海とみんなとできること
「飲み物が温かくなると中の炭酸は抜けていく。魔法の技術でそれを防ぐのよ」
小首をかしげることを簡単に言って、お母さんの話は続く。
「魔法は便利、魔法があればなんでもできる、だからついつい頼っちゃう」
お母さんが栓を開けると、プシュッと音がして泡が強くはじけだす。
「その心に魔はやってくるの。それを払うのが私たち、魔法使いのお仕事よ」
魔法が知れ渡ってからしばらくして魔が出てきた、と人形劇は語る。
人々は対応を開始し、少しして生活に溶け込んだ魔法が原因と分かった。
魔に操られるのが関の山のため毒を以って毒を制すから魔法使いが執り行う。
(お母さんやリン姉のお父さんが忙しいのは、魔のせいなんだね)
もしもお父さんが帰ってきたら、みんな楽になる。
今の世界が壊れ、新しい世界に変わっていく。
世界が平和になるように、流れ星に願う意味がようやく分かった。
(もっとできることを増やそう。お父さんが帰ってきたときのために)
魔のことも自分のことも、今なにがどこまでできるかを知っていく。
まずは自分の力、魔法に頼るのはそれからにしようとぼくは思い立つ。
「誰にだって魔はさすの。魔法使いは魔法を使うことに、みんなは魔法に、ね」
お母さんはコップとジュースをボッポウに渡す。
ボッポウはそれを分け、ロップールとポビーがおいしそうに飲む。
「この杖は戒め。魔法に頼りすぎる私たちへの、魔法を望む人たちへの」
お母さんは宝石のついた杖を手にしてぼくたちに見せると、言葉を紡ぐ。
「皆が持つ奢る気持ちと羨望を、生まれた杖でいましめにするってね」
ボッポウに杖を渡し、お母さんは大きく一回手を鳴らす。
「この合言葉を言ったら手を鳴らすの。合言葉、愛があふれる愛言葉って――」
お母さんが説明した直後に海の家に人が訪れ、挨拶を交わす。
「こんにちは、海の家の管理人さん。どうかなさいましたか?」
「こんにちは。その杖ケースを持った人を探している方をお連れしました」
魔法の杖のケースも役に立っているんだね、と自分のものに視線を落とす。
「私たちの子どもが一人迷子になりまして、手伝ってほしいのです」
紹介されたハマグリの精霊さんが、お母さんに状況を説明する。
「気をつけてね、アニーちゃん、おとねちゃん。ボッポウ、二人を頼んだわよ」
お母さんとエニシダの花に見送られ、ぼくたちは海に出発する。
オオオニバスの葉に乗ったぼくたちをエビや魚の精霊さんが引っ張っていく。
「確か魔法が見つかってから、精霊さんや妖精さんが見えだしたのよね」
「はい。つい最近のことですね」
「つい最近って……ぼくたちは昔のことって教わったよ」
もののとらえ方はそれぞれと、ハマグリの精霊さんは教えてくれた。
島に着くとイカリソウでできた錨をおろし、コエビソウのエビに船を任せる。
ハマグリの精霊さんに案内され、オバケアンスリウムの道を進む。
「汽水域はここまでで、ここから先は海に入ります」
サンゴバナでできたサンゴをかざし、ぼくたちはできた泡に入る。
お母さんが作ってくれた花とともに、今と同じ魔法使いの服に着替える。
「できること増やしていこうね、アニーちゃん」
「うん。一緒に学んでいこうね、おとねちゃん」
同じことを考えていて、ぼくたちは笑いあう。
バトンを受け継いだタツノオトシゴさんの精霊さんの案内され、泡は進む。