかける。
「リンちゃん、シイちゃん、ミコトちゃん、今日はこれで五人目ね」
ミュリューさんが柔らかい声で教えてくれた。
(え!?ミコトちゃんも?誰かに見せたかったの?とっておこうよ……)
見つかった時を考えて二組に分かれよう、そうみんなと約束した。
「あとこれな。シイちゃんが魔法で作ったちくわ豆腐とフルーツのサンデー」
親戚のお土産から発想を得た新作を、ミャリャウさんから受け取る。
「エリーちゃんとおとねちゃんはついておいで。新しい宝石、いるだろ?」